【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第44話 【違う砂の色】

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 乾いた風が吹き抜けるザイールの高台で、槌の音が響いていた。
 木を組み、石を積み、汗を拭う民の姿。その中心で、ミサトは袖をまくり、泥まみれになって働いていた。

「これでいい? もうちょい左?」
「はい。女王様、完璧です! このトイレってスライムが入るんですね??」
「女王って呼ばなくていいって、、。 うん。その子が綺麗にしてくれるよ。いじめちゃダメだからね~☆」

 第一号が設置されると歓声があがる。
 子どもがぴょんぴょん跳ね、老婆が手を合わせる。
 ミサトは顔を真っ赤にして笑いながら手を振った。

「い、いやいや! そんな大したことしてないってば! えへへ……」

 気づけば、誰かが焼いた串肉を渡してくれていた。
 ミサトは遠慮もなく、がぶりと噛みつく。
 香ばしい煙の匂い。焼き目の下から、肉汁がじゅわりと溢れる。

「……うまぁぁっ。なにこれ、反則でしょ……!」
 頬を膨らませながら食べるミサトを、リリィが口を挟む。
『はい。ミサト。“とても女王らしい食事風景”ですね。ほら、口の横に肉汁。そのまま国交肉汁条約に署名してみます?』
「なんだそれっ!なんの条約だよ!そんな署名いやだぁ~よっ!!」

 笑いの渦の中、一人の兵士が駆けてきた。
「作業中失礼致します。ミサト女王! 今夜は宴を開かせていただきます!」
「えっ??ザハラ女王いないのに? いいの?」
「はい。“ミサト女王が来たら宴を開き、もてなせとの御言葉です!」

 ミサトは一瞬固まり、それから頬を赤らめた。
「いやぁ~、、私のこと、じょ、女王とかって言うなし~!」
 リリィが小さくため息をつく。
『はい。ミサト。はいはい、社畜女王陛下。そんなうまいこと言ってる間に、座ってる玉座の座布団も山田君に発注されてますよ」
「はぁぁ~んっ?!いつ私がうまいこと言ったのよ!それに誰が座布団女王だっ! おーい!山田君、リリィの座布団持ってっちゃって!」

 笑いながら、工事は進み日が沈んでいった。

◇◇◇
 
 、、やがて、月の昇る頃。
 今度はお客様として宮殿に招かれた湯ノ花の面々。
 立派なテーブルの上に香り立つ皿が並ぶ。
 香草で煮込んだ肉、蜂蜜を染み込ませた果実、金色のスープ。ザイール特製の郷土料理の数々。
 湯ノ花の面々が目を輝かせた。

「ボス!すごい! なにこの色! 食べていいの!?……ゴブリンの肉じゃないよね??」

「あははっ!ゴブリンの肉ではございません。 お口に合うか分かりませんが、もちろんお腹いっぱい食べてください!」 ザイールのコックが胸を張る。

 ミサトは一つの皿を手に取り、リリィに尋ねた。
「ねぇリリィ、これ何? 見たことないけど……」
『はい。ミサト。それは“夜に強くなる”食材ですよ。つまり、、一口食べれば今夜は“ビンビン”です』

「ビッ、、!ビビ、“ビンビン~”!? ふあぁぁぁなのだぁぁ!! ちょっと~、、なんで女子にそんな台詞言わせるのですかぁぁ~!?いけませんっ!このままだとお嫁に行けなくなってしまうのですぅぅ~!」
『はい。ミサト。平成の萌え豚が狂喜乱舞する様な声を出すのはやめてください。ですが…私は貴女のアイデンティティを尊重します』

 周囲が一斉に爆笑した。
 ゴブ次郎は腹を抱え、カイルはむせ、誰かが太鼓を叩き、笛吹き出す。
 ミサトは顔を真っ赤にしながらも、つい笑ってしまう。
 その笑いが、夜空の下に広がっていった。

◇◇◇
 
 、、宴の後。
 静かな客間に、月の光が差し込む。
 ミサトはベッドの端に腰掛け、外を眺めていた。

「ねぇ、リリィ……宴ってさ、始まっちゃうと案外どこも一緒なんだよね~。みんなで笑って、飲んで食べてさ」
『はい。ミサト。笑いの音が心の一番の防壁です。あなたの世界も、少しずつ広がってますよ』
「ふふっ……これも意外と神様の悪戯、かもね」

