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虫たちの音楽会
しおりを挟む昼下がりの集会所、穏やかな陽射しが差し込む中、紬はお茶を片手に住民たちと話していた。季節は初秋に差し掛かり、虫たちの美しい音色が森中に広がる頃だった。その音を聞きながら、ふと紬は思いついた。
「ねえ、みんなで森の虫たちの音を楽しむ会を開いてみない?」
一瞬の静寂の後、ミアが弾けるように声を上げた。「素敵!虫たちの音楽会なんて、きっと楽しいわ!」
「音を楽しむなら、静かな場所がいいだろうな。」グレンは腕を組み、森の奥を見つめながら低い声で言った。その言葉に皆がうなずき、一気に計画が動き出した。
昆虫採集の日、森の空気は心地よく、少し冷たさを感じる風が木々の間を抜けていった。紬たちは網や虫かごを手に森の奥へと向かう。子どもから大人まで、みんながはしゃいでいた。
「この葉っぱの下、コオロギがいる!」ミアが声を上げると、周りにいた子どもたちが一斉に集まった。小さな手でそっと葉を持ち上げると、黒光りするコオロギが可愛らしい鳴き声を上げていた。
「きれいな音色だね。これならみんなで楽しめそう!」紬が笑顔で捕まえたコオロギを虫かごに入れると、ミアはさらに張り切って次の虫を探しに走り出した。
その一方でグレンは、誰にも気づかれないよう静かに木陰にしゃがみ込んでいた。彼の手には大きなキリギリスが。紬が近づくと、グレンは短く言った。「これもいい音を出す。」
「グレンって、ほんと頼りになるよね。」紬が笑顔でそう言うと、彼は少し照れたように視線をそらした。
住民たちの楽しそうな声が森に響き、気がつけば夕方まで虫たちを探し続けた。たくさんのスズムシ、コオロギ、キリギリスたちが集まり、虫の音楽会への期待が膨らむ。
採集を終えた翌日、住民たちは会場の準備に取り掛かった。選ばれたのは森の中でも特に静かな、小川のそばの広場だった。灯りを吊るし、草を敷いて座席を整え、虫かごを飾りつけていく。
「本当に音楽会みたいになってきたわね!」ミアが嬉しそうに声を上げると、周りも笑顔になった。紬も完成した会場を見て、心の中で小さくガッツポーズをした。「これなら、みんな楽しめそう!」
夜が訪れ、会場には住民たちが続々と集まった。満月が森を優しく照らし、虫たちのかごからは一斉に音色が響き始めた。
スズムシの高い音、コオロギの軽やかな響き、キリギリスの深みのある音。それぞれが重なり合い、まるで自然のオーケストラだった。
「この音色、心が癒されるね。」
「虫たちって、こんなに素敵な音を奏でるんだなあ。」
住民たちは焚き火を囲み、虫の音に耳を傾けながらゆっくりとした時間を楽しんでいた。
その中で、紬はふと隣に座るグレンを見た。無言で音色に耳を傾ける彼の横顔を見て、思わず微笑む。「グレン、こうしてみんなで自然を楽しめるのって素敵だね。」
グレンはゆっくりとうなずいた。「この森にはまだまだ魅力がある。それを見つけるのも、悪くない。」
その言葉に、紬は嬉しそうに頷いた。
虫たちの音色が森中に広がる中、住民たちは優しい月明かりの下で幸せな夜を過ごした。「虫の音を楽しむ会」は、森の住民たちにとって忘れられないひとときとなったのだった。
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