【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
162 / 179

第6話 【風が告げる三つ巴】

しおりを挟む

 夜が溶けはじめ、東の空が乳白色へゆるやかに染まっていく。
 ミサトは肩に包みを背負い、湯気の出てる湯ノ花の里を振り返った。ニアが隣で腕を組む。

「ミサトはん。スラム街、ボダレスまで、一日ってところやねんな、、一回どっか泊まって明日の朝には着くんやけど……ミサトはん……ほんまに行く気なんやな?」
「行くよ。止まってたら、世界が困るもの」
「えぇぇ!世界っ!?スケールでかっ!困る世界、多すぎません?」
「あははっ!知ってる。でも放っとけないでしょ」

 そこでリリィが、どこから出したのか分からない声を掲げてくる。
『はい。ミサト。はいはい、“結局あなたは行く”の儀式ですね。ほら、旅立ち前の気合のカフェインでも一口どうぞ』
「儀式じゃないよ! でも飲むけど!」
「ほらね」と言わんばかりのリリィは涼しい瞬きをする。
『はい。ミサト。あなたは悩んだら行動するタイプ。悩んでる間に靴履いてるタイプ。悩みながら走り出すタイプ。つまり、、、』
「つまり?」
『はい。ミサト。ミサトは止めてもムダの猪野郎です』
「いのししぃ~!!はいっ!悪口~!ダメ~~!」
 そんなやり取りの中、隣でで騒ぐ声。
「兄ちゃん! この荷物重いぞぉ!」
「バカタレ! 荷物が重いんじゃない!ジロウが弱い! 筋肉に謝れ!」
「えっ??筋肉に謝る!? どうやって謝るんだよっ!」
「まずは土下座だっ! ほらミサトに見せたれ!」
「あぁぁぁ!ミサトさまぁぁ! 筋肉さまに謝りますぅ!」

 ミサトは思わず笑い、肩の力がふっと抜けた。
「あははっ!……うん、よし。行こう。なんか、行ける気がする」
 リリィは小さく瞬き、風が旅路を迎えるように吹き抜けた。
 湯ノ花御一行は軽口を叩き合いながら、まだ眠りの残る里を歩き出す。草の匂いが揺れ、遠くで鳥が朝の一音を吸い込んだ。

◇◇◇

 同じ頃。ラインハルトの陣営、、。

 豪奢なマントを揺らし、リュウコクが丘の端に立つ。彼の前には五百の精兵。その先頭に、眉間にシワを寄せ、鋭い双眸をしたカリオスがいた。

「それでリュウコク、、お前さんは、どうするんだい? 俺らは“予定通り”スラムに入るが」
「僕? ラインハルトが動けば“西が動く”。だったら僕は“西を抑える”役目をするだけさ」
「……相変わらず、軽いように重いこと言う男だねぇ」
「ははは、褒めてる?」
「ははは、皮肉だよ」
 カリオスは肩をグルングルン鳴らし、土を踏みしめた。
「で? “西を抑える”なんて仰々しいこと言ってるが……本当のところ、何考えてるんだい」
「考えてることなんて一つだよ。ミサトがボダレスに動くなら、世界は動く。だったら僕は、ミサトの後ろで暴れそうな奴らを止めるだけ」
「やれやれ……あの娘、“国境ひとつ揺らす女”だってこと本人は気づいてないだろ」
「あははっ!気づいてないだろうね。だからいいんじゃない?」
 リュウコクの声音には、淡い微笑が滲む。

「ボダレスに行けば、あの娘はまた誰かのために首突っ込む。放っておくと死ぬほど動くし、働く。……まったく似た者同士だよ、お前さんも」
「えぇぇ?!僕はそんなに働かないよ。必要な時だけ。で、今はその“必要な時”なんだ」
「つまり、あの娘がそこにいるから、、ってことだろ?」
「まぁ、そうだね。ミサトは火種を見つけるのは得意だからね。今回だってわからないように動いてたのにバレてるからね☆あははっ!」

 カリオスは鼻で笑った。
「了解したよ。俺らは先にボダレスで地盤固める。だが、あんたが来てくれるって言葉だけで兵の士気は段違いさ」
「期待しすぎないでよ。僕はただ、全部が燃え広がらないように“手を添える”だけ……。西で足止めされたらそっちには行けない…ミサトの事頼んだよ…」
「あぁ、、頼まれた! その“手を添える”だけで、この大陸がひっくり返るんだもんな……まったく厄介な王子様だ」

 二人は並んで別の方向へ歩き出す。
 砂の向こうとミサトが居るはずのスラム街へそれぞれの役目を抱えながら。
 リュウコクは笑い単騎で走り、カリオスは肩をすくめ、軍勢を率いて出発した。

◇◇◇

 さらに東、砂の宮殿、、ザイール王国。

 ザハラは白金の槍を手に、千の兵を前に立つ。背後には、湯ノ花から来ているカイルが慌てふためく。

「ザハラ女王!? ま……まさかご自分で出陣を!?」
「当然だろう? 南のボダレスには兵士長に頼む!私は…また別の場所に動く!国は其方が動かしておけ」
「えっ!?俺っ!! 無、無理ですって!!」
「ふふふ!何を慌てる??国など、見える部分は誰が動かそうと同じだ。笑顔で手でも振っておけ。本当の王は、、見えない所で仕事をするものだよ。ほらっ見ろ、、あいつのようにな」

 ザハラが指を指したその瞬間、背後から気配。

「んっ? 僕の話してたの? あははっ☆」
 リュウコクが、いつの間にかそこに立っていた。
「さぁ、女王。行くよ。放っておくと、色々めんどくさくなるからね」

 ザハラは鼻で笑い、マントを翻して歩き出す。
「まったく……お前というやつは、いつも肝心な時だけ風のように現れる」
「えっ?王族ってだいたいそうじゃないの? 必要な時にだけ偉そうにして、あとは影で好き放題。君だってそうでしょ?それに西に動くのに抜け駆けしたら怒るから迎えに来たのに☆」

「少し遅いくらいだ!もうとっくに気付いていただろうに……。私の方が抜け駆けする所だったぞ! ふふっ!それにしても好き放題、ね。私は“国を回すために”やっている。お前は“面白いから”やっている。それを同列に語るのは不敬だよ」

「えぇぇ!不敬かどうかは、結果次第だよ。ほら、僕の兵ももう動いた。ザイールも本気。南の国境で火がつけば、西も黙ってない」
「あぁ!だからこそ私たちが行くのだ。王は表で剣を振るう必要はないが、裏で火種を摘む必要はある」
「へぇ。珍しく女王様みたいなこと言うじゃない☆」
「なにっ!お前が言わせたんだよ、道化が!どこまで本気なんだか…」

 リュウコクが肩をすくめる。
「僕はただ、本当に危ない時だけ動くだけさ。王族はね、最後の切り札であればいい。それ以外は……うるさくない方が国のためでしょ!」
「はははっ!それはどこかの“温泉の賢者”に習ったのか??」
「あははっ!さぁね~☆」
 二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
 風が砂を巻き上げ、二つの影が並んで西の方角へ向かう。

 カイルは二人を見送ったあと、ふと宮殿の高台から砂漠と青空を眺めた。

「な~んだかさぁ……すごいことになっちゃったねぇ……。蜂蜜パン売ってたら、砂漠の王に一瞬でもなれるんだから……人生って、ほんと面白い!」

 首をかしげ、笑う。
 物語の風は、もう誰にも止められなかった。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...