【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第15話 【暴力と口喧嘩は裏路地で】

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 ボダレスの空は、まだ朝の色をしていなかった。
 煙が低く垂れ、火の粉が雪のように舞っている。

「さぁて、、行くぞ!!」

 チャムチャムの一声で、街が動いた。

 路地から路地へ。
 家から家へ。
 女、子供、年寄りを先に逃して男は後ろ。

「おい!じじぃ、ばばぁ、ガキはこっちだ!!走れ!!振り返んな!!あはは!さっさと行け」
「おいっ!婆さん!そんなでかい袋は捨てろ!どうせ汚ねぇパンツしか入ってねぇんだからよ!!あははっ!命の方が軽いと思うなよ!!」

 怒鳴り声と笑い声が混じる。
 銃声の代わりに剣が鳴り、火の矢が壁に突き刺さる。

「ふぅぅぅぅ!!数、多いねぇ!!」
 チャムチャムが笑いながら斬る。
「ほんと暇しねぇな!!」
 ボルドが合気道の様な動きで殴り倒す。

 倒れた兵士の鎧を、チャムチャムが剥ぎ取った。
「おい、爺さん!これ売れ!今なら高値だ!!」
「えっ!?」
「戦争セールだ!!返品不可な!!掴めビックドリーム☆あははっ!」

 ボルドは別の兵士を地面に沈め、懐を探る。
「おっ!?……財布か」
 中を見て鼻で笑う。
「あははっ!ダメだろ~戦場に財布持って来ちゃ☆君、、もしかして負けないとでも思ってた??」

 血の匂い。鉄の味。
 それでも、ボダレスの人間は逃げていく。
「お~いっ!!こっちだぁぁぁ!早くしなぁぁぁ」
 チャムチャムのママがフライパンとオタマでガンガンと大きな音を立てて街の人間を誘導する。
 
 その時だった。

「やるねぇ!ママ……んっ?おいボルド…」
 チャムチャムが兵士の手元を見る。
「あいつら持ってるの剣じゃねぇな、、それ」

 兵士たちは、剣や槍の形をした棒で戦っていた。

「んっ?何だそれ?何で剣じゃねぇんだ?お前」
 ボルドが一人を踏みつける。
「命令だ!!」
 兵士は叫んだ。
「派手に街を焼け!だが民は殺すなって!!」

 チャムチャムが首を傾げる。
「ははは……優しい戦争だな」
 ボルドが笑う。
「あぁ、、お心遣いのバーゲンセールだな!」

 二人は目を合わせた。

「怪しいな~」「怪しいねぇ~」

「でもよ…あいつらに殺す気がなくても…」
 ボルドが肩をすくめる。
「この街に入ったら、俺たちは殺すぞ!」
「そりゃそうだ。間違いない!」
 チャムチャムが歯を見せる。
「ルールは場所で変わる。ここはボダレスだ」

「国の法律?神の教え?学校の学び?」
 ボルドは地面に唾を吐き、燃えてる家で太巻きに火をつける。
「悪ぃな、ここじゃ参考資料にもならねぇ」
「この街のルールは至ってシンプルだ」
 チャムチャムが中指を一本立てる。
「踏み込んだら“常識と覚悟”を置いていけ」

