3 / 84
3
しおりを挟む
翌朝、ニュース番組を見ながらコーヒーをすする。
「昨日の夜、東京都内の駅構内で乗客による暴行事件が発生しました」
キャスターの落ち着いた声が流れる。
「目撃者によりますと、犯人の男性はホームで突然意識を失い、その後、近くにいた乗客に噛みついたとのことです。警察は、何らかの健康上の問題が影響した可能性があると見て、詳しく調査を進めています」
コーヒーを飲む手が止まる。
「……噛みついた?」
映像には、規制線が張られた駅のホームが映っている。血の跡がうっすらと残り、警官たちが忙しなく動き回っていた。
昨日の深夜、都内のある駅で起きた事件らしい。
SNSを開くと、すでに関連ワードがトレンド入りしていた。
「○○駅暴行事件」
「乗客が突然暴れた?」
「感染症?ゾンビ?」
「ゾンビって……」
半笑いになりながらも、つい気になってスレを開く。
──「昨夜、○○駅でやばい事件あったらしい」
──「電車の中で男が暴れて、近くの人に噛みついたってよ」
──「しかも噛まれたやつがその後おかしくなったらしい」
──「これ、海外の感染症と関係あるんじゃね?」
──「政府はまだ隠してるんじゃね?」
「……」
さすがに飛躍しすぎだろ、と思いながらスクロールする。
でも、なんとなく引っかかる。
「海外の感染症」
つい数日前、南米やヨーロッパで広がっているとニュースになっていたやつ。
それと、この事件が関係ある……?
ふと、スマホが鳴った。
通話相手は、安田だった。
「おい、三浦、ニュース見たか?」
開口一番、早口でまくし立てる。
「今見てた。電車の暴行事件のやつだろ」
「なあ、これさ、絶対やべえやつじゃね?」
「いやいや、まだただの暴力事件だろ。ニュースでもそう言ってるし」
「は? ニュースが言ってることなんか信じてんの?」
「……は?」
「お前さ、掲示板見た? ガチでやばい話出てるんだけど」
「いや、今ちょっとスレ覗いてたけど、ほとんど噂レベルだろ」
「違う違う、5ちゃんのほうじゃなくて、匿名系の海外掲示板。そっちの翻訳読んでみろ」
面倒くせえな、と思いつつ、安田が送ってきたリンクを開く。
そこには、海外の掲示板で翻訳された投稿が並んでいた。
──「俺、○○駅にいたんだけど、あの男、噛まれる前からおかしかったぞ」
──「動きが変だった。目が焦点合ってなかったし」
──「最初は普通に立ってたのに、急に崩れ落ちて、それから暴れだした」
──「警察が確保したって報道されてるけど、あの後、どうなったか誰も知らない」
──「しかも、似たような事件、他の駅でも起きてるらしい」
背中がゾクリとする。
「な、これ、やばくね?」
安田が興奮気味に言う。
「いや……でも、まだ確定じゃないだろ。発作かもしれないし、病気の可能性もある」
「お前さ、海外の感染症ニュースとこれ、偶然だと思う?」
「……」
答えられなかった。
「俺は、何か裏があると思ってる」
安田の声が低くなる。
「政府はパニックになるのを防ぐために、これを普通の事件として処理しようとしてる。でもさ、これってもう国内に入り込んでるってことじゃね?」
「……」
「だから、今のうちに備えたほうがいい」
「おいおい、そんな大げさな……」
「大げさじゃねえよ。お前さ、食料とか非常用品、家にどんくらいある?」
「は?」
「水、カップ麺、電池、懐中電灯、そういうの」
「……そりゃ多少はあるけど」
「ダメだ、もっと用意しとけ。あと、現金もある程度持っとけよ」
「……お前、ほんとにそんな事態になると思ってんのか?」
「なってからじゃ遅いんだよ」
安田ははっきりと言った。
「俺は、今のうちに準備しとく。お前もやれることはやっとけ」
そう言い残して通話が切れる。
スマホの画面が暗くなった。
カーテン越しに窓の外を見た。
春の日差しが差し込む、何の変哲もない朝。
でも、何かがじわじわと崩れ始めているような気がした。
俺は、もう一度SNSを開く。
そこには、また別の暴行事件の投稿が増えていた。
「昨日の夜、東京都内の駅構内で乗客による暴行事件が発生しました」
