【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第18話 【エルフ女王と会議室スキル】

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 樹の宮殿。その扉が、軋むような低い音を立てて開いた。
 森の匂いが一層濃くなる。甘く、どこか重苦しい芳香が胸にまとわりつく。

 湯ノ花の一行が足を踏み入れた瞬間、全員が言葉を失った。
 そこはまるで自然そのものが作り上げた大聖堂。天を突くほどの幹の内側をくり抜いた空間で、光が枝葉の隙間から差し込み、床一面の苔を神殿の絨毯のように照らしていた。

 その奥、広間の中心に、、。
 一際大きな根に腰掛けるように、女王がいた。

 緑銀の髪は泉のように流れ、薄衣の裾は木漏れ日に透けて輝く。
 ただ静かに座しているだけで、圧倒的な支配力が周囲を満たしていた。

「……っ」
 思わずミサトは息を詰める。胃のあたりがきゅうと痛む。

『はい、ミサト。帝王学的に言えば“初手は沈黙”です。今は余計な言葉はすべてマイナス点になります』
(うぅぅ……胃痛で沈黙なら自然にできる……)

 女王の瞳が、一行を見渡す。その視線だけで氷の刃に貫かれたようだった。

「娘を、連れ戻してくれたことには礼を言う」
 声は澄んで美しいが、微塵の揺らぎもない。
「だが……人間よ。ゴブリンよ。森を穢す異形の者ども。お前たちの存在はこの地に不要だ」

 ゴブ三郎が喉を鳴らした。
「グルル……やっぱそういう感じか」
「ちっ、聞いてた通りだな。耳長は結局、俺たちを虫けら扱いかよ」ゴブ次郎が牙を見せかける。

「待ってください!お母様!」
 リュシアが一歩前に出た。声は震えているが、その眼差しは揺らがない。
「彼らは見ず知らずの私を守ってくれました! 森を傷つけず、仲間を守り、誇りを持って生きる人たちです!」

「リュシア……」女王の声が低く沈む。
「お前は幼きがゆえに、幻想を抱いているのだ。この森が生き永らえる道は、外界を遮断し、純血を守ることのみ」

「お母様、違います!」
 リュシアの叫びが広間に響く。
「このままでは閉じた森は、いずれ滅びます! 外の世界と繋がり、互いを知り合わなければ……! 私は、未来を信じたい!」

 宮殿の空気が張り詰めた。母と娘、二つの思想が真正面からぶつかり合う。

 ゴブ次郎が苛立たしげに呟く。
「おいボス……これ、場が爆発するぞ」
(やばいやばいやばい! 私は胃がもう限界突破しそう!くそっ、え~い!言ったれっ!!)

 ミサトは一歩前に出て、両手を広げた。
「は~い! すいませんけど……ちょっとここで整理入りま~す!」

「……?」女王がわずかに眉をひそめる。
「人間が女王に向かって何を、、!」エルフ兵が声を荒げたが、リュシアが制した。
「みんな待って。ミサトの言葉を聞いて」

 静まり返る大広間。ミサトは顔に笑顔を貼り付け、心臓を押さえながら声を張った。

「はい。え~、この聞いて頂ける状況を作って頂き、ありがとうございます。ここまでの女王様とリュシアさんのご意見、まとめますね!」
 彼女はまるで会議室でフリップをめくるかのように、手振りを交えて話し出す。

「女王様のお立場は『森を守るために外を拒む』。つまり《安全保障重視》ですね。
 リュシアさんのご意見は『外と繋がることで未来を開く』。つまり《発展と交流重視》です」

 ぽかんとする兵士たち。カイルとゴブリンたちは「はは…また始まったな」と苦笑い。

『はい。ミサト。ナイスです。帝王学的には“対立を価値観レベルに翻訳”するのが最初の手です。この路線で進めて行きましょう』
(よし、リリィも太鼓判……!)

「で、で、ですね! この状況、両方とも目指しているゴールは、なんと!実は同じなんです!」
 ミサトは胸を張る。
「《森と民の繁栄》! ね、ここは一致してますよね?」

 沈黙。だが、誰も否定できなかった。

「守ることも大事。未来を開くことも大事。だったら、二つをどう両立させるかを考えましょう! 勝ち負けを決めても仕方ありません!」
 ミサトは思わず、会議進行の口調そのままに締めた。
「結論!ここは《引き分け》です! 次に進みましょう!」

 ゴブ次郎が「くっくっ!また引き分けかよ……」とぼやき、三郎が肩をすくめる。
 だがリュシアは必死に頷いた。
「そうですお母様! 私は、敵対するのではなく、お母様と繋ぐ道を探したいのです!」

 女王の瞳が鋭く光る。
 しばしの沈黙。やがて、静かに口を開いた。

「……人間。お前の言葉は不遜でありながら、不思議と筋が通っている」
 その声は冷たいが、微かに揺らぎを帯びていた。
「ならば問おう。お前は、この森の未来をどう導くつもりだ?」

 突き刺さる視線。
 ミサトは胃を押さえつつも、深呼吸して答えた。
「私は……元社畜OLです! でも、だからこそ、会議室で培った調整力で、誰も取り残さずに進めると思っています!」

 女王の唇がわずかに歪む。笑みとも冷笑ともつかぬ表情。
「シャ…チク…、、 面白い……ならば見せてみよ。そのシャチクの力とやらを」

 広間の奥、荘厳な根の間に淡い光が灯った。
 次の瞬間、女王の声が響く。
「試練を課そう。森と世界を繋げるに値するか、証明せよ」

 張り詰めた空気に、ゴブリンたちがざわめき、リュシアが息を呑む。
 ミサトは胃を押さえつつ、リリィに心の中で問いかけた。
(ねぇ……?リリィ……?試練とか言い始めちゃったけど、、なんかこれ、めっちゃ無理ゲーの空気じゃない?)
『はい。ミサト。大丈夫です。社畜会議に比べれば、命がけの試練など“楽勝”です』
(むきぃぃぃぃ!!全然楽勝に聞こえないよぉぉ!!)

 こうして、女王の試練が幕を開けようとしていた。


          続
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