終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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翌朝、外の空気は妙に重かった。

ベランダから道路を見下ろすと、明らかに普段とは違う。車の数が増え、どの道路も渋滞が発生している。

「……もう始まってるな」

スマホを開くと、SNSでは「電車遅延」「バス運休」「タクシー捕まらない」などのワードが並んでいた。

「○○線、乗客トラブルの影響で運転見合わせ」
「××線、車両点検のため遅延(実際は暴行事件の影響?)」
「高速道路、乗用車が逆走して玉突き事故発生」

次々と異常な情報が流れ込んでくる。

テレビをつけると、キャスターが穏やかな口調でニュースを読み上げていた。

「本日未明、複数の鉄道路線でトラブルが発生し、一部区間で運転が見合わせとなっています」

画面には、混乱する駅の映像が映し出されている。警察官が規制線を張り、騒ぐ乗客をなだめていた。

「現在、鉄道会社は原因について調査中ですが、専門家によれば、昨夜から続く暴行事件との関連が指摘されています」

もはや隠しきれないのだろう。報道も徐々に「異常事態」へとシフトし始めていた。

──このままじゃ、本当に都市が止まる。

そう思ったとき、ふと頭をよぎった。

両親は大丈夫だろうか?

俺の実家は関東郊外の住宅街にある。東京ほどの混乱はまだないかもしれないが、時間の問題だ。

すぐにスマホを取り、両親にテレビ電話をかけた。

「……もしもし? 拓真?」

母の顔が画面に映る。

いつもと変わらない様子だったが、少し疲れたような表情をしている。

「おう、母さん。今、大丈夫か?」

「え? 何が?」

「ニュース見てるか? なんか色々とヤバそうなことになってるみたいだけど」

「そうね、朝のニュースで暴行事件が増えてるとは言ってたけど……」

母は曖昧な笑みを浮かべた。

「でも、こっちはまだ大丈夫よ。駅も普通に動いてるみたいだし」

「……でも、もう都内は混乱し始めてる。そっちも時間の問題かもしれないから、しばらく外に出ないほうがいいぞ」

「そんな大げさな……」

母が苦笑したとき、後ろから父の姿が映った。

「なんだ、拓真か?」

父は新聞を片手にこちらを見ていた。

「おう、親父。そっちもニュース見てるか? 今、東京ヤバいことになってる」

「ふん、どうせマスコミが騒ぎすぎてるだけだろ」

父は呆れたように肩をすくめた。

「テレビでも『落ち着いて行動を』って言ってるしな。そんなに心配しなくても──」

そのときだった。

父の体がふらりと揺れた。

「……おい、親父?」

スマホ越しに、異変を察した。

父の顔が少し青白く見える。

「ちょっと……あなた、大丈夫?」

母が不安げに近づく。

「……ああ……」

父は、呆然としたように一点を見つめていた。

「……」

まるで、何かに引き寄せられるように、おもむろに母へと歩み寄った。

「……あなた?」

母が心配そうに手を伸ばした瞬間──

ガブッ!!!

「っっ!?」

母が悲鳴を上げる。

父が、母の肩に噛みついたのが見えた。

「はっ……!? な……なにして……!!」

母が父を突き飛ばす。

父はよろめきながらも、再び母に向かって手を伸ばした。

「拓真……! たす……け──」

そのまま、スマホが落ちた。

画面が乱れ、映像がぶれる。

「おい……! 母さん!? 親父!!?」

スマホを握りしめ、必死に呼びかけるが、応答はなかった。

画面は揺れ続け、最後に父の足元が映ったかと思うと、通話は唐突に切れた。

「……嘘だろ」

俺はその場で固まった。

たった数分前まで、普通に話していたはずなのに。

何が起きた? いや、分かってる。分かってるけど、信じられない。

震える手で、もう一度スマホをかける。

──「プルルルル……」

コール音は鳴るが、誰も出ない。

「……頼む、出てくれ……」

祈るように何度もかけ直す。

だが、次の瞬間──

無機質なアナウンスが流れた。

「……」

何かが、完全に終わった気がした。
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