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翌朝、俺たちは罠の様子を確認しに旅館の裏へ向かった。仕掛けてから数日が経つが、まだ一度も獲物がかかっていない。
「今日こそ何かかかっててほしいな……」
安田が期待を込めた声を出しながら、くくり罠をチェックする。だが、ロープはそのままで、地面に動物の気配はなかった。
「……ダメか」
「まあ、こんなもんだろ。すぐに獲れるとは思ってなかったし」
藤木が肩をすくめる。罠を仕掛けるのは初めてのことだったし、コツを掴むまでは時間がかかるだろう。
「じゃあ、エサの位置を調整するか。もう少し奥に置いたほうが……」
斉藤が罠を点検しながら言いかけたとき、高橋がふと足を止め、目を細めた。
「……あれ」
彼が指差したのは、少し離れたところにある急な斜面だった。土が不自然に崩れていて、滑落したような跡が残っている。
「何か落ちた跡だな」
俺たちは慎重に近づき、斜面の下を覗き込んだ。
そこには、一頭の鹿が倒れていた。
「……やったな」
藤木が息を呑む。
「これは……偶然?」
「たぶんな。足を滑らせたんだろう」
鹿はすでに動かない状態だったが、大きな傷は見当たらず、まだ新しい。腐敗もしていない。
「これは……持ち帰るしかないだろ」
「でも、引き上げるの大変だぞ」
「いや、せっかくの食糧だし、頑張ろう」
俺たちはロープを使って鹿を引き上げることにした。
「これが結構……重いな……」
「そりゃそうだろ……でも、無駄にはできねえ……!」
全員で力を合わせ、ようやく鹿を地上へ引き上げた。
「さて、どうする?」
「とりあえず旅館に持ち帰ろう。ここで処理するのは無理だ」
「さすがに旅館の中ではできないし……庭でやるしかないか」
「必要な部分だけ切り分けて、あとは山に埋めよう」
旅館に戻り、俺たちは慎重に鹿の処理に取り掛かった。素人でもできる範囲で肉を切り分ける。
「とりあえず、とりやすい部分を優先だな」
高橋がナイフを使い、脂肪の多い部位を取り分ける。骨や不要な部分は新聞紙に包み、後で埋めることにした。
「これは冷凍できないから、早めに食べないと」
「燻製にできれば保存が効くんだが……」
「その辺は後で考えよう」
「それにしても、ラッキーだったな。狩猟できなくても、こうやって獲物が手に入るとは」
藤木が苦笑する。
「まあ、運も実力のうちってやつだな」
俺たちはこの貴重な食糧をどう活用するか考えながら、手早く処理を進めた。
鹿の肉を切り分け、必要な部位を取り出し終えるころには、すっかり日が傾いていた。庭の隅に穴を掘り、食べられない部分を埋める作業も済ませる。
「さて、こいつをどうやって調理するかだな」
高橋が腕を組みながら言う。獲れたばかりの肉を前に、誰もが期待に満ちた目をしていた。
「とりあえず、今日はシンプルに焼いて食おう」
「それが一番だな。スパイスはあるし、レトルトのカレーと合わせてもいいかも」
「それなら、ある程度まとめて焼いて、余った分は干し肉にしてみるか?」
「干し肉?」
安田が首を傾げる。
「薄く切って塩をまぶして、風通しのいいところで乾燥させれば保存できるはずだ。多少は日持ちするだろ」
「燻製にするには時間がかかるし、それが現実的かもな」
調理方法が決まり、俺たちはさっそく焚き火の準備に取り掛かった。
「久しぶりにまともな肉料理になるな」
安田が薪を組みながら言う。焚き火に火をつけ、フライパンを載せると、油をひいて