家ごと異世界ライフ

ねむたん

文字の大きさ
7 / 75

新しい住人――森に迷い込んだ家族

しおりを挟む

次の日の昼過ぎ。紬が家庭菜園で収穫した野菜をカゴに入れていると、ライルが慌ただしく家に戻ってきた。

「おい、紬!大変だ!」

「どうしたの?」紬が驚いて顔を上げると、ライルは息を切らしながら答えた。

「森の入り口のあたりで人間の家族が迷い込んでたんだ。子どもがぐったりしてる。助けてやりたいけど、どうする?」

「えっ……!」紬は野菜のカゴをその場に置き、急いで家に向かった。「すぐ連れてきて!何とかするから!」

ライルは頷いて森に戻り、しばらくすると、疲れ果てた様子の3人家族を連れてきた。父親、母親、そしてぐったりとした幼い男の子だ。

「ここ……どこですか……?」父親は紬を見て不安そうに問いかける。

「大丈夫ですよ。とりあえず家の中で休んでください。」紬は優しく声をかけ、家族を家に案内した。

家のリビングでは、セイラが妖精たちと協力して男の子に水を飲ませたり、冷やした布で体を冷やしたりしていた。

「少し熱があるけど、命に別状はなさそうだね。」セイラが紬に向かって頷いた。「ただ、かなり疲れてるみたい。」

「ありがとう、セイラ。」紬はほっと息をつきながら、家族に声をかけた。「お父さん、お母さんも疲れてるでしょう?よかったら、これを飲んでください。」

そう言って差し出したのは、庭で育てたハーブで作った温かいお茶だった。

「ありがとうございます……本当に助かります。」母親は感謝しながら、カップを手に取った。

「何があったんですか?」紬が優しく尋ねると、父親が苦しげに話し始めた。

「私たちは外の町に住んでいます。最近、その町の周りでモンスターが増えていて……安全な場所を探して、森の中に入ったんですが、道に迷ってしまって。」

「モンスター……」紬は小さく呟いた。「それで、こんな奥まで来ちゃったんですね。」

「ええ。ここがこんなに平和な場所だとは思ってもいませんでした。」父親は周囲を見渡しながら驚いたように言った。「でも、ここは本当に安全なんですか?森の外は危険だらけなのに。」

「ここは妖精たちが守ってくれるし、みんなで力を合わせて安全に暮らしてます。」紬は自信を持って答えた。「よかったら、しばらくここで休んでいってください。」

その日の夜、男の子の体調も少し回復し、家族はようやく落ち着いた様子だった。夕食を共にしながら、外の町の話を聞くことになった。

「町は最近、本当に住みづらくなっています。モンスターのせいで物資が届かなくなり、食べ物や薬も不足していて……」母親が悲しそうに語る。

「町に行ったことはないけど、そんなに大変なんですね……」紬は考え込んだ。「でも、そんな時にどうして森に?」

「森には、昔から安全な隠れ場所があるって噂を聞いて……でも、場所は誰も知らないままだったんです。」父親が答える。

「それならここが、その隠れ場所になれるかもしれませんね。」紬は微笑んだ。「みんなが安心して暮らせる場所を作りたいんです。」

「そんなことが本当に……?」母親は驚いたように紬を見つめた。

「大丈夫です。きっとできます。」紬は力強く言った。「だって、ここには素敵な仲間たちがいるんですから!」

こうして、紬の森には新たな住人として家族が加わることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...