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森の中の住人たち
しおりを挟むライルが紬の家の一員となり、生活はさらに活気づいた。彼のサバイバル知識や体力は大いに役立ち、庭の拡張や川の近くでの水車設置計画など、次々と新しいアイデアが生まれた。
そんなある日、紬とライルは川沿いで資材を集めていた。水車を作るために使えそうな木材や石を探している最中、ふとライルが立ち止まった。
「紬、何か聞こえないか?」
「え?」紬も足を止めて耳を澄ませる。
すると、かすかに水の流れる音に混じって、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。それは人間のものではなく、どこか軽やかで、高い音だった。
「もしかして……妖精?」紬が呟くと、アクアがすっと浮かび上がった。
「ううん、妖精じゃないと思う。もっと大きい音……何かが近くにいるよ!」
二人は声のする方に向かって歩みを進めた。そして、川が少し広がった小さな湖のような場所にたどり着くと、そこにはなんと、水面に腰かけるようにして歌を歌う人魚がいた。
「う、嘘……本当にいるの?」紬は目を見開いてその光景に見入った。
人魚は長い銀色の髪を揺らしながら、澄んだ声で歌い続けている。その姿は美しく、まるで絵本から抜け出してきたかのようだった。
「気をつけろ、紬。」ライルは紬の肩を掴んで後ろに引いた。「人魚は見た目は美しいけど、油断すると危険なこともあるって聞いたことがある。」
しかし、紬はライルの言葉を気に留める様子もなく、じっと人魚を見つめていた。歌声にはどこか寂しさが滲んでいて、紬はその理由を知りたくなった。
「ねえ!」紬は勇気を出して声をかけた。
歌うのをやめた人魚が、こちらに気づいて振り向いた。大きな青い瞳が紬を見つめる。
「あなた、人間?」人魚は不思議そうに首を傾げた。
「うん。ここで暮らしてるの。」紬は一歩前に進んで微笑んだ。「さっきの歌、すごく綺麗だったよ。」
人魚は少しだけ顔を赤くしたように見えた。「そ、そう?でも、どうしてここに?」
「川の水を使って水車を作ろうと思っててね。」紬は説明した。「あなたは、ここでいつも歌ってるの?」
「……ここしか居場所がないから。」人魚は少し俯いて答えた。「森の川を流れてここにたどり着いたけど、私には行く場所がないの。」
紬はその言葉に心を動かされた。
「ねえ、うちに来ない?私たちの家はこの森にあるんだけど、一緒に暮らさない?」
「えっ!?」人魚は目を丸くした。「でも……私、陸では動けないし……邪魔になっちゃうかも。」
「そんなことないよ!」紬はすぐに言った。「妖精たちもいるし、みんなで工夫すればきっと楽しく暮らせると思うんだ。」
「それに!」ライルが横から加わった。「俺たち、いま川を使った水車を作ろうとしてるんだ。君の力が役に立つかもしれないぞ。」
人魚はしばらく考えた後、小さく頷いた。「……じゃあ、少しだけお世話になってみようかな。」
「やった!」紬は嬉しそうに笑った。「それじゃあ、まずは君のことをもっと知りたいな。名前、教えてくれる?」
「名前は……セイラ。」人魚は恥ずかしそうに微笑んだ。「よろしくね。」
こうして、新たな住人である人魚のセイラが加わった。彼女の存在は、森の生活をさらに賑やかで個性的なものにしていくのだった。
セイラを家に連れ帰るには一工夫が必要だった。ライルが森から太い蔓と大きな葉を集めて即席の担架を作り、妖精たちが浮かせる魔法で支えながら、みんなで協力して慎重に運んだ。
「……これ、けっこう楽しいね!」紬は担架の先を持ちながら笑った。
「楽しいのはお前だけだろ!」ライルは苦笑しつつ担架の反対側を持ち上げていた。「セイラが川に戻りたがる前に急げよ!」
「ふふ、こんなに丁寧に運ばれるなんて初めて。」セイラは担架の上で微笑みながら、紬たちをじっと見ていた。その表情には不安ではなく、少しずつ信頼が芽生えているような温かさがあった。
家に着くと、紬とライルはさっそくセイラのために大きな水槽を作ることにした。庭にある浅い池を利用し、ライルが掘り直し、紬が周囲を綺麗に整える。妖精たちは魔法で水を引き込み、セイラが快適に過ごせる場所を作り上げた。
「どうかな?」紬がセイラに声をかけると、人魚は池の中でゆっくりと泳ぎながら微笑んだ。
「……すごくいい。こんな場所ができるなんて思ってなかった。」
「これで君もこの家の住人だね!」紬は嬉しそうに手を叩いた。「何か困ったことがあったら、いつでも言ってね。」
セイラは少し戸惑いながらも、「ありがとう……紬、ライル、みんな」と小さく呟いた。
翌朝、紬は庭で家庭菜園の世話をしていると、池の方からセイラの歌声が聞こえてきた。
「おはよう、セイラ!」紬が顔を上げると、セイラは水面に顔を出し、笑顔を向けた。「歌ってたんだね。すごく綺麗な声だよ。」
「ありがとう。歌ってると、なんだか気持ちが落ち着くの。」セイラは頬を赤らめながら言った。「でも、紬はいつも何かしてるんだね。朝から働き者だね。」
「これが私の日課だからね。」紬は笑顔を返しながら、水を撒く手を止めた。「そうだ、セイラも何かやりたいことがあれば教えてよ。ここでみんな一緒に暮らすんだもの、君にもやりたいことを見つけてほしいな。」
セイラは少し考えた後、静かに答えた。「……私、川や水のことには詳しいから、それを役立てたいな。水車を作るって言ってたよね?何か手伝えることがあるかも。」
「本当!?」紬の目が輝いた。「それならぜひお願いしたいな!」
その日の午後、紬とライル、そしてセイラは水車の設置作業を始めた。セイラは水流の強さや方向を的確に教え、ライルがそのアドバイスをもとに木材を組み立てる。紬は手元の作業をサポートしながら、次第に形になっていく水車を見上げて感嘆の声を上げた。
「すごい……本当に動きそう!」
「動くどころか、これなら家中の電力をまかなえそうだな。」ライルは額の汗を拭いながら言った。「いいチームワークだ!」
「私、こんなに誰かと一緒に何かをするのは初めて。」セイラは水面に浮かびながら微笑んだ。「ここに来てよかった……ありがとう。」
「こちらこそ!」紬はセイラに向かって笑顔を見せた。「これからも一緒に楽しいこと、たくさん見つけようね。」
水車が完成する頃には、彼らの絆はさらに深まっていた。新たな仲間とともに、紬の森での生活はますます賑やかで温かいものとなっていく――。
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