終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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「マンションの住人の皆さん、冷静に行動してください。感染者が確認されましたが、各自部屋に留まり、安全を確保してください。外に出ないようにお願いします」

館内アナウンスが繰り返し流れる。声の調子は努めて落ち着いていたが、動揺が隠しきれていなかった。

「……これ、もう籠城しろってことだよな」

安田がスマホを握りしめながら呟く。

「つまり、他の部屋に助けを求めるなってことか」

斉藤が冷静に分析する。

「中で感染が広がってるのに、下手に移動したら危険だからな。下手すると、誰が感染してるか分からなくなる」

「でも、このまま待ってても……」

高橋が短く言葉を切る。

「ここも安全じゃなくなるかもしれない」

誰もがその可能性を理解していた。

俺は視線を部屋の隅へ向ける。

そこには、ホームセンターで買い揃えた武器が置かれていた。

「とりあえず、こいつを準備しておくか」

俺は壁に立てかけていた刺股を手に取った。

「まさか本当に使う日が来るとはな……」

安田が苦笑しながら、金属バットを手にする。

「日本じゃ銃なんて持てないからな。こういうのが最善だろう」

「刺股は相手を抑え込むのに向いてるが、これで完全に止められるわけじゃない」

斉藤がバールを手に取りながら言った。

「だが、距離を取れるのは大きい。素手よりははるかにマシだ」

「確かにな」

高橋は黙って、工具セットを開けると、ハンマーを手にした。

「俺はこれでいい」

「お前、それでゾンビの頭割る気か?」

安田が半分冗談めかして言うと、高橋はわずかに肩をすくめる。

「やるしかないときは、やる」

「……だな」

俺は刺股をしっかりと握り直しながら、仲間たちを見渡した。

安田は、俺たちの中で一番軽いノリの男だ。だが、ネットの情報収集には長けている。すでに掲示板をチェックし、今後の動向を探っているようだった。

斉藤は冷静で、状況を論理的に分析するタイプ。こういう非常時には貴重な存在だ。今もマンションの状況を整理し、どんな選択肢があるかを考えている。

高橋は寡黙だが、実務的な思考をする。戦いになれば、ためらわずに動く男だろう。

そして、俺自身──三浦拓真。普通の会社員だった俺が、今こうして武器を握り、マンションの一室で籠城している。この異常な状況に、まだ現実味が湧いてこない。

だが、もう元の日常には戻れないことも、分かっていた。

「……とにかく、今は様子を見よう。動くのはまだ早い」

俺の言葉に、全員が無言で頷いた。

外の世界が変わり果てた今、俺たちがどこまで生き延びられるか。

その答えは、まだ分からなかった。



マンション内は静まり返っていた。

住人たちは各自の部屋に閉じこもり、誰も廊下に出てこない。アナウンスの効果はあったようだが、それだけに不気味だった。

「とりあえず、このまま何もしないのも気が滅入るな」

安田がベランダ側の窓を少しだけ開け、外の様子をうかがった。

「道路は相変わらず混乱してる。逃げようとしてる車が増えてるっぽいな」

「でも、逃げたところで安全な場所があるかどうか……」

斉藤がスマホを見ながら呟く。

「避難所の状況は?」

俺が尋ねると、斉藤は苦い顔をした。

「もう収容オーバーだな。どこも受け入れ停止か、パニックになってるって書き込みが多い」

「やっぱりな」

予想はしていたが、こうして現実を突きつけられると気が重い。

「このままマンションに籠城してても、いずれ限界がくるよな」

高橋が言った。

「ただ、外に出るのはリスクが高すぎる」

「しばらくは様子を見るしかないか……」

そう話していると、俺のスマホが震えた。藤木からのメッセージだった。

「ショッピングモール、少しずつ雰囲気が変わってきた」

俺は画面を見つめながら、嫌な予感を覚えた。

「どういうことだ?」と返信を打つと、すぐに返事が来た。

「橘の統制が強くなってきた。ルールを決めてるのはいいが、反対意見を封じる空気が出てきてる」

「……やっぱりな」

藤木の報告を読みながら、昨日のことを思い出す。

橘は確かに優秀な人間だ。リーダーとしての資質もある。だが、独善的すぎるところがあるのも確かだった。

「今のところ問題はないけど、このままいくとヤバいかもな」

「何かあったらすぐ連絡しろよ」と送ると、「分かった」と短い返事が返ってきた。

「ショッピングモールも、長くは持たなそうだな」

俺は溜息をつきながら、仲間たちに状況を説明する。

「結局、人が多い場所はどこも崩壊するんだよな……」

安田が呟く。

「政府も対応しきれてないし、最終的には自分の身を守るしかないってことか」

「じゃあ、俺たちはどうする?」

高橋が静かに尋ねる。

俺は答えられなかった。

今はまだ、ここが比較的安全だ。でも、それがいつまで続くかは分からない。

「もう少しだけ様子を見る。それからだ」

そう言うしかなかった。

外は静かだった。

だが、その静けさが、逆に不安を煽っていた。
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