【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
102 / 179

第50話 【国王、前線へ。揺らぐ士気と迫る影】

しおりを挟む

 二十日、、、
 国王の軍勢が湯ノ花の里を取り囲んでから、すでにその日数が過ぎ去っていた。

 兵士たちの顔には深い疲労の影が刻まれ、槍を握る手は細く痩せこけていた。戦場に立つよりも、彼らの心は今や「腹の虫」との戦いに費やされている。
「くっ……また干し魚かよ…」
「なんだこれ…豆のスープも薄すぎる。これじゃ体がもたねぇ」
「麦の粉はどうしたんだ?荷車が来なくなったのはもう五日目だぞ」

 ぼやきは鬨の声よりも大きくなり、行軍の足音よりも重く耳に響いた。兵たちは互いに目を逸らしながら、ただ矢の雨を避け、城門に迫ろうと槍を突き出す。だが、その突撃はいつも途中で折れ、エルフたちの精密な矢に足を止められ、ゴブリンたちの押し返しに弾かれて終わる。

 不思議な戦いだった。敵は殺さぬ。だが国王は決して退かせぬ。兵士たちは疲労と空腹に蝕まれながら、突破できぬ壁に延々と額を打ち続けていた。

 そして、ようやく国王の耳にもその異変が届いた。

「あぁん?!……何だと?」
 王の顔がみるみる赤く染まった。
「兵糧が届かぬだと?荷車はどうした?麦は?豆は?肉は?補給係は何をしているっ!!答えろ、この無能どもっ!」

 副官が恐る恐る答える。
「は、はい……連絡が途絶えておりまして……どうやら港で何らかの滞りが……」

「んぐぐぐっ!!馬鹿を言うなぁっ!」
 怒号とともに副官の頬に拳がバチンと叩きつけられた。骨のきしむ音がして、地面に転げる副官。兵士たちは凍り付いたように目を伏せる。
「補給が滞るなど有り得ん! そもそもまだこんな小さな村一つ攻め落とせんのは、貴様らが怠けているからだ! ちゃんと魚鱗の陣を組めと命じたはずだ! 我が魚鱗は天下無敵! なぜ突破できぬ!それは貴様らが無能だからだっ!!」

 王の怒声は風よりも鋭く、雨よりも冷たく兵士の背に突き刺さる。だがその声に、もはや奮い立つ者はいなかった。

「よい……もうよいぞ。貴様ら無能どもでは埒が明かん。我が行く!」

 その一言に兵士たちはざわめき、次の瞬間、血の気を失ったように青ざめた。
「ま、まさか……国王が自ら前線に……?」
「終わった……」
「我らの王は……狂ったか……」

 王が自ら剣を取る、、それは古来から《勝利の象徴》とも《死に体の証》とも言われてきた。だが今この場にいる兵士たちの心には、後者の意味でしか響かなかった。

◇◇◇

 その頃、湯ノ花の城壁の上では。

 ミサトは固く腕を組み、温泉まんじゅうを食べながら敵陣を見下ろしていた。
「んんっ??……また来てるね。何度目だろう、あの突撃」
 矢を射るエルフたちの背で、ミサトの目は鋭く光っていた。

 ポケットの中で小さな光が揺れる。リリィの声が響いた。
『はい。ミサト。補給は確実に滞っています。兵の動きも鈍っていますね。あと一押しで崩壊が始まるでしょう』

「あと一押し……ね、、よしよし、、うん……。こっちもあっちも作戦通りなら三十日が限界なはず……残り十日……耐え切れれば……」
 ミサトは自分に言い聞かせるように呟いた。

「ねぇ?カイル?湯ノ花の備蓄は?」
 帳簿をめくったカイルの眉間に皺が寄る。
「あぁ、予定通りあと十日だな。長引けばこっちが干上がる」
「うん……やっぱりね…はは」ミサトは淡々と答えた。
「やっぱりねって!笑ってる場合かよ!俺はハラハラが止まらねぇーぞ!」
「うん。私もだよ、カイル。でも計算通りだよ。あと十日で向こうの兵糧は完全に崩れるはず。その前に国王が焦って顔を出すでしょ。そうなれば私が前に出て交渉するっ!!はいっ!仲直り!戦争終わり~!みんなでご飯食べましょう♪……ってなるかな??あはは…」
 カイルは額を押さえて苦笑した。
「あははって……完全に博打だな……だが、ミサトの賭けは今まで一度も外れちゃいない…それに賭けるしかないな…」

 矢を射続けるエルフの弓手、兵士達を押し返すゴブリンたち、石を積み直す村人たち。人々を癒すリュシアとエルナ。その誰もが疲弊していた。だが、その目には光が宿っていた。
 殺さず、退かせるだけ。それでもここを守り抜く。
 
 誰一人、無駄に死なせない、、ミサトが掲げた方針は、彼らの心を確かに繋いでいた。

「リリィ?……あと少し、あと少しだよね?」
『はい、ミサト。もう少し、もう少しで勝利が見えます』

◇◇◇

 さらに遠く、高台に陣取る二つの影。

 リュウコク王子は双眼鏡を覗き込み、にやりと口の端を歪めた。
「ククッ……見てよ、カリオス。あのバカ親父、ついに自分で泥をかぶる気になったよ」
 隣で腕を組むカリオスは渋い顔をする。
「だが、王が自ら剣を取れば兵の士気も、、」
「あははっ!ハズレ。逆だよ、カリオス」
 リュウコクは双眼鏡を下ろし、空を仰いで笑った。
「これは死に体の証だ。兵はもう誰もついてこない。王が動くのは、もはや最後の足掻きにすぎない」

 風が吹き抜け、兵士たちのざわめきが高台まで届いてくる。
「うぅぅぅ、腹が減った……」
「なんで俺たちが……」「こんな村、ほっとけばいいのに……」
 呻くような声を聞きながら、リュウコクの目は鋭く光った。
「よしっ!時は来た。……カリオス、さぁ!国を貰いに行くぞ!」

 その声は風に乗り、戦場の空を震わせた。

◇◇◇

 魚鱗の先頭に立つ国王は高々と剣を掲げた。
「我が先陣を切るぞ! 突撃ぃぃぃっ!」
 しかしその背を追う兵たちの声はか細く、槍の列は乱れ、足取りは鈍い。

 城壁の上でミサトが息を呑んだ。
「……国王が来る!」

 同じ瞬間、高台からリュウコク率いる二百の私兵が、ゆっくりと、だが確実に戦場へと下り始めていた。

 戦場の空気は、ついに最高潮へと張り詰めていく。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...