家ごと異世界ライフ

ゆきどけ

冬が終わり、森に少しずつ春の気配が戻ってきた。雪は日に日に溶け、木々の間から差し込む日差しが暖かさを増していく。まだ肌寒い朝、紬は自宅の縁側に座り、湯気の立つマグカップを両手で包みながら外を眺めていた。

「春が来るんだね……」
小さな呟きに答えるように、ミアが光の玉の姿でふわりと浮かび上がった。
「森の中でも新しい命がたくさん芽生えるよ！ほら、あそこ！」

紬が視線を向けると、雪の下から顔を出したばかりの緑の芽が揺れていた。
「あ、ほんとだ！これってたぶんふきのとうだね。食べられるんだよ。」

そんな中、リュカが森の奥から駆け戻ってきた。雪解け水で濡れたブーツのまま、家のドアを勢いよく開ける。
「紬！外の道が開けたぞ！ついに行商が来れる！」
「ほんと？！」
紬は急いでリュカの後を追って外に出た。

川沿いの雪がほとんど溶け、道が少しずつ姿を現しているのが見える。川の水量も増え、溶けた雪が勢いよく流れ込んでいる。

「これならもうすぐ来られるな。前にライルに頼んでおいた物資も届くかも！」
紬はうれしそうに手を合わせた。冬の間に使い切ってしまった材料や生活用品を思い出しながら、頭の中で買い足すリストを考え始める。

数日後、ライルが行商人を連れて戻ってきた。森の入口に到着した馬車から降りたのは、見覚えのある陽気な中年男性。彼の名はギルバートで、ライルが紬に紹介してくれた信頼できる行商人だった。

「お嬢ちゃん、久しぶりだねぇ！元気にしてたかい？」
「はい！ギルバートさん、来てくれてありがとうございます！」
紬は笑顔で迎え、馬車の中に積まれた荷物を見て目を輝かせた。

「今回はライルの話を聞いて、特別にたくさん持ってきたぞ。生活用品から種子、ちょっとした贅沢品までね！」
紬は目を輝かせながら荷物を確認した。塩や砂糖、小麦粉といった日用品のほかに、花の種や木彫りの美しいスプーンなども並んでいる。

住人たちが集まり、行商の荷物を興味津々で眺める。バルトは工具を手に取り、エイラはカラフルな布を嬉しそうに撫でている。
「これでまた新しい服が作れるな！」
「紬、これ買おうよ！」

紬は住人たちと相談しながら必要な物を選び、ギルバートと取引を進めた。ギルバートも楽しそうに対応し、最後には森で採れた薬草や手作りの木製品と物々交換までしてくれた。

その日の夕方、買い込んだ物資を整理し終えると、住人たちは紬の家に集まり、小さなお祝いをすることにした。
「紬、これでまた春を元気に迎えられるな！」
リュカが笑いながら言うと、紬も嬉しそうに頷いた。
「ほんとだね。これからまた畑の準備をしたり、森で新しい発見をしたり、忙しくなりそう。」

暖かい空気に包まれた家の中で、彼らはこれから始まる春の暮らしに思いを馳せていた。森も村も、雪解けとともにまた新しい息吹を感じていた。