終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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翌朝、ニュース番組を見ながらコーヒーをすする。

「昨日の夜、東京都内の駅構内で乗客による暴行事件が発生しました」

キャスターの落ち着いた声が流れる。

「目撃者によりますと、犯人の男性はホームで突然意識を失い、その後、近くにいた乗客に噛みついたとのことです。警察は、何らかの健康上の問題が影響した可能性があると見て、詳しく調査を進めています」

コーヒーを飲む手が止まる。

「……噛みついた?」

映像には、規制線が張られた駅のホームが映っている。血の跡がうっすらと残り、警官たちが忙しなく動き回っていた。

昨日の深夜、都内のある駅で起きた事件らしい。

SNSを開くと、すでに関連ワードがトレンド入りしていた。

「○○駅暴行事件」
「乗客が突然暴れた?」
「感染症?ゾンビ?」

「ゾンビって……」

半笑いになりながらも、つい気になってスレを開く。

──「昨夜、○○駅でやばい事件あったらしい」
──「電車の中で男が暴れて、近くの人に噛みついたってよ」
──「しかも噛まれたやつがその後おかしくなったらしい」
──「これ、海外の感染症と関係あるんじゃね?」
──「政府はまだ隠してるんじゃね?」

「……」

さすがに飛躍しすぎだろ、と思いながらスクロールする。

でも、なんとなく引っかかる。

「海外の感染症」

つい数日前、南米やヨーロッパで広がっているとニュースになっていたやつ。

それと、この事件が関係ある……?

ふと、スマホが鳴った。

通話相手は、安田だった。

「おい、三浦、ニュース見たか?」

開口一番、早口でまくし立てる。

「今見てた。電車の暴行事件のやつだろ」

「なあ、これさ、絶対やべえやつじゃね?」

「いやいや、まだただの暴力事件だろ。ニュースでもそう言ってるし」

「は? ニュースが言ってることなんか信じてんの?」

「……は?」

「お前さ、掲示板見た? ガチでやばい話出てるんだけど」

「いや、今ちょっとスレ覗いてたけど、ほとんど噂レベルだろ」

「違う違う、5ちゃんのほうじゃなくて、匿名系の海外掲示板。そっちの翻訳読んでみろ」

面倒くせえな、と思いつつ、安田が送ってきたリンクを開く。

そこには、海外の掲示板で翻訳された投稿が並んでいた。

──「俺、○○駅にいたんだけど、あの男、噛まれる前からおかしかったぞ」
──「動きが変だった。目が焦点合ってなかったし」
──「最初は普通に立ってたのに、急に崩れ落ちて、それから暴れだした」
──「警察が確保したって報道されてるけど、あの後、どうなったか誰も知らない」
──「しかも、似たような事件、他の駅でも起きてるらしい」

背中がゾクリとする。

「な、これ、やばくね?」

安田が興奮気味に言う。

「いや……でも、まだ確定じゃないだろ。発作かもしれないし、病気の可能性もある」

「お前さ、海外の感染症ニュースとこれ、偶然だと思う?」

「……」

答えられなかった。

「俺は、何か裏があると思ってる」

安田の声が低くなる。

「政府はパニックになるのを防ぐために、これを普通の事件として処理しようとしてる。でもさ、これってもう国内に入り込んでるってことじゃね?」

「……」

「だから、今のうちに備えたほうがいい」

「おいおい、そんな大げさな……」

「大げさじゃねえよ。お前さ、食料とか非常用品、家にどんくらいある?」

「は?」

「水、カップ麺、電池、懐中電灯、そういうの」

「……そりゃ多少はあるけど」

「ダメだ、もっと用意しとけ。あと、現金もある程度持っとけよ」

「……お前、ほんとにそんな事態になると思ってんのか?」

「なってからじゃ遅いんだよ」

安田ははっきりと言った。

「俺は、今のうちに準備しとく。お前もやれることはやっとけ」

そう言い残して通話が切れる。

スマホの画面が暗くなった。

カーテン越しに窓の外を見た。

春の日差しが差し込む、何の変哲もない朝。

でも、何かがじわじわと崩れ始めているような気がした。

俺は、もう一度SNSを開く。

そこには、また別の暴行事件の投稿が増えていた。
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