終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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会社帰り、駅前のラーメン屋に寄った。

「お前、あの感染症のニュース見た?」

向かいに座る同僚の藤木が、ビールのジョッキを置きながら言った。

「南米のやつか?」

俺、三浦拓真は箸を割りながら適当に返した。最近、やたらとネットで話題になってるが、正直まだピンと来ていない。

「そう、それ。なんかさ、ただの感染症じゃないって噂になってんじゃん。死んだはずの人間が動くとか、病院が襲われたとか」

「いや、それネットのデマだろ。そもそも証拠らしい証拠がないし」

「でもさ、テレビでも結構騒ぎ始めてるんだぜ」

藤木がそう言いながら、カウンターの上のテレビを指さした。

──「続いてのニュースです。海外で拡大していた原因不明の感染症について、日本国内で初の感染者が確認されました」

「え?」

思わず箸を止めた。

ニュースキャスターは真剣な表情で続ける。

「厚生労働省によりますと、都内の病院に入院していた50代男性患者が、昨夜未明に異常行動を示したとのことです。関係者によると、この患者は死亡が確認されたあと、突然目を開け、看護師に襲いかかったと──」

店内のざわめきが一気に静まった。

「……マジかよ」

藤木が、手にした餃子を落としそうになっている。俺も信じられない思いで画面を見つめた。

「病院関係者によると、男性患者は死亡後に蘇生したわけではなく、誤診の可能性もあるとのことですが、現在、専門家による詳しい調査が行われています」

キャスターの声が続くが、客の誰もが一様に顔を強張らせていた。

「……なあ、これさ」

藤木が小声で言う。

「ネットの噂、本当だったってことじゃね?」

俺は何も答えられなかった。ラーメンの湯気がもうもうと立ちのぼる中、背筋がひどく冷たくなっていた。




夜、部屋の明かりを落とし、ヘッドセットをつけた。PCの画面にはFPSゲームのロビーが映っている。

「おいおい、ついに日本でも感染者出たってよ」

通話に入るなり、安田が大げさな声をあげた。

「ニュースでやってたな」

斉藤が応じる。いつものメンツ、俺、安田、斉藤、そして高橋。大学時代の友人で、今でも週に数回はこうしてゲームをしながらダラダラ話す。

「俺、会社のラーメン屋でそれ見たわ。看護師が襲われたって話、どう考えてもヤバいよな」

「ガチでゾンビ化してんのかね?」

高橋が言う。普段は寡黙なやつだが、こういう時は意外とノリがいい。

「まあ、映画みたいにいきなり脳みそ食いに来るってことはないだろうけどな」

安田が笑う。

「でもさー、もし本当にゾンビパンデミック起きたら、お前らどうする?」

斉藤がゲームのロード画面を眺めながら言った。

「いや、それ考えるのが楽しいんだろ? まず武器な。一般人が用意できる範囲で言えば、何が最強?」

「バットだな」

「いや、刃物はどうよ? 包丁とか」

「いやいや、包丁は刺さっても抜けなくなるからダメだって。鈍器のほうがいい」

「ほうきの柄とか金属バットが安定か」

「だよなー。でも日本じゃ銃なんて手に入らねえしな」

「じゃあ、避難場所は?」

「俺んち近くにホームセンターあるんだけど、最強じゃね?」

安田が得意げに言う。

「確かに、道具もあるし、食料もある。屋上もあるし、立てこもれるな」

「でも、同じこと考えるやつが押し寄せて、結局カオスになるんじゃね?」

「うわ、それ映画でもよくあるやつ」

「むしろ、人の少ない田舎の廃校とかのほうがよくね?」

「でもさー、結局食糧確保が一番ヤバくね?」

「水さえあればしばらくは生きられるけどなー」

そんなふうに、俺たちはゲームそっちのけで話し込んだ。たかが遊びのつもりだった。現実感のない、ゾンビ映画の中の話を想定して、ふざけ半分でシミュレーションしていた。

でも、そのとき誰も知らなかった。

俺たちがふざけて考えていた「もしも」が、すぐそこまで迫っているなんて。
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