【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第49話 【兵糧無き戦場】

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 十日、、
 国王の軍勢が湯ノ花の里を包囲してから、すでにそれだけの時が過ぎ去っていた。

 城壁の外では、魚鱗の陣を組み直した兵士たちが幾度も押し寄せ、弓矢と石を浴びせ、鬨の声を上げ続けた。だが城門はびくともせず、矢の雨に応じるようにエルフたちの精密な一射が、常に地面すれすれへと突き刺さり、兵士らをじわじわと押し返す。

 突撃を指揮する兵隊長は顔を歪め、時に叫び、時に兵を叱咤するが、誰ひとり敵の首を上げることができない。
 それは異様な籠城戦だった。

 湯ノ花の里は、首を甲羅に引っ込めた巨大な亀のように、ただ防御に徹している。殺さぬ矢。殺さぬ槍。殺さぬゴブリンたち。だが確実に押し返す力。
 それは兵士たちに《決して突破できぬ壁》としての印象を深く刻み込んでいった。

 一方、国王はと言えば、、、
「なぜ突き崩せぬ!お前らふざけてんのかっっ!! 魚鱗の陣を組めと命じただろうが!我が魚鱗は天下無双だぞっ!お前たちのやる気がたらんのだろうがっ!!」
 叱咤は次第に怒号に変わり、近くに居た兵を殴り飛ばし、ひざまずく副官に唾を吐きかけた。
「この無能ども! 城門を叩き割るまで休むことは許さん!夜も眠らずに戦えっ!」
 兵士らは疲労困憊の顔を伏せたまま、なお槍を構える。恐怖は敵からではなく、自らの王から降り注いでいた。

 だが、その苛烈な城門攻防の裏で、、もうひとつの戦場が動いていた。

 港町、、
 ルディアは机に広げた密書を握り締めていた。ミサトから届いた短い依頼文。

【食料をすべて他国へ回してほしい。損害は後日、湯ノ花が全責任を持つ】

 彼女は静かに笑んだ。
「ふふふ。また無茶な事してんだ…。そして本当に無茶を言う……でも、あなたの頼みならやってみせる」

 かつて共に戦った記憶が背中を押した。
 
 彼女は商人の会合に乗り込み、強引に交易路を閉ざし、倉庫の出荷を止め、港を抑える。まるで蜘蛛が網を張るように、国への食糧の流れは少しずつ細く、細く締め上げられていった。

 港町の一角。ルディアは帳簿を広げ、素早く羽ペンを走らせていた。
「この倉庫は閉鎖。小麦は隣国へ回す。荷車の順番は逆に、、、」

 彼女の指示に商人たちがざわめく。
「いやいや、、それじゃ、だが、国王の軍への納品が……」
「詳しいことは知らないわ! でも私が責任を持つ。後で湯ノ花が全て払うと、ミサトが言っているの!」

 その瞳には迷いがなかった。かつて戦いの中で共に立ち上がったミサトの言葉。その信頼だけが彼女を突き動かしていた。

 買収されかけた役人を言葉巧みに丸め込み、港の荷役に賄賂を渡し、あらゆる経路を塞いでいく。やがて兵糧の流れは目に見えて細くなり、国都の市場からは麦粉と豆が消えていった。

「ふぅ~、、何とか上手くいったかな?……ごめんなさいね、兵士たち。けれど、これは無駄な血を流さないための戦いのはず…。どうか耐えてください」

 ルディアは夜の海を見つめ、固く拳を握った。

◇◇◇
 
 その異変に最初に気付いたのは、王子リュウコクだった。

 戦場が見渡せる高台に陣取るリュウコクとカリオス、、
 リュウコクは双眼鏡を片手に、笑いを堪えきれず吹き出した。
「ぶっ、、あははっ……! バカ親父、まだ気付かないのか!」
 傍らで腕を組むカリオスが怪訝そうに眉を寄せる。
「んっ?……どうした?なんかあったのか?」
「お前も見ろよ。可笑しいよ!兵たちの顔だ。突撃よりも飯の心配をしてるみたいだよ!あははっ!」
「うむっ、……確かに、飯の供給が滞っているようだな…何でだ?何で気付かない?」
「はははっ!兵を見てないからだろ?ようするにだな、湯ノ花は戦場にいながら国全体を兵糧攻めにしてるんだ。外で殴り合いをしてるのに、中で首を絞められてる。こんな笑える戦なんてあるか?」

 リュウコクは腹を抱えた。
「僕がバカ親父の立場ならこの状況、三日で気付くぜ。それを十日も気付かないとは……この戦、このまま続けば湯ノ花の勝ちはもう決まったようなもんだ…。やっぱりとんだ食わせ物だな!あの女…」

 カリオスは渋面を作る。
「……だが、、リュウコク。あの国王は退かないぞ…。ここで兵を退けば、逆に己の権威を失うからな」
「くっくっ。だから詰んでるんだよな~。 カリオス。湯ノ花は“この場で戦ってない”。ただ待ってるだけで国が干上がるんだ…。ふふっ、あー可笑しい! このままなら勝負は決まった様なものだな…。 では、こちらもそろそろ準備をしようか…?」
 そう言うとリュウコクは不気味に笑った。

◇◇◇


 その頃、城壁の上では。
 ミサトが腕を組み、空を見上げながらぽつりと呟いた。
「ねぇ、、?……港が動いてくれたなら、そろそろだよね? リリィ?」

 光の粒子をまとったキューブがミサトのポケットで光る。
『はい。ミサト。ええ、私が見る限り軍の補給は明らかに減ってきています。外では国が痩せ細っていってますね。あとは耐えるだけです』
「ん~……でもさ、こんな戦い方でいいのかな。みんな傷付けずに済むのは嬉しいけど、お腹ペコペコも悲しいよね……。これが正しいのか不安になるよ」

 リリィはふっと笑った。
『はい。ミサト。食いしん坊の貴女には耐えられないでしょうね。では、元気が出る話しを一つ。クラウゼヴィッツはこう言っています。“戦争とは、他の手段をもってする政治の延長にほかならない”と』
「政治の……延長??」
『はい。ミサト。剣を振るうことと同じくらい、いやそれ以上に、食糧や交易を握ることが戦を決する。ミサトは剣を抜かずに国を動かしている。今のミサトはまさにクラウゼヴィッツ型の指揮官です』

 ミサトは肩をすくめた。
「え~本当に~♪国を動かすとか~、指揮官とか~、立派な里長とか~、、リリィにそう言われると……なんか誇らしいんですけど~♪」
『はい。ミサト。何か気持ちよさそうですね…あと立派な里長とは言ってません。ですが自信を持ってください。勝利は、もうすぐそこです』

 ミサトは静かに拳を握った。
「うん!三十日……三十日あれば、きっと何とかなる。そこがタイムリミット……! あぁぁ~!もう上手くいってよぉぉぉ!」

 湯ノ花の籠城戦は、剣よりも鋭い《兵糧の刃》で国をじわじわと追い詰めていた。


          続
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