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虹が呼ぶ、森の冒険
しおりを挟む森はしとしとと降り続いた雨がようやく止み、しっとりとした空気に包まれていた。草や木々は水滴をまとい、普段よりも鮮やかに見える。紬は窓の外を見つめながら、雨上がり特有の静けさを楽しんでいた。すると、ドアを勢いよく叩く音が響いた。
「紬さん!」
声を上げたのはカイルだ。獣人たちの住民の中でもひときわ快活で、行動力のある彼が、珍しく慌てた様子で顔を覗かせる。
「どうしたの、カイル?」
「虹だよ!すごく大きな虹が森の向こうにかかってるんだ。見に行こう!」
その声に、背後から同じく獣人のレイナとフリッツも駆け込んでくる。レイナは小柄でおっとりした雰囲気の狐獣人で、フリッツは少しお調子者の狼獣人だ。
「虹って、どこまで続いてるか知りたくない?」
フリッツがにやりと笑いながら言う。レイナは「どこかに宝物が埋まってるかもしれないわ」と冗談交じりに付け加えた。
紬は思わず笑ってしまった。「宝物かぁ。でも、面白そうね。せっかくだし、みんなで探しに行こう!」
紬たちは身軽な服装に着替え、森の奥へと歩き出した。雨上がりの道はぬかるんでいたが、獣人たちはその足で軽々と進んでいく。紬も彼らの後を追いながら、空にかかった虹をじっと見つめた。大きな弧を描き、森の向こうまで続いている。
「こうやってみんなで探検するの、久しぶりだね!」
紬が言うと、カイルが振り返り、「確かに。最近は村の建設や交易で忙しかったし、のんびりする時間なんてなかったからなぁ」と頷く。
途中、ぬかるみに足を取られたり、水たまりで遊び始めたフリッツに足止めされたりと、道中は賑やかだったが、それもまた楽しいひとときだった。レイナは道端に咲く花を摘みながら、「虹のふもとに何かあるといいね」と微笑んでいる。
森を抜けると、開けた丘に出た。そこからは虹がさらに大きく、はっきりと見える。
「ここだよ!」
カイルが声を上げ、皆が駆け寄った。虹はまるで手の届きそうな距離にかかっている。
「本当にきれい……」
紬は立ち止まり、息を呑んだ。こんなに大きな虹を間近で見るのは初めてだった。フリッツは感慨深げに「なんだか、虹をくぐれそうじゃないか?」と冗談を言い、カイルは「だったら走り抜けてみる?」と笑った。
レイナが地面を指さし、「見て、ここ。水たまりに虹が映ってる!」と言う。その言葉に皆が覗き込むと、小さな水たまりに美しい虹の一部が映っていた。紬はそっとその水面に手を伸ばし、水の冷たさを感じながら静かに微笑む。
夕暮れ時、虹はゆっくりとその姿を消していった。紬たちは手を振りながら「またこんな冒険をしようね」と約束する。帰り道はお土産代わりに摘んだ花や、途中で拾った面白い形の石などを持ち帰りながら、賑やかな声が森に響いていた。
虹そのものは手に届かないけれど、その日得た楽しい時間と友情は紬にとって、何よりも大切な宝物になったのだった。
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