【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第50話 【新体制の幕開け】

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 カイルの加入、そしてミサトは村長からの打診を受け、湯ノ花の里は大きな転換点を迎えていた。
 
 翌朝、簡素ながら村の広場に人々が集められ、臨時の会合が開かれた。空には煙突から立ちのぼる湯気がゆらめき、山風が頬を撫でていく。

 村長は杖を突き、前に進み出ると、深々と頭を下げた。
「おはよう。……皆の者。この村をここまで大きく導いてくれたのは、ワシではなく、、ミサトだ」
 そう言って、村人たちの視線が一斉にミサトへと注がれる。

 ミサトは慌てて両手を振った。
「ちょちょ、待ってよ!そんな大々的に… 私はただ、思いつきと異世界で生きるために環境を良くしようと口にしていただけで……まだ考えてる途中ですよ!」
「い~やっ!その思いつきが湯を掘り当て、商売を興し、交易の芽を育てた。もはや、この里はミサトの才覚なくしては生きられぬ!“村長になれっ”!」

 ざわめきの中、ゴブ次郎やカイルまでが前へ出た。
「ボスっ!もう覚悟を決めてくれーー!オレたちも付いて行きますから!“村長になれっ”!」
「俺も、ミサトに雇ってもらうと決めた以上は、徹底的に支える。だったら……肩書きも必要だろう…“村長になれっ”!」

 人々の後押しを受け、ミサトは深呼吸を一つ。胸の奥が、熱い何かで満たされていくのを感じた。
「いやぁ……『村長になれっ!』って、私の事推しすぎだろ……うちわ振ってもファンサあげれないよ……。
 …はいっ!わかりました。私、ミサト。ここに『里長』を拝命します。私、“村長になるっ”!」

 その瞬間、拍手と歓声と笑い声が広がり、湯ノ花の里に新しい時代の幕開けが告げられた。

◇◇◇

 新体制のもと、ミサトはリリィと話し合い役割分担を進めた。
 村人の中から読み書きができる者を選び《商業部》を、ゴブリンたちには力を活かす《防衛部》を、そしてカイルには《情報部》を任せた。
 
 帳簿の整備、物資の管理、近隣村との連絡、、、
 小さな村が一気に会社組織のように動き始める。

 翌日、ミサトは集会所に机と椅子を並べ、里の有志たちを集めた。
「まずは役割をはっきりさせましょう。人数は少なくても、得意なことを活かせば必ず強くなれる」

 羊皮紙に線を引き、三つの丸を描く。
「《商業部》は交易や記録を担当します。帳簿を書ける人、計算が得意な人はここに」
 村長、エルナ、村の若者が二人、恐る恐る手を挙げた。彼らは都市で少し文字を学んだ経験があるらしい。
「じゃあ、村長とエルナを中心にお願い。あとはゴブちゃんたちも、数字と文字を読めるよう訓練していきましょうね~」
「ひ、ひぃ……数字…文字…難しいですかねぇ」ゴブ次郎が頭をかく。
「大丈夫、九九から始めればすぐできるよ」ミサトは笑った。

 次に、別の丸を指差す。
「《防衛部》は見張りと罠作り、もしものときの戦闘を担います。これはゴブちゃんたちが主力ね」
「あははっ!こっち方面は任せとけって!」とゴブ次郎が胸を張ると、他のゴブリンたちも一斉に拳を突き上げた。
 村人の中でも、狩猟経験のある者たちが加わり、部隊としての形が見え始める。

 最後に、三つ目の丸にカイルの名を書き込んだ。
「《情報部》はカイルが責任者。外の噂や商会の動き、道の安全状況を調べてほしい」
 カイルは真剣な顔でうなずく。
「あぁ、俺に任せろ。トーレルを辞めたとはいえ、商会での繋がりを使えば、港や都市の動きも拾えるはずだ」

 羊皮紙に三つの丸がつながり、一つの網のような図になっていく。
 ミサトはその中心に「湯ノ花の里」と書き入れた。

「……これが、私たちの形。みんなで支え合って、必ず生き残る」
 その言葉に、場の空気が一つにまとまり、村人もゴブリンも同じ方向を見始めた。

「こうして見ると、本当に企業みたいになっちゃったなぁ……」とミサトが呟くと、リリィが小声で囁いた。
『はい。ミサト。まさに孫子の兵法の“治乱を分かつは制度に在り”を地で行ってますね。組織化こそが戦いの第一歩です』
「うわぁ~!出たっ!孫子~! 本当にブラック企業にならないように気を付けないと…」

◇◇◇
 
 だが、浮かれてばかりもいられなかった。
 里の倉庫に残る穀物は一か月分ほど。木材や鉄も不足しており、建設計画も足踏み状態だ。
 その上、港町からの交易路はバルドン商会に押さえられ、物資は意図的に値を吊り上げられていた。

「……やっぱり正面衝突は避けられないな」カイルが苦い顔をする。
「でも…ボス。戦争始めるわけじゃないんでしょ?おっ始めるならいつでもオレたち行けるけど!」とゴブ次郎。
「行かなくていいって! えぇ、もちろん。私は暴力反対。こちらが勝つべきは商談と情報戦。物資をどう捻出するか……そこが鍵ね」
 ミサトは腕を組み、深く考え込んだ。資金も人手も足りない。だが諦めるわけにはいかない。

◇◇◇

 その夜、ミサトは仮設の執務室でリリィと向き合っていた。
「ねぇ?リリィ……私、正直怖いんだ。ここで私が失敗したら、里のみんなを飢えさせることになる」
 小さなキューブが静かに光を揺らす。
『はい。ミサト。怖がって当然です。ですが、覚えておいてください。危機とは同時に好機でもある。物資を餌に人を操るのは、歴史上幾度も繰り返された手。逆に言えば、それを逆手に取ればいいのです』
「んっ?逆手に?」
『ええ。現在、バルドンが独占しているからこそ、第三の供給源を見つけたときの衝撃は絶大です。かつてあのナポレオンも海上封鎖を逆利用して国内経済を回したと記録されています』

 リリィの言葉に、ミサトの瞳に光が宿る。
「それって……つまり、私たちも別ルートを築けばいい?ってこと?」
『はい。ミサト。多くは木を見て森を見ず。一本の木ばかり見ていると、森を見失いますよ』
 
 その瞬間、彼女の中に一つの決意が芽生えた。
 バルドンに屈するのではなく、超えていく。中途半端なスピードで走るから捕まるのだ。圧倒的スピードで湯ノ花の里を、誰にも縛られぬ拠点に育てるのだ。

◇◇◇

 翌朝、里の人々の前に立ったミサトは宣言した。
「湯ノ花の里は、この困難を必ず乗り越えます。私たちは必ず、新しい交易の道を開きます!」
 声は震えていたが、確かな熱を帯びていた。村人も、ゴブリンも、カイルも、それぞれに拳を握りしめる。

 その視線の先に、バルドン商会の影がちらついている。
 次に訪れるのは、避けられない正面からの対決。

 だが今度は違う。
 ミサトはもはや《ただの社畜》ではない。
 新たに《里長》となった彼女の背に、湯ノ花のすべての未来が乗っていた。


          続
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