【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第14話 【湯ノ花 女王と海賊の夜】

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 白い湯気が、月明かりの下で揺らめいていた。
 明け方の湯ノ花の温泉は、昼間の喧噪を忘れさせるほど静かで、時折ぱしゃりとお湯の表面を打つ音だけが響く。

「ふぅぅ~……生き返る……っ!帰って来たぁぁって感じねぇ☆」
 肩までお湯に浸かったミサトが、思わず目を細める。湯の花が浮かぶ泉質は柔らかく、じんわりと身体を包み込んでいく。

「おいおい……こんな風呂、初めて入ったぞ。まるで天国じゃねぇか?なんかいい匂いもするし!」
 隣で腕を広げて湯に沈むのはマリーだった。豪快に背を伸ばしながら、髪を結い上げた横顔が昇って来た朝日に照らされる。

「ふふっ、気に入ってくれた?うちの自慢なんだ♪」
「気に入ったどころじゃないな……。もう船の風呂なんかに戻りたくねぇくらいだ」

 二人は笑い合った。その後、マリーが少し真面目な顔になって口を開く。

「なぁ、ミサト。お前……あのリュウコクってやつのこと、どう思ってんだ??あいつ、ミサト大好きオーラ全開だったけど……?」
「……ぶっ!?」ミサトは慌てて立ち上がりかけて、湯がばしゃりと溢れた。
「ど、どうって!?そ、そんなの別に……!?何とも思ってないわよ……!うん、別に…」
「いやいや、その反応はどう見ても“図星”だろ?」
「いやいや、ち、違うし!あいつただの変態!変態だから!」
 ミサトが顔を真っ赤にして手をばたつかせるのを、マリーは腹を抱えて笑った。
「はははっ!やっぱりそういう話になるとお前、弱ぇんだなぁ!」
「……っ、もう、温泉に恋バナ持ち込むなってぇぇ!余計のぼせるわっ!」

◇◇◇

 温泉で旅の疲れを癒すと、昼になり、、
 湯ノ花の楽市楽座は、すでに大勢の人々で賑わっていた。露店の軒先には湯気を立てる饅頭、香ばしい串焼き、果実酒が並ぶ。

「ほらマリー、あっち行こ!温泉まんじゅう、出来たてみたいだよ!」
「おぉ……これが温泉で言ってた例の名物の一つか??これ、ひと口でいいのか? うわ、甘ぇっ……でも嫌な甘さじゃねぇな」
 マリーや船員達は目を丸くし、次々と串や饅頭を頬張った。

 ちょうど温泉饅頭を買ったところで、賑やかな声が飛んできた。
「おぉ! ボス! まんじゅう買ったのか??」
 ゴブ次郎が両手いっぱいに串焼きを抱えて駆けてきた。その後ろからは、腕を組んで苦笑いするカイルと、袋を提げたエルナが続く。

「まったく……あんた達、買いすぎよ。どれだけ食べるつもり?」
「ぐははっ!こういうのは試食が命だからな!“オレたちが食わねぇ”のは人様に売れねぇだろ?」
 ゴブ太郎が胸を張る。
「太郎ちゃん!試食でお腹いっぱいにしてどうするのよ」エルナが呆れる。

 さらに横から、長耳を揺らしたエルフの青年が割って入った。
「おぉ!ミサト様。この果実酒は我らの森の品だ。ぜひ飲んでみてくれ」
「は~い。ありがと!リュシアにありがとうって言っといて☆ ほらマリー、これ絶対うまいよ」ミサトが瓶を受け取ると、マリーも素直に頷いた。

 人間、ゴブリン、エルフ、、雑多な仲間たちが肩を並べ、食べ歩きしながら笑い合う光景に、マリーは言葉を失った。
「……なんだよこれ。こんなの見た事ねぇ……。戦場よりも、ずっと強ぇ絆があるじゃねぇか」

「えへへ。ここはね、私の元の世界で“楽市楽座”って言って、誰でも出店できる仕組みにしてるの。物価も安く、競争で質も上がる。税も取らない。だから旅人も多く来るんだよ」
「へぇ……。そりゃあ大したもんだな。王侯貴族の街よりもよっぽど活気があるじゃねぇか」

 マリーは感心して首を振る。ミサトがただの“村娘”ではないことを、改めて実感していた。

◇◇◇

 夜、、、
 天守閣の最上階にあるミサトの部屋に案内されると、マリーは目を剥いた。

「なっ……なんだよ、この広さ!! でかい家一つ分あるじゃねぇか! なのに……お前、なんで隅っこの布団で寝てんだよ!?」
「え、だってこの部屋、広すぎて落ち着かないんだもん……。私の理想は六畳一間…。あと猫一匹…」
「女王の部屋ってレベル超えてんぞ……。まぁ、いいけどよ」

 二人は買ってきた酒と酒の肴を机に広げ、ぐいっと盃を傾ける。
「ふぅ~……!やっぱり酒はこうして落ち着いて飲むのが一番だな」
「同感。同感だけど……マリー、飲みすぎないでよね」
「なにっ!?あははっ!お前が言うなっての!」
 くだらないやり取りを交わしながら、二人は酒を楽しんだ。

◇◇◇

 やがて、空気を破ったのはリリィだった。
『はい。ミサト。一つ質問宜しいでしょうか? もしあなたなら、、アルガスをどう落としますか?』
「……えっ?落とす??」
 ミサトは思わず盃を止める。マリーも興味深そうに顔を上げた。

「どう、やって……って。ん~、、私なら……まず“補給線”を握るかな?」
「補給線?」マリーが眉を寄せる。

「うん。兵士を動かすにも街を維持するにも、食料や水が要るでしょ。昔リリィに教わった、ナポレオンは“兵站を制する者が戦争を制する”って教えてくれたじゃない?だから私は港の物資流通を全部押さえて、じわじわ締めるかな~?」

『はい。ミサト。なるほど。つまり兵を相手にするのではなく、市場と物流を制圧するのですね』

「そう。血が流れんの好きじゃないし。信長さんとうちの“楽市楽座”も似たような発想でしょ?敵の城を兵糧攻めで弱らせる代わりに、うちは商いを広げて人心を集める。結果、敵の兵が“戦うより降伏した方が楽”って状況を作るの。美味しい物食べれてそっちのが幸せだしね~☆」

 ミサトは指を立てて続けた。
「あと前の世界の社畜時代に学んだやり方もある。情報は分散管理、ムダな会議はしない、やることはシンプルに。……要は“最小の労力で最大の効果”を狙うんだよ」

 マリーは目を丸くし、盃を置いた。
「あはは、、……お前、本当にただ者じゃねぇんだな、、女王やってるのも納得だ。アルガスにいた時は酔っ払ってるか走ってるだけだったのに…」
『はい、ミサト。やはりあなたは“社畜OLの発想”で戦略を考えるのですね?ご立派です。あなたの戦略を“社畜戦術”と呼びましょう』

「いや、ちょっと待って!? なんか私、貶されてない!? あと社畜って言うなぁぁ!言っていいのは社畜を経験した、私本人だけっ!」

 ミサトの叫び声に、マリーが大笑いした。
 夜空には星々がまたたき、湯ノ花の城は穏やかな静寂に包まれていた。


          続
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