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第14話 【悪党は朝が早い】
しおりを挟むまだ朝露残る朝、、ガラッ。
乱暴に戸が開いた。
「おいっ!ビッチ!起きろ。まだ寝てんのか??最低な朝だぞっ!」
低く、短い声。
ミサトは布の中で目を閉じたまま、うめいた。
「誰がビッチじゃい……あと五分……いくら社畜ビッチでも始業前に叩き起こされる権利はないっ…むにゃむにゃぁ……」
『はい。ミサト。却下します。現在、緊急事態の様です』
「いやいや、、それ昨日も聞いた……。ここに来てから緊急事態以外ないけど……そもそもこの街が緊急事態だから……」
ミサトがぶつぶつ言いながら布団に潜ろうとした次の瞬間、布団が剥ぎ取られた。
「ビャャャァァァチッ!!ボダレスの悪党に五分はねぇぇぇ!!さっさと起きろこの座敷豚がっ!!」
「寒っ!ひどっ!?誰が座敷豚よっ!しかも私が裸で寝る人だったらどーすんのよ!!変態っ!!」
目を開けた瞬間、視界に入ったのはチャムチャムの顔だった。いつもの不敵な笑みではない。眉が寄り、歯が見えない。
「……街が燃えてんだわ……」
その一言で、眠気が吹き飛んだ。
ミサトは跳ね起きる。
「え?燃えてる??」
「いいから、外、見ろ」
チャムチャムが外に向け顎をクイッとする。
ミサト達が外に出た瞬間、熱気が頬を叩いた。
ボダレスの朝は、赤かった。
火の矢が、空を裂いて飛んでいる。屋根に刺さり、布に燃え移り、油の染みた壁が次々と火を噴く。叫び声、泣き声、怒号。昨日まで街だった場所が、混沌の坩堝になっていた。
「……なんや、、これ」
ニアが息を呑む。
ボルドが歯を噛み締め、空を指差した。
「よ~起きたか?見ろよ……。あの旗……見覚えあるな…どっかで見たなぁ~」
紅の竜の紋章。
黒地に金の鷲。
「あぁ、、ラインハルトと……ザイールの旗だ」
ミサトの背筋が凍る。
「えっ?何で…?リュウコクとザハラが、、何でここに攻めてくるの?ねぇ?リリィ、、何かの間違いだよね…ラインハルトとザイールの振りして騙してる奴らだよね…?」
『はい。ミサト。残念ながらどうやら正規軍の様です。略奪ではなく、制圧行動』
「……冗談でしょ…、、何で同時にここに攻めてくるのよ…」
その背後で、チャムチャムの声が落ちた。
「なぁ?ビッチ!その話しっぷり…」
ミサトたちが振り向くと、チャムチャムとボルドがこちらを見ていた。目が笑っていない。
「……お前ら、何か隠してんな?お前らがあの軍を連れて来たのか?ちゃんと話せば殺さない…。俺の嫌いな答えなら…分かるな…」
沈黙。
炎の音だけが、間を埋める。
ミサトは、一度だけ息を吸った。
「ごめん!……隠してた。昨日ちゃんと話しておけばよかった…」
全員の視線が集まる。
「私達は、旅してる人間じゃない。不明な荷物の出所を見つけに来た、、“湯ノ花の女王”です。こっちのニアはザイールの王族。ゴブちゃん達は私のボディーガード…」
チャムチャムに誤解されない様に早い言葉を切る。
「それから……多分、、私ならあの軍勢を止められる」
「せやな……俺とミサトなら何とか止められるはずや」ミサトにニアが続く。
ざわ、と空気が揺れた。
チャムチャムが眉を上げる。
「あぁぁん?女王?王族?止める?お前達まだ夢の中か??かなりの数だぞ?どーやって??一人一人女王様のおっぱいでも見せて“やめてください”って回るのか??なぁ?ビッチ!!」
「おっぱい見せるわけないでしょ!!ラインハルトとザイールの軍本部。私とニアで直接話をしに行く」
「……正気か?あの中に突っ込むって事だぞ…どっちからも狙われるぞ」
ボルドが吐き捨てる。
「それにこれはもう戦争だ!止めるなら皆殺しだ!!」
ミサトは、首を振った。
「それは“終わらせる”じゃない。“消す”だけ」
一歩、踏み出す。
「チャムチャムもこの街のトップなら、選ばなきゃいけないでしょ。“誰を守るか”をさ」
チャムチャムの目が細くなる。
「おいっ!?ビッチ!俺に説教か??誰に命令してるっ!?俺はボダレスのチャムチャムだぞ?!綺麗事だけじゃこの街は渡れねぇ!!」
「お願い!!」
その言葉に、場が静まった。
「私、これはあんたにしか頼めない」
まっすぐに見る。
「街の人を逃がして。被害を抑えて!お願いします。これはきっと夢を見てるの……私、、絵心無いけど、、これが夢なら……“絵心無くたって綺麗な夢ぐらい描きたい”じゃない!」
沈黙。
その時だった。
「ねぇ?チャムチャム……女の我儘ってのはね」
背後から、声。
「聞いてこその漢なんだよ」
ママが立っていた。腰に手を当て、煙の向こうを睨んでいる。
「街が燃えてるのに、まだ迷うの?昔“みんな友達なんだって”ママに教えてくれたじゃない…。ねぇ?チャムチャム」
「ママ……」
「選びなさい、チャムチャム。あんたが“何者”か」
チャムチャムは舌打ちした。
「……ちっ!わかったよ!!」
肩をすくめる。
「負けた。街の避難は俺とボルドが仕切る。その代わりやり方は俺たちが決める!」