キャスターの落ち着いた声が流れる。
「目撃者によりますと、犯人の男性はホームで突然意識を失い、その後、近くにいた乗客に噛みついたとのことです。警察は、何らかの健康上の問題が影響した可能性があると見て、詳しく調査を進めています」
コーヒーを飲む手が止まる。
「……噛みついた?」
映像には、規制線が張られた駅のホームが映っている。血の跡がうっすらと残り、警官たちが忙しなく動き回っていた。
昨日の深夜、都内のある駅で起きた事件らしい。
SNSを開くと、すでに関連ワードがトレンド入りしていた。
「○○駅暴行事件」
「乗客が突然暴れた?」
「感染症?ゾンビ?」
「ゾンビって……」
半笑いになりながらも、つい気になってスレを開く。
──「昨夜、○○駅でやばい事件あったらしい」
──「電車の中で男が暴れて、近くの人に噛みついたってよ」
──「しかも噛まれたやつがその後おかしくなったらしい」
──「これ、海外の感染症と関係あるんじゃね?」
──「政府はまだ隠してるんじゃね?」
「……」
さすがに飛躍しすぎだろ、と思いながらスクロールする。
でも、なんとなく引っかかる。
「海外の感染症」
つい数日前、南米やヨーロッパで広がっているとニュースになっていたやつ。
それと、この事件が関係ある……?
ふと、スマホが鳴った。
通話相手は、安田だった。
「おい、三浦、ニュース見たか?」
開口一番、早口でまくし立てる。
「今見てた。電車の暴行事件のやつだろ」
「なあ、これさ、絶対やべえやつじゃね?」
「いやいや、まだただの暴力事件だろ。ニュースでもそう言ってるし」
「は? ニュースが言ってることなんか信じてんの?」
「……は?」
「お前さ、掲示板見た? ガチでやばい話出てるんだけど」
「いや、今ちょっとスレ覗いてたけど、ほとんど噂レベルだろ」
「違う違う、5ちゃんのほうじゃなくて、匿名系の海外掲示板。そっちの翻訳読んでみろ」
面倒くせえな、と思いつつ、安田が送ってきたリンクを開く。
そこには、海外の掲示板で翻訳された投稿が並んでいた。
──「俺、○○駅にいたんだけど、あの男、噛まれる前からおかしかったぞ」
──「動きが変だった。目が焦点合ってなかったし」
──「最初は普通に立ってたのに、急に崩れ落ちて、それから暴れだした」
──「警察が確保したって報道されてるけど、あの後、どうなったか誰も知らない」
──「しかも、似たような事件、他の駅でも起きてるらしい」
背中がゾクリとする。
「な、これ、やばくね?」
安田が興奮気味に言う。
「いや……でも、まだ確定じゃないだろ。発作かもしれないし、病気の可能性もある」
「お前さ、海外の感染症ニュースとこれ、偶然だと思う?」
「……」
答えられなかった。
「俺は、何か裏があると思ってる」
安田の声が低くなる。
「政府はパニックになるのを防ぐために、これを普通の事件として処理しようとしてる。でもさ、これってもう国内に入り込んでるってことじゃね?」
「……」
「だから、今のうちに備えたほうがいい」
「おいおい、そんな大げさな……」
「大げさじゃねえよ。お前さ、食料とか非常用品、家にどんくらいある?」
「は?」
「水、カップ麺、電池、懐中電灯、そういうの」
「……そりゃ多少はあるけど」
「ダメだ、もっと用意しとけ。あと、現金もある程度持っとけよ」
「……お前、ほんとにそんな事態になると思ってんのか?」
「なってからじゃ遅いんだよ」
安田ははっきりと言った。
「俺は、今のうちに準備しとく。お前もやれることはやっとけ」
そう言い残して通話が切れる。
スマホの画面が暗くなった。
カーテン越しに窓の外を見た。
春の日差しが差し込む、何の変哲もない朝。
でも、何かがじわじわと崩れ始めているような気がした。
俺は、もう一度SNSを開く。
そこには、また別の暴行事件の投稿が増えていた。
20
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年中盤まで執筆
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる