115 / 179
第10話 【二つの舞台、交差する決意】
しおりを挟む風が石畳をなで、松明の灯りが揺れていた。
フードを被ったリュウコクが歩みを止め、背後の影に声を投げる。
「さぁて……そろそろ行くか??」
鎧に着替えたカリオスが眉をひそめる。
「んっ?どこにだ?」
リュウコクは無邪気に笑い、遠くにそびえる煌びやかな宮殿を指差した。
「あははっ!決まってるだろ。あの成金野郎の巣窟さ」
カリオスは溜息をつき、剣の柄に手をかける。
「ぶはっはは!……命知らずめ」
「僕の命よりラインハルト国の未来の方が重い。行こう、カリオス」
◇◇◇
煌めくシャンデリアの下、金と香の匂いに満ちた大広間。
アルガスの交易王、、バレンティオが、悠然と玉座に腰掛けていた。
「……ほう。ラインハルト新国王自らのご登場とは、なかなか粋な計らいではないか」
彼の声は柔らかいが、瞳は氷のように冷たい。
堂々とフードを脱ぎ、国王の様な服に着替えた青年。リュウコクは、片手を胸に当てて微笑んだ。
「急な訪問、失礼します。アルガスの繁栄を聞き及び、ラインハルト新国として、まずはご挨拶をと思いまして」
「ふふ、これはこれは。ご丁寧に。……そして?」
「ええ。近々、友好の証として“贈り物”をお届けしたいと思います…」
バレンティオの口元が僅かに上がる。
「…贈り物、か……。金か、それとも血か?」
「ふふふ、どちらも等しく重いものですが、、。私はアルガス国に“未来”を贈りたいと思っています」
「んっ?未来とは?」
「ええ。アルガス国とラインハルト国の商業が百年続く未来を。そのためには今のままラインハルト国と取引している物価の価格では…、、いずれ“衝突は避けられない”かと……」
「“衝突は避けられない”…か。……新王よ……。それは脅しか??言葉一つ違えばこちらからも“贈り物”をせねばならぬな…」
「“贈り物”ですか……。互いの利益になれば喜んで受け取らせて頂きますが……?」
互いに笑顔を崩さぬまま、言葉が刃のように交差していく。
「まぁよい!堅苦しいのも何だ!飯でも食いながら話そうじゃないか!取引するだろう商人達も交えてな!!」
バレンティオの一声で豪奢な宴が始まった。音楽と杯の音の奥に、見えない戦いの火花が散っていた。
◇◇◇
一方その頃、、、
石畳の路地を、ミサトが全力で駆け回っていた。
「リリィ!こっちで合ってる?? もーっ!あの馬鹿王子どこ行ったのよ!? こっちは二日酔いで頭ガンガンしてんのに!走らせんなって!!」
『はい、ミサト。追跡モード起動。失敗。位置情報ゼロです』
「ぷぎぃぃぃ!ダメじゃんリリィ! あーもうっ!どこ行ったんだよ?あのストーカー野郎!! あっ?これじゃこっちがストーカーか??」
と、暗い路地の背後から声が飛んだ。
「ひっひっ!おい嬢ちゃん。いい走りっぷりだなぁ~」
振り返ると、数人のガラの悪い男たちが路地を塞いでいた。
金歯を光らせ、刃物をちらつかせる。
「お嬢ちゃんお金持ってそうね~?? 金を出して死ぬか、金を出さずに死んでから奪われるか、、どっちがいい?」
「ふぁっ?!それ……どっちにしろ死ぬじゃん!?」
『はい。ミサト。ほら、必殺パンチの出番ですよ。王子を殴ったあのラッシュ、お願いします』
「えっ?あの時のことめっちゃイジるじゃん!!いや無理無理無理! あの時は勢いだったの! 私、ほんと喧嘩したことないんだからぁぁ!」
『はい。ミサト。では真面目に現在の状況を…。危険度、非常に高い。……死にますよ?』
「うん。私もそう思ってる…!マジでヤバくない…??」
じりじりと迫る悪党ども。短刀が月明かりを反射して鈍く光った。
「あぁぁぁぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!!も、もうダメだぁぁぁ!」
その時、、豪快な笑い声が響いた。
「アハハッ! 三下共が何やってんだよ!ダチがこまってんじゃねぇかよっ!!」
路地の奥から現れたのは、赤いスカーフをなびかせた女船長、、マリーだった。
腰には酒瓶、背中には大きな剣を背負っている。
「あたしはね、一緒に飲んだらもうダチなんだよ。だからダチが困ってたら守るのは当たり前だ!」
次の瞬間、ドゴンッと鈍い音。
マリーの拳と剣の柄で、チンピラたちはまとめて吹き飛ばされた。
「ひぃっ! こ、こいつは“赤狼マリー”だ! 敵うわけねぇ!逃げろぉ!」
男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
ミサトは腰を抜かしながらも涙目で笑った。
「ぶ、ぶ、ぶひぃぃぃひぃ……た、助かったぁぁぁ……!ありがと~。命の恩人!」
「ハッハッハッ! お前面白いな! また行くぞ、酒だ酒! 話したいこともある!」
半ば強引に引きずられるように、ミサトはマリーの行きつけの酒場へ。
◇◇◇
グラスが並ぶ木のテーブル。
マリーは豪快に酒を煽りながら、低い声で語り始めた。
「ここアルガスはな、商人どもが寄り集まって作った国だ。表は煌びやかだが、裏は腐っちまってる」
「腐ってる……?」
「ああ。港は利権だらけ。海賊は使い捨て。だが、盗品だろうが、略奪品だろうが何でも買い取る。でもな、儲からなくなったらポイだ。……それをまとめてるのが、あの交易王バレンティオってわけだ」
マリーの拳がテーブルを叩く。
「だからよ、あいつに逆らえば誰だって潰される。だけどよ!私は認めねぇ。海の掟はそんなに安くねぇ!」
ミサトは拳を握りしめた。
「……そっか。じゃあ……私も手伝える事は手伝うよ。命も助けてもらっちゃったしね…」
リリィの声が響く。
『はい。ミサト。フラグが立ちました。戦闘ルート確定です』
「ちょ、ちょっとやめてぇぇ!……マジ??」
だがその顔には、決意の光が宿っていた。
◇◇◇
同じ頃、大広間では、、、
杯を傾けるリュウコクとバレンティオ。
笑みを交わしながら、言葉の矢を撃ち合っていた。
「金で治めるか、血で治めるか……か? どちらも歴史に名を残す方法をお考えなんですね…?」
「ふふ、あぁ、けれど忘れてはいけないんだ。“民”は血も金も持たない。ただ私に渡された未来を望むだけだ…」
やがて音楽が終わり、宴が一区切りついた。
リュウコクは杯を置き、静かに言った。
「アルガスは強いんでしょうね…。けれど、、必ず“贈り物”を贈らせてもらうとするよ!」
その言葉に、バレンティオは僅かに目を細め、笑った。
「ほう……。面白い。せいぜい楽しませてくれよ、“ラインハルトの坊ちゃん”」
視線を合わせる二人の宮殿の夜は、深く静かに燃え始めていた。
◇◇◇
街の二つの場所で、二人の決意が生まれた。
一つは王として。
一つは仲間として。
やがて交わるその時、アルガスの運命が大きく動き出す、、。
続
10
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。
同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。
16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。
そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。
カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。
死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる