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第16話 【森へ向かう決意】
しおりを挟むエルフ兵たちは信じられないものを見るようにミサトを見つめていた。
人間が、女王に直談判するなど、、
それは森の歴史において前代未聞のことだったからだ。
「……愚かだ。だが、確かに姫の意思を聞いた以上、我らには強引に連れ帰ることはできない」
先頭の兵は目を伏せ、やがてミサトに視線を向け直す。
「人間よ。もし本当に女王陛下と話すというのなら……その覚悟、我らが見届けよう。では…準備が出来次第森に入って来てくれ」
周囲に緊張が走る。
カイルが歯を食いしばり、ゴブ次郎が唸り声を上げる。
「ミサト……マジで行くのか? あの森に?」
「エルフの里なんて、人間が足を踏み入れただけで矢が飛んでくるんじゃ……」
「姫さんを返さねぇと、この里が狙われる……でも、ボスが行ってどうにかなるのか?」
村人とゴブリンたちのざわめきが広がる。
だが、ミサトは両手を腰に当て、きっぱりと言い放った。
「なるわよ! いや、なるようにするの! それが私の仕事だから!」
◇◇◇
会議はその夜、里の広場で開かれた。
松明に照らされた円卓に、ゴブリン代表のゴブ次郎、村人の若者数名、エルナ、そしてカイルが顔を揃える。
リュシアも、緊張した面持ちで同席していた。
「……ミサト。本当に行くんだな」
カイルが腕を組み、真剣な目で問う。
「えぇ。このまま放っておいたって、いずれもっと大きな衝突になるでしょ。だったら早めに根っこをどうにかしたほうがいいに決まってるでしょ?」
「わかった。……ミサト。一応言っとくけどな」
カイルが静かに言葉を続けた。
「俺はもう、ただの商人じゃねぇ。湯ノ花の里の一員だ。おまえが女王に挑むなら、俺もその責任を一緒に背負う。……勝手にひとりで抱え込むなよ」
その真剣な目に、ミサトは小さく息を呑んだ。
ゴブ次郎が頭を掻く。
「そりゃそうだがよぉ……女王ってのは、すげぇ怖ぇんだろ? そこら辺の村長相手じゃねぇんだぞ?エルフが本気を出したら一国相手だぞ…」
リリィが口を挟む。
『はい。ミサト。女王は絶対的権威を持つトップです。つまり“帝王学”における最重要プレイヤーです。ミサトの過去の経験、ブラック上司交渉スキルがフル稼働する場面ですね』
「こらっ!リュシアのお母様をブラック上司言うな!」
思わず大きな声を出してしまい、周囲に変な目で見られる。ミサトは慌てて咳払いした。
「と、とにかく! 私が行って、リュシアさんの想いを直接伝えるの。もし女王様が納得しないなら、そのときは……また別の方法を考えるわ」
リュシアは涙ぐみながらミサトの手を取る。
「ミサトさん……わたくしのわがままに、ここまでしてくださるのですか……?」
「わがままなんかじゃないわよ。未来を変えたいって気持ちでしょ? 私だって似たようなもんだし」
そう笑いかけると、リュシアは両手を胸の前で固く組み、かすかに震えていた。
「ありがとう。ミサト。……母上に逆らうのは、わたくしにとっても恐ろしいことです。幼い頃から“森を出てはならぬ”と叩き込まれてきましたから……」
リュシアはミサトを見つめる。
「でも今は、怖さよりも……あなたと共に進みたいという気持ちの方が強いのです」
◇◇◇
翌朝。
霧深い森へと続く街道に、少数の一行が立っていた。
ミサト、カイル、ゴブ次郎、ゴブ三郎、そしてリュシア。
同行人数の少なさにエルナや村人は反対したが、ミサトの強い意志に押され、最小限の護衛だけで行くことに決まった。
「一応手土産の温泉まんじゅうは持ったけど……はぁ……胃が痛い…」
