終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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旅館の一室に、俺たちは荷物を広げた。

埃っぽい畳の上に座り込み、持ってきた食料を並べる。部屋の隅には、旅館に残されていた古びたちゃぶ台があり、そこに缶詰やレトルト食品を置いた。

「……なんか、キャンプみたいだな」

安田が笑いながら、缶詰のプルタブを開ける。

「実際のキャンプなら楽しいんだけどな。これはただのサバイバルだ」

藤木が苦笑し、レトルトのカレーを温めるために、小型のバーナーをセットした。

「こういうとき、米があるのは助かるな」

高橋が、レトルトご飯を湯煎しながらぼそりと言う。

「水も限られてるし、できるだけ節約しねえとな」

斉藤がペットボトルを確認しながら言う。

食事をしながら、俺たちは次のことを考えていた。

「……それで、通信はどうだ?」

俺が訊ねると、安田がスマホを取り出して苦笑した。

「俺のは今、完全に圏外だな」

斉藤と高橋もスマホを見て首を振る。

「やっぱりここじゃダメか……」

藤木がスマホを確認し、「お、入ってるな」と呟いた。

「お前、電波あるのか?」

「ドコモだからな。ギリギリ繋がる」

「マジかよ。お前も?」

安田が俺を見てニヤリと笑う。

「俺もドコモ。場所によっては繋がるぞ」

「じゃあ、情報収集はお前らが頼みの綱ってわけか」

斉藤が腕を組む。

「ただ、どこでも繋がるわけじゃない。今はかろうじて入ってるけど、たぶん安定はしない」

藤木がスクロールしながら言う。

「旅館のどこなら繋がるか、試してみる必要があるな」

「そうだな……明日、探索しながら電波の入りやすい場所を探そう」

俺は缶詰を食べながら、窓の外に目をやる。

外は完全な闇だった。

夜の静寂の中、かすかに風の音が響く。

「……本当に、ここには何もいないんだろうな」

藤木がポツリと呟いた。

俺たちは誰も、確証を持てなかった。

ただ、明日になれば、その答えが出る。

朝になっても、旅館は静まり返っていた。

俺たちは慎重に準備を整え、探索を開始することにした。

「……いないな」

高橋が低く呟きながら、旅館の廊下を進む。

どの部屋を覗いても、人の気配はない。

ゾンビの姿も、今のところ見当たらない。

だが、空気が張り詰めていた。

長年放置された空間特有の、湿った匂いと埃っぽい空気が鼻を突く。

「誰もいない……いや、過去には誰かいたかもしれないな」

藤木が壁に残された落書きを指差した。

『やばい』『逃げろ』『ここにいる』

乱暴に書かれた文字が、白い壁に黒く滲んでいた。

「肝試しか何かか?」

安田が苦笑する。

「かもな。でも、この雰囲気じゃ冗談に見えねえ」

廊下の隅には、小さな雛人形が転がっていた。

不自然に首が傾き、埃をかぶっている。

「こういうの、捨てられずに残るんだよな……」

俺は人形を見下ろしながら呟いた。

「気味悪いな……」

藤木が足でそっと人形を避ける。

探索を進めるうち、ある一室にたどり着いた。

「……ここ、誰か住んでた形跡があるな」

斉藤が部屋の中を見渡す。

畳は擦り切れ、隅には段ボールの山。

空になったインスタント食品の容器や、古びた毛布が乱雑に置かれていた。

「ホームレスが住み着いてたのか?」

「そんなところだろうな。少なくとも、ここが完全に無人になった後も誰かが使ってた」

安田が足元を見ながら言う。

「でも、今はもういないみたいだな」

何もいないのは、良いことのはずだった。

だが、空き部屋が続くほど、不気味さも増していく。

旅館の奥へと進んでいくと、土間のような空間に出た。

「……井戸がある」

俺は息を呑む。

薄暗い空間の中央に、古びた井戸がぽつんと佇んでいた。

木製の蓋が半分開いており、中は見えない。

「使えるのか?」

藤木が慎重に近づく。

「分からん……後で調べてみるしかない」

「でも、もしこれが使えれば、水の問題は一気に解決するぞ」

斉藤が目を輝かせる。

「雨水が溜まってるだけなら意味がないが……」

高橋が慎重に井戸を覗き込む。

その先は闇。

奥底は見えない。

「試しに小石でも落としてみるか?」

安田が拾った小石を落とした。

しばらくして、ぽちゃん という小さな音が返ってくる。

「水はあるみたいだな……」

「あとで浄水できるか試してみよう」

俺たちは井戸を後回しにし、さらに奥へと進む。

次に見つけたのは、古びた五右衛門風呂だった。

「……これは使えるか?」

藤木が湯船を覗き込む。

中には干からびた落ち葉と、澱んだ水が溜まっている。

「薪があれば焚けるだろうが……」

「しばらくは無理そうだな」

安田が苦笑する。

「風呂はともかく、水の確保が最優先だ」

「同感だな。まずは井戸の水を使えるかどうか試そう」

探索を終えた俺たちは、一旦集合し、次の行動を決めることにした。

とりあえず、この旅館はしばらくの間、安全な拠点になりそうだった。

しかし、それがいつまで続くかは分からない。

俺たちは、それぞれに薄暗い廊下を見渡しながら、まだ見ぬ何かを警戒していた。
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