【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
114 / 179

第9話 【策士たちの夜】

しおりを挟む

 酒場で散々に騒いだ夜。
 アルガスの街はまだ喧噪を残していたが、港から少し外れた宿は静けさを取り戻していた。

 その廊下を、一人の青年が足音を忍ばせて歩いていた。背中には、豪快に大イビキをかく女。
 リュカ、、いや、リュウコクは、肩を揺らされるたびに苦笑していた。

「ふふ。まったく……君ってやつは……。どこまで可愛いんだか…」
 酔い潰れたミサトは、幸せそうに口を開けたまま涎を垂らしリュウコクの背中で夢の中だ。

 ミサトをそっと布団に横たえ、布団をかける。
 ミサトはごろんと寝返りを打ち、さらに盛大にイビキをかいた。
 リュカは呆れ半分、安堵半分でその寝顔を見下ろした。

『あれ?何もしないのですか??……ふふ。チャンスですよ?』
 リリィの声が不意に響いた。

「おいおい、機械が茶化すのかい?」
『だって、今なら何でも出来るじゃないですか。ほら、こう……“お姫様にキス”とか。魔法が解けて素敵なプリンセスになるかもしれませんよ…』

「ははっ!もう充分すぎるプリンセスだよ。 僕は反則はしないよ」
 リュカは肩をすくめて笑った。その声音はどこか優しい。

『ふふふ。……ではここから少し真面目に。リュカ、いえ、リュウコク。これからどう動くつもりですか?』
 リリィの調子が少し変わる。人工知能らしい冷徹な響き。

 リュカは布団に腰を下ろし、眠るミサトの気持ちよさそうな寝顔を見つめた。
「機械。お前は、どこまでわかってる?」

『はい。アルガスは交易国家。沢山の商人が集まり出来た国。背後に複数の商会の思惑が絡んでいます。軍事力ではなく経済力が武器。力で潰せば必ず経済の圧力が来る。つまり、リュウコク。ラインハルト王国とは相性最悪。……そうですね?』

「うん。その通り。では、この戦い……どちらが有利だと思う?」

 短い沈黙。やがてリリィが答えた。
『はい。私の計算では、……このままでは六対四で、あなたの負けです』

 リュカは目を細め、口角を上げた。
「あはは、それは“ミサトを除いた数値”だろう?」
『ふふ。……さすが策士ですね。けれどミサトの動きは誰にも読めませんよ。この私にも…』
 リュカは声を殺して大笑いした。
「くくくっ!確かに。だからこそ……愛おしくてたまらない」

 その笑みがふと消え、瞳に影が落ちる。
「機械。……ミサトが起きたら伝えてくれ。“国に帰れ”と。血が見たくなければな」

 そう言い残し、リュカは部屋を後にした。
 戸口から洩れる灯りが閉じられると、残されたのはイビキと寝言だけ。

◇◇◇

 翌朝。
「はうぅぅぅ!……うぅ、頭いてぇ……」
 ミサトは布団の中でのたうち回っていた。こめかみがガンガンする。
『はい。ミサト。おはようございます。二日酔い姫』
「誰が姫じゃ! ……って、何だっけ、昨日……?あっ…くっそ飲み過ぎた、、途中でライフガードにしとけば良かったよ…。てか、私どうやってここまで…??」
『はい。ミサト。ライフガードはこの世界にありません。昨日、リュウコク王子がここまで運んでくれましたよ。後、伝言を預かっています』
 
 リリィは淡々と昨夜のリュカの言葉を告げた。

『、、“起きたら国に帰れ。血が見たくなければな”』

 ミサトは布団から飛び起きた。
「はあぁぁぁ!? 何それ!? 私が帰る? 血を見る? あの馬鹿、なんかやらかす気満々じゃん!」

『はい。ミサト。暴走機関車モード突入、カウントダウン三秒前。三、二、』
「カウントダウンやめてぇぇ!頭に響く。しかも誰が機関車だコラァ!体、青にして線路走ったろか?! しかし、あのヤロー! 血を見るのはそっちだろうがぁぁぁ!またボコしたろかっ!!」

 頭痛を押さえつつ怒鳴り散らすミサトに、リリィは呆れを隠さない。
『……二日酔いでそのテンションのツッコミは、もはや人類の敵です』
「うるさいっ!リリィ! あいつのとこまで案内して。 探し出して見つけて、やっぱりまたボコす!」

 そんなやり取りが、宿の一室に木霊した。

◇◇◇

 一方その頃。
 アルガスの裏通り。倉庫の陰で二人の男が合流していた。

「よぉ、リュウコク……いや、リュカって呼んだ方がいいかい?」
 カリオスがニタリと笑いながら現れる。

「ははは!やめてくれ。お気に入りの変装が台無しだ」
 リュカはフードを深く被り、軽く肩を竦める。

「くくくっ!似合ってるぜぇ~、その胡散臭ぇマント」
「ははは、、そりゃどーも♪」

 二人は軽口を交わし、すぐに真剣な顔に戻った。

「それで、アルガスの内情は?何か分かったかい??」
「あぁ、、想像以上に腐ってる。商人同士で牽制しあって、表の顔は派手でも裏はボロボロだ。……が、油断は禁物だ。奴らは“金の臭い”に敏感だ。何よりアルガスの王と呼ばれてる“バレンティオ”はかなりのやり手みたいだな…」

 リュカは酒場を思い出し、口元に笑みを浮かべる。
「アルガスの王……ね。なるほどね~。やりがいがありそうだな」
「そんで、どう動くつもりだ?」
 カリオスの問いに、リュカは背を向け、街の喧噪を見下ろした。
「ふふ、まだ教えな~い。後のお楽しみ!……さぁて、始めるか?」

 その声は低く、だが確かな熱を帯びていた。
 アルガスの街に、策士の影が動き始める。
 嵐の予兆は、すぐそこに迫っていた。

◇◇◇

 その頃、アルガスの中央宮殿。
 黄金の装飾を施された広間の玉座に、酒場でミサト達に声をかけた男が腰掛けていた。

 細身で上品な衣を纏っているが、その眼差しは氷のように冷たい。
 彼の名は、、アルガスの商人達を束ねる“交易王”バレンティオ。

 豊かに見える宮殿の床にも、小さな影が走る。
 鼠だ。どこからともなく迷い込み、壁際を駆け回っていた。

 王はそれをじっと見つめ、コインを指で踊らすと、くすりと笑った。
「ふむっ、……鼠がちらほら迷い込んでおるな。さて、どう処理してやろうかな??」

 指先を軽く動かすと、側仕えの護衛が剣で一閃。小さな鼠の悲鳴が石床に響いた。
「う~む!なるほど……潰すのも一興、飼いならすのも一興。私の選び方ひとつで“死に様”も変わる」

 バレンティオは窓から外を眺め、杯を傾け、赤い葡萄酒を口に含んだ。
 その瞳が細められ、裏通りの倉庫街を見つめ、北の空を思わせる方向へと向けられる。

「さぁて、、このアルガスを攻略できるかな? “ラインハルトの坊ちゃん”よ」

 低く囁いたその声は、宮殿の石壁に吸い込まれていった。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

処理中です...