ミサトはお腹を押さえながら溜息をつく。
『はい。ミサト。 これは遠足気分ではなく外交任務ミッションです。緊張感を持って挑みましょう。温泉まんじゅう気に入って頂けるといいですね』
「うわ~ん!そんなこと分かってるわよ! でも足がすくむのよ!」
「へっへっへ~、、ボス、足震えてんぞ~?」
ゴブ次郎がにやにやと笑う。
「このっ!わ、笑うんじゃないの! 私は交渉のプロ……?だよ!元社畜OLなんだから!私の実力見てきたでしょ!!あんたたち!!」
カイルが苦笑しながら肩をすくめた。
「まぁ、見てはきたけど……それにプロって言っても、相手は女王だぞ? おまえの“会議室スキル”とやらがどこまで通じるか、見ものだな」
「はぁ~!私のスペシャルトークが会議室スキルって何よ!? ……いや、待って。案外合ってるかもしれない……」
ミサトがぶつぶつ言う間にも、リュシアは森の方をじっと見つめていた。
その瞳は、不安と決意が入り混じっている。
「母上は……きっと、簡単には納得なさらないでしょう」
「んっ?大丈夫だよ。なんとか説得してみせる」
ミサトは拳を握り、空に突き上げた。
「元社畜OLの交渉力、見せてあげるんだから!」
ゴブ次郎とカイルが同時に突っ込みを入れる。
「社畜自慢すんな!」
「ボス!誇るなよそんな経歴!」
リュシアだけが小さく笑い、肩の力を抜いた。
ミサト一行は、そんな会話をしながら、どんどんと森の深みへと足を踏み入れていた。
だが道中は、緊張と緩和が入り混じる奇妙な空気だった。
「なぁ、ボス……エルフの森って入っただけで呪われるとか聞いたことあるんだけど……」
「えぇーー!?誰情報よそれ!? ゴブ三、あなた都市伝説に弱すぎ!てか、それ本当??」
「うぅ、でも、空気が冷たいし……なんか見られてる気がする……」
『はい。ミサト。見られてますよ。エルフの偵察兵に』
リリィがさらりと言い放ち、ゴブ三は悲鳴を上げた。
「うわあぁぁーーっ!ほらっ!やっぱ呪われるんじゃんか!」
「落ち着け!サブ! 呪われる前にお前がうるさくて弓で射抜かれるぞっ!」とゴブ次郎が怒鳴る。
一方でカイルは、ひとり険しい顔をしていた。
「ん~なんだか……それにしても、森の入り口でこうも静かとは。普通なら牽制の矢ぐらい飛んでくるもんだが……」
「やだやだっ!そんなリアルな心配やめて!怖くなるじゃない!」ミサトは顔を引きつらせた。
リュシアだけは落ち着いた様子で、森の風に耳を澄ませていた。
「……聞こえます。木々の声。歓迎でも拒絶でもなく……ただ、見定めようとしている。ふふ、もうそろそろ着きますよ」
その言葉に皆が口をつぐむ。
そうして緊張の中にも妙な掛け合いを交えながら、一行はついに、、エルフの森の荘厳な入り口へとたどり着くのだった。
◇◇◇
一行はエルフの森の入り口で足を止める。
そこには、昨日のエルフ兵たちが待ち構えていた。
「人間よ。我らが案内する。女王陛下のもとへ」
冷たい声が響く。
ミサトはごくりと唾を飲み込み、息を整えた。
この先には、女王との直接対決が待っている。
もし失敗すれば、里が戦火に巻き込まれる。
『はい。ミサト。確率的には、あなたが口を開くごとに状況は悪化する可能性も高いです』
「いやいや、励ますどころか不安煽ってどうすんのよ!」
そんな漫才のような掛け合いをしながらも、、
ミサトの目は、もう迷ってはいなかった。
「よし。行こうか!」
そう呟き、ミサトたちは森の奥へと足を踏み入れた。
湯ノ花の里を背にして。
仲間たちと共に。
そして、エルフ女王との対話という、未知なる大舞台へと。
続
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