「置いてねぇ奴は?」「没収だ」
「命ごと?」「あぁ!命ごと」

 二人は顔を見合わせ、同時に歩きながら笑った。

「あははっ!優しい街だよな」
「あはははっ!優しいな。嘘つかねぇ」
「注意書きも看板もねぇけどな」
「でも街中にちゃんと血で書いてある」

 ボルドが拾った棒の剣を肩に担ぐ。
「だけど嫌いじゃねぇ」
「だな」
 チャムチャムは前を向く。
「ルールを守る気がねぇ奴は、最初から入ってくんなって話だ」

 炎の向こうで、人影が揺れた。
 二人の笑みが、少しだけ鋭くなる。

「さぁて、、現場に到着だな」
「あぁ、、仕事だな」
「特別手当は?」
「返り血と快楽でいいか?」
「あはは……割に合わねぇ♪」
「でもやめらんねぇ♪」

「「それが俺たちだ!!!」」

 足並みが揃い、二人は前線へ歩き出した。

 二人は前へ進む。
 炎の向こうに、冷たい視線が待っている。

 、、アイスマン。

 目が合う。
 火が揺れる。
 空気が、凍った。

◇◇◇

 一方。

「おい!裏道、こっち!!」
 スピードが叫ぶ。

 ミサトたちは、焼け落ちた市場の裏を駆けていた。

「スピード、早いっ!!私達、道知らないんだからもう少しゆっくりっ!」
「文句言うな!!全員敵だぞ!?囲まれたら終わりだっ!」

 角を曲がった瞬間、兵士が数人が現れる。
「おっ、、い。止ま、、れ!」

 ゴブ太郎とゴブ次郎が前に出た。
「おっと!止まるのはお前だ!!」
「兄貴!右!!」「おうっ!」

 ゴブリンパンチで兵士達が倒れる。
 ミサトが顔を出した。

「……やめなさい!」

 ラインハルトの兵士が、目を見開く。
「……!?」
 次の瞬間、敬礼。
「湯ノ花の女王……!」

「ちょっと!?何でこんな事してるの!?」
 ミサトが詰め寄る。
「誰が指揮を取ってるの?リュウコク??」

「いえっ!カリオス様の命令です!!」

 胸が、嫌な音を立てる。

「今から話しに行くから……とりあえず、やめなさい。そして本部に戻りなさい!」
「は、はい!!」

 ミサトたちは再び走る。

『はい。ミサト。時間がありません。敵意は限定的ですが、目的が不明確です』
「えぇぇ!目的が分からなきゃ交渉のしようがないじゃん!!もぉぉぉ!最悪のやつじゃん!!」

 ミサトは走りながら叫んだ。

「敵意は薄い、目的は不明……なにそれ!?会議だけ設定して結論出さない上司じゃんか!!」
『はい。ミサト。非常に近いです。議題は“街を焼く理由について(仮)”、決定事項は「とりあえず実行」』
「仮で街燃やすな!!それ資料だけ炎上してんじゃん!!」

 瓦礫を飛び越えながら、ミサトは息を荒げる。
「こういうの一番嫌いなんだけど!!“方針は後で共有します”って言われて、気づいたら全部終わってるってやつ!!」
『はい。ミサト。事後報告型プロジェクトです。責任の所在は曖昧、成果は上司のもの、失敗は現場担当』
「むっきゃぁぁぁ!完全にブラック!!異世界まで来て同じ構図見せられると思わなかった!!」

『はい。ミサト。補足します。現在の状況では“止めなかった理由”を問われる可能性が高いです』
「えっ?やめて!?その言い回し一番ダメ!!」
 ミサトは頭を抱えた。
「やった理由より、やらなかった理由を詰める文化、ほんと人類のバグだと思う!!」

『はい。ミサト。なおミサトは既に“止められたかもしれない立場”に分類されています』
「うおぉぉいっ!地獄か!!」
『はい。ミサト。加えて、的確な現場判断を求められています』
「裁量権ゼロで責任フル!!最悪の配置ぃぃぃ!!」

 一瞬、ミサトは笑った。
「ふふっ……でもさ」
『はい。ミサト』
「リリィ?知ってる?こういう案件がどうなるか?」
『はい。ミサト。大抵、誰かが徹夜で何とかします』
「あははっ!そうだよね」
 前を見据える。
「……じゃあ行こう。どうせ私でしょ、その誰かって奴はさ☆」

『はい。ミサト』
 少しだけ、声が柔らいだ。
『本日も、過労死ラインは軽く越えていますが……私は記録係と賑やかしとして同行します』
「賑やかすなっ!あははっ!頼もしい様な頼もしくない様なだけど、いつもありがと相棒!!」
『はい。ミサト。こちらこそ』
 足音が、さらに速くなった。

 途中ザイールの兵士と鉢合わせる。
「んっ?ザイールやな!俺に任しとき」 
 ニアが前に出て言葉が交わる。
 何度も混乱の中、ようやく、、ラインハルト陣営本部。

 天幕の前に立つ男。

 冷たい目。整った鎧。

「よぉ、、……久しぶりだな…。息切らして来てもらって悪りぃな、、今日はリュウコクは居ないんだ…」
 カリオスが言う。
「なぁ?湯ノ花の女王!」

「カリオス……何でこんな事……」
 ミサト達は一歩前に出た。

 その瞬間、、、。

◇◇◇

 そしてチャムチャムの前線。

 チャムチャムが肩に日本刀を担ぐ。
「よぉ」 アイスマンを見る。
「この街、ちょっと焦げ臭くねぇか??バーベキューしてぇなら声かけろよ!」
 ボルドが低く笑いアイスマンを指差す。
「はは、お前、ちっとやり過ぎだよ、、火遊びするとおねしょするぞ、、」

 炎が爆ぜる。誰も、引かない。

 火花と約束が、裏路地と本陣で音を立てた。



          続
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