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あるひしろくまさんにであった
しおりを挟む冷たい冬の風が村に吹き抜ける中、紬たちは温泉のある雪山へと足を運んでいた。村人たちの間で「最近、温泉に大きな動物が現れる」と噂され、確認がてら雪道を踏みしめながら進んでいたのだ。ふわふわと雪が舞い落ちる中、見えてきた温泉の湯気は、あたりの寒さを忘れさせるほど暖かそうだった。
「本当に動物がいるのかな?」紬がグレンに問いかけると、彼は「足跡はあった」と手短に返した。見れば、雪の上に巨大な足跡が並んでいる。人間の足跡の倍以上もあるその形状に、一同は期待と少しの不安を抱きながら温泉へ近づいた。
湯気が立ちこめる岩風呂の縁を覗き込んだ瞬間、紬たちは息をのんだ。そこには、真っ白なしろくまが湯船に浸かり、まるで誰も邪魔しないでくれと言わんばかりにくつろいでいるではないか。湯気がしろくまの毛を柔らかく揺らし、金色の目はうっとりと閉じられている。その隣には、数匹のカピバラたちが寄り添い、毛づくろいをしてあげている様子まで見える。
「わぁ…なんてのどかなんだろう。」紬は思わず声を漏らした。
グレンは腕を組みながら「あいつ、完全にここを自分の風呂場だと思ってるな」とぼそっと呟く。
少し離れたところで、エルフのフィネアが笑顔を浮かべ、「これは素晴らしい光景だわ。こんな平和な姿、見たことがない」と言った。彼女の言葉には、純粋な驚きと喜びが混じっていた。
最初はしろくまの存在に驚いていた村人たちも、しろくまが全く攻撃的でないことを知り、徐々に受け入れ始めていた。温泉に入るしろくまの姿は、いつしか村の子どもたちの間でも話題になり、「見に行きたい!」という声が次々と上がるようになった。
「せっかくだから、温泉の一部を分けてしろくま専用にしてみてはどうだろう?」紬が提案すると、村人たちも賛成した。こうして、しろくまとカピバラのための専用温泉エリアが作られることになったのだ。
ある日、しろくまが温泉からゆっくりと上がり、背中に一匹のカピバラをおぶって帰る姿を見た紬たちは、なんとも言えない温かい気持ちになった。グレンですら「悪くないな」とつぶやき、頬を緩ませていた。
「また来てね!」紬がしろくまに手を振ると、その声に反応したように、しろくまが一度振り返り、大きな足で雪を踏みしめながら森の奥へと消えていった。
その日以来、温泉でくつろぐしろくまとカピバラの姿は、村の新たな名物として語り継がれることとなった。村の人々の心に暖かい思い出を残してくれたしろくまとカピバラ――それは、冬の森が紬たちに届けた何よりの贈り物だった。
温泉街のしろくまが街中を歩いていると、当然ながら住人や観光客たちの目を引く。とりわけ小さな子どもたちは「大きいくまさんだ!」と歓声を上げ、親たちは苦笑いをしながらも、どこか安心した表情でしろくまを見守っていた。
その日、温泉街では毎月恒例の「朝市」が開催されていた。しろくまがその賑わいに足を踏み入れると、屋台の店主たちは驚きつつも商魂たくましく「特大サイズの魚があるよ!」「はちみつの試食もどうぞ!」と呼び込みを始めた。しろくまは最初こそ恥ずかしそうにしていたが、次第に興味を持ち始め、魚の串焼きを一口で平らげたり、甘いはちみつを舐めて満足げに鼻を鳴らしていた。
その様子を見ていた紬たち一行は、ついつい笑いを堪えきれなくなった。
「しろくまが朝市を楽しんでるなんて、これぞ森の温泉街の新名物ね」と紬は呟いた。
一方で、しろくまはその大きな体ゆえに、少々迷惑もかけてしまう。特に狭い路地では、ふとした拍子に尻尾で飾り棚を倒してしまい、陶器の湯呑みを割ってしまう場面も。すぐさま店主に謝ろうとしたが、店主のおばあさんは笑顔で「気にしないでおくれ。それより、これが君に似合いそうだ」と言い、しろくまの頭に温泉街特製のタオルを巻いてくれた。
「ぷぷっ…!なんだか、温泉街のマスコットみたいになってるわ!」とミアが指さして笑うと、しろくまは照れくさそうに耳をぺたんと寝かせた。けれどもその仕草がまた可愛らしく、観光客たちは写真を撮り始め、気づけばしろくまは一躍「朝市のスター」になっていた。
そしてその日の午後、しろくまは再び温泉へ。カピバラたちは既に湯船でくつろいでおり、しろくまの到来に「また来たのか」というような顔でちらりと見るものの、何事もなかったかのように湯の中で草をもぐもぐ食べ続けていた。しろくまはカピバラたちの隣に腰を下ろすと、彼らと一緒に湯船でのんびり。
「なんだか、不思議な組み合わせだけど、妙に絵になるわね」と紬は微笑んだ。グレンは「ふむ。これが温泉街の新しい風景だというのも悪くない」と呟きながら、少しだけ得意げにうなずいた。
こうして、しろくまのほのぼのエピソードは森の温泉街にまたひとつ新しい彩りを添える結果となった。観光客たちの間でも「しろくまがいる温泉街」として話題になり、温泉街はこれまで以上に賑わいを見せることに。そして何より、しろくまとカピバラの不思議な友情は、この森を訪れる人々に小さな癒しを与え続けることだろう。
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