ボルドは“俺も”って顔をしてチャムチャムを見る。
ミサトは、深く頭を下げた。
「ありがとう。任せる。一人でも多く救って!急いでみんなでこの騒動を止めましょう!」
「ビッチ!勘違いすんなよ…」
チャムチャムは真っ白な歯を出して笑った。
「俺はチャムチャムだ!!誰の下にもつかねぇ♪誰も俺を俺より使えねぇ♪さぁ!俺の名を言ってみな♪呼べばたちまち辺りは血の海さ♪あぁぁはぁぁんっ!♪」
『はい。ミサト。頼む人間違えてませんか??私、、彼の目がキマッちゃってて怖いです…』
「うん…私も…」
◇◇◇
全員、用意をするために家の中に戻った。
ミサトはリクルートスーツに着替えた。
皺の無いパリッとしたリクルートスーツ、、
どこか新入社員だった頃を思い出し、、引き締まる。
「ふぅぅぅ!……久しぶりだな、この感じ。まるで戦闘服に着替えた感じだな、、あのビッチスタイルも気に入りだしてきたところだったけど!」
『はい。ミサト。交渉戦闘モードに切り替わりましたね。私もあのビッチスタイルが名残り惜しいですけどどどど」
「やめて、胃が痛くなるるるる」
隣で、ニアが王族の正装に袖を通す。背筋が伸び、空気が変わった。
「……似合うね…」
「そらそうよ。生まれつきやからな」
外で口笛。
「お~お~」
ボルドが笑う。
「急に偉くなっちゃったな~♪」
チャムチャムとボルドも着替えて現れた。
青だったであろうペイズリー柄の服は、血と煤で青紫色に染まっている。
「ははは!またこれを着るとはな」
ボルドが呟く。
「あいつら…いや、この街のDNAに染み込んでるからなぁ~♪これ着てる俺たちが一番やべぇって!!」
チャムチャムが肩をすくめ、鼻で笑った。
「あはは!間違いねぇな!最初はよ、屋根の下で寝れりゃ御の字だったんだぜ?雨が降ったら終わり。血が乾く前にまた殴られる」
ボルドが指を折る。
「はははっ!そうそう!最初の仕事は三つ。“殴る”“殴られる”“逃げる”。給料は日替わりで、怪我と弁当は自分持ち」
「あははっ!懐かしいな!」
チャムチャムが歯を見せる。
「成り上がりの第一歩が“死ななかった”だもんなぁ!」
「二歩目が“名前を覚えられた”」
「三歩目が“裏切られなかった”」
「四歩目で、やっと殴る側だ」
二人は同時に青紫の服を見る。
「気づいたらこの街、俺たちの殴り跡だらけでよ」
「そうそう!まるで血で書いた自己紹介!」
「気に入らなきゃ死!」
「気に入られても地獄ってな!」
チャムチャムが笑う。
「それでもよぉ……」
拳をポキポキと鳴らす。
「この街で成り上がる方法、俺達他に知らねぇんだよな☆」
ボルドが頷いた。
「だから大事な時は今も着てる。いちばん似合う服だからな」
チャムチャムは喋りながら布に包まれた細長い物を取り出した。
、、日本刀。
「……またこいつを振り回す日が来るとはねぇ♪ワクワクしちゃうよ!」
『はい。ミサト。……確認します』
リリィの声が低くなる。
『何か、非常に危険なものを目覚めさせた可能性があります』
ミサトは苦笑した。
「やっぱり…だよね……。でも、“もう目覚めちゃった”!」
『はい。ミサト。……確認します。ミサトは今、“取り返しがつかない一線”を越えました』
「うん。知ってる。社畜で言うと“終電逃したのに案件追加されて危険人物に手伝うか?って言われた瞬間”の気分」
『はい。ミサト。比喩が非常に的確です。現在の残業時間は測定不能。被害も予測出来ません』
「だよねぇ。しかもさ、上司が“これ、今日中で”って笑顔なの」
『はい。ミサト。その場合笑顔は危険信号です』
「で、断れないのが私…」
『はい。ミサト。断った場合、今回はボダレスと世界が燃えます』
「うわぁ……パワハラの規模拡大してる……」
『はい。ミサト。ですが安心してください』
「んっ?何が!?何かいい案でもあるの??」
『はい。ミサト。ミサトは既に“逃げない社員”として世界に認識されています』
「プギャァァァ!最悪の評価軸やめて!?昇給もボーナスも無いのに命賭けさせる会社ある!?」
『はい。ミサト。あります。現在地です』
「くそっ……ブラック企業、異世界展開すな!!」
『はい。ミサト。なお退職届は受理されません。受理される時は…死あるのみです』
「ぁぁぁぁ!物騒な言葉言うなよ!知ってたよ!!でもさ……」
ミサトは息を吐く。
「うん、、もう始めちゃった以上、最後までやるしかないんだよね」
『……はい。ミサト、、では』
ほんの一瞬、声が柔らぐ。
『本日も私は、、貴女の残業に付き合います』
「はは……ありがと。心強いよ、相棒」
拳を握ったまま、ミサトは前を向いた。
外では、炎が踊っている。
街は叫び、国家が迫る。
ミサトは一歩、前に出た。
「さぁ!みんな行こう!!」
静かにみんな外に出て行く。交渉と暴力の境界線へ。
今日は悪党の朝が早い。
そしてこの日、、
街もまた、目を覚ました。
続
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