【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第一章最終話 【決戦の帳簿】

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 夜の帳が落ちる頃、湯ノ花の里の集会所には明かりが絶えず灯っていた。
 商業部の若者たちが帳簿を広げ、計算式を走らせている。防衛部は外で交代制の見張りを立て、情報部のカイルは各方面から運び込まれる報告をまとめていた。

 中心に立つミサトは、額に汗を浮かべながら次々に紙をめくる。
「う~ん……バルドン商会の港倉庫は、今週で麦の備蓄が底をつく。南の船は遅れてる……つまり…」
『はい。ミサト。バルドン商会は必ずこちらから買うしかなくなる、ということですね。しかもタイミングも重なり、まさに経済の兵糧攻め。仕掛けていた政策がついに実りましたね。三国志で蜀が魏を相手にとった策に似ています。攻め時だと思います』

 ただ、湯ノ花の里にも余裕はなかった。
 物資の在庫は日に日に減り、村人たちの生活にも陰が差し始めている。
「ミサトさん~。干し肉があと三日分しか……」
「麦粉も底をつきますだ~……」
 報告が飛ぶたびに、集会所の空気は重く沈んでいった。

 だがミサトは、帳簿の一角を指で叩いた。
「大丈夫!まだ逆転できる。ここを見て。、、港周辺の薪炭価格」
 カイルが目を丸くした。
「……あっ、冬の寒波で炭が足りてない。バルドンは商人を買い叩こうとしてるが、情報では在庫はほぼ空のはずだ。
「そう。こっちが炭をまとめて流せば、港は逆に私たちに依存するよね!」

 瞬間、集会所にざわめきが走った。
「でも、湯ノ花に炭の備蓄なんて……」
「ふっはっはっ!!それが…あるんだなぁ~!」ミサトは笑い胸を張った。
「温泉開発のときに伐った薪、捨てずに乾燥させておいたんだよね!あれを樽詰めにして港へ回す。……問題は運送の安全だけど」
 そこにゴブ次郎が立ち上がる。
「おっしゃ!ボス!オレたち防衛部で護衛するッス! 罠も張るし、道の見張りも任せてほしいッス!」
 ゴブリンたちが次々に声をあげ、場の士気は一気に高まった。

 その夜明け、港の市場に山のように積まれた炭俵が現れた。
 バルドン商会の顔役が血相を変える。
「ば、馬鹿な……湯ノ花の里ごときが、こんな量を……!」
 港の職人や船乗りが群がり、炭は飛ぶように売れた。
 値は急騰し、バルドン商会の価格操作は崩壊する。

 さらにカイルの手配した噂屋が市場に流した。
「炭を抑えてるのは湯ノ花の里だ。バルドンは値上げを狙ってたらしいぞ」
 その言葉が広まるにつれ、人々の不満は一気にバルドンへと向かう。

 バルドン本部の会議室。商人たちが怒声を飛ばす。
「なぜ港の炭を抑えられんのだ!」
「このままでは信用が地に落ちる!」
 当主バルドンは唇を噛みしめ、机を叩く。
「……湯ノ花の小娘め。追い詰めたつもりが、逆に兵糧攻めを仕掛けてきてたのか?くそっ!どこまで目障りな女だっ!!」

 一方その頃、湯ノ花では商業部が徹夜で売上を計算していた。
「ミサトさん、炭の利益で赤字は全部補えました!」
「港の取引先から、新たに契約を結びたいとの申し出が!」
 村人の声に、ミサトは肩の力を抜き、深く息を吐いた。
「……やった~!これで湯ノ花は生き残れる」
 その声には、張り詰めていた不安と疲労が滲んでいた。

 彼女が集会所の椅子に腰を下ろすと、リリィがそっと光を落とした。
『はい。ミサト。あなたは追い詰められた状況でも、帳簿と市場を武器に戦った。まさに“経済を制する者が国を制す”を実践しました』
 
 小さなキューブは優しく光を瞬かせる。
『ふふ……まだまだミサトには私が必要ですか?』
 
 涙が滲むのを隠しきれず、ミサトは笑った。
「うん……もちろん!まだまだ、頼りにしてるよ。リリィ☆」
『はい。ミサト。喜んで☆』
 
 こうして湯ノ花の里は、一度は劣勢に立たされながらも逆転の一手で港の市場を制し、バルドン商会や地域商会を揺るがす存在へと成長した。

 夜が明けるころ、湯ノ花の里はまだ眠っていなかった。
 商業部は倉庫で最後の帳簿を閉じ、防衛部は夜通しの見張りを終えて火を囲み、情報部は書簡を抱えて駆けていく。
 それぞれの顔には疲労の色が濃いが、その瞳は輝いていた。

 、、、生き残れた。
 いや、それだけではない。湯ノ花の里は、ただ生き残ったのではなく、自ら道を切り拓いたのだ。

 広場に人々が集まり始める。子どもたちは笑いながら走り回り、農夫は肩の荷を下ろして安堵の息をつく。
 温泉の湯けむりが朝日を受け、金色に揺らめいた。

 その光景を見つめながら、ミサトはふと胸の奥が熱くなるのを感じた。
 この異世界に来たばかりの頃、何もできない自分に歯噛みして、ただ必死に働いていたあの日。
 あの時と比べれば、、、今は。

「……ねえ、リリィ。私、この世界に少しは役に立ててるかな??」
 問いかけに、リリィは優しく瞬いた。
『はい。ミサト。少し、ではありませんね。あなたはこの異世界の人々に生きる希望を与えました。人が集まり、仕組みが生まれ、未来へと続く道が拓かれました。
 ミサト。これはもう、ひとつの国の始まりです」

 国、、その言葉に、ミサトは思わず笑ってしまった。
「あははっ!大げさだよ。でも……悪くないね。あ~っ!でも、せっかく異世界に来たのに…なんだか働きっぱなしな気がするよぉぉぉ!“創造魔法”とかぶっ放してぇぇぇぇ!!」
『はい。ミサト。ストレスメーターの上昇を感知しました。創造魔法の使い方を検索します。………グー、グー、、』
「…おいっ!寝るなよっ!はよ検索しろっ!!あははっ」 
 
 そのとき、村の子どもが彼女の手を引いた。
「ミサト姉ちゃん! 温泉まんじゅう、もう一回つくって! みんなで食べたい!」
 無邪気な笑顔に、心の奥がほどけていく。

 ミサトはうなずき、空を見上げた。
 異世界に飛ばされた社畜OLが、ここまで来られたのは、ひとりではなかったからだ。
 リリィの知恵があり、仲間がいて、村の人々の信頼があった。

 彼女は改めて、胸の内で静かに誓う。
 、、、この場所を、守る。必ず。
 ここで生きる人々の笑顔が続くように、どんな困難があっても前を向いていこう。

 朝日が湯けむりを貫き、湯ノ花の里を照らす。
 それはまるで、新しい時代の幕開けを告げる光だった。


          続
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