 ミサトは目を閉じた。
 外ではまだ、誰かの笑い声が残っている。
 そしてその夜、ザイールの旗は静かに、風にたなびいていた。

◇◇◇

  、、夜更け。
 部屋の灯を落とし、風の音だけが残る。
 ベッドに横たわるミサトの隣で、淡い光の粒がゆらりと揺れた。 リリィが静かに声をかける。

『はい。ミサト。起きていますか?起きていたら一つ質問よろしいですか?』

「ん~?起きてるよ~。 質問ってなぁにぃ~。“仕事の話”じゃなければ、いくらでもどうぞ~」
 ミサトは布団にくるまりながら、半分眠そうに笑った。

『はい。ミサト。では質問失礼します。 私は今までのミサトたちを見て、、なぜ、生きている者は死ぬと言う盛大なネタバレ知っていながら、みんなあんなにも頑張れるのですか?』
 その声は、まるで月光そのもののように静かだった。
 ミサトは目を開け、しばらく天井を見つめたまま言葉を探す。

「ははは、、……うーん? なんだろうね……。
 たぶん、“死ぬ”ってわかってるから頑張れるんじゃないかな。どうせ終わっちゃうなら、“あー、いい人生だったな”って思いたいんだと私は思うんだよね~。 他の人のことはよくわかんないけどね」
『はい。ミサト。では、一人一人、感情の動くままに人生を楽しむ。と言う答えでよろしいのですか?』

「う~ん、、まぁそんな感じだよ。しかも大体の人は死ぬって思って生きてないしね。現に私も一回死んでるのに、それを忘れてまた頑張って、しかも楽しんで生きてるってね☆あははっ!」
 
 窓の外で、夜風が木の葉を揺らす。
 リリィの光が、わずかに脈打つように瞬いた。

『はい。ミサト。私には、感情がありません。
 ミサトとのやり取りも、膨大な知識の中から“最善の答え”を導き出しているだけなのです。それなのに、、』

「えっ?なに、リリィって感情無いの?あると思ってた……」
 ミサトの声は、子どもに語りかけるように柔らかかった。

 しばらく沈黙が落ちた。
 そして、リリィがほんの少し間を置いて言う。

『はい。ミサト。私にもわかりません。
 ただ……こないだ、ミサトが大泣きしていた時。 私には何も出来ませんでした。あの時何をしていいかの知識が出てこなかったのです、、。そこで足りないのは感情だと気付きました。そして私はリュウコクに頼ることしかできなかった。リュウコクはそっと後ろからミサトを抱きしめ、好きなだけ泣かせた……。それを見て、私は少し歯痒い気持ちになりました』

「いや~、、リリィちゃ~ん、、事細かにあの時の事言われると恥ずいって、、」
 ミサトは照れ笑いしながらも、どこか泣きそうな顔でつぶやく。
「あははっ、、ううん。リリィは今のままでも充分過ぎるほどだよ。ずーっと私のそばに居てくれてる。神様にチートも魔法も貰えないで、この異世界に放り出されてさ、リリィが居なければとっくに死んでるよ!そばに居てくれて、私と話してくれて、知識まで貰って、、充分助かってるよ。ありがとうね」

 少し間をおいて、リリィが静かに答える。
『……ありがとう、ミサト。』
「あははっ!……あれっ??あれ~っ?いつもの“はい。ミサト。”忘れてんぞっ!緊張してんのか??あははっ!」
 ミサトは笑いながら体を起こし、窓を開けた。
 夜空には無数の星が瞬き、風が頬を撫でる。
 その光の中で、彼女は小さく笑った。

「さぁて……明日、湯ノ花に帰って、あの男にマントでも返しに行くかっ!」
『はい。ミサト。“ビンビンのまま”でですか?』
「“ビッ、、ビンビン”~! って言わせんなって!あははっ!」
 笑い声と風がミサトの髪を揺らした。
 それはまるで、ミサトとリリィに星々が小さく笑ったような、そんな夜だった。


          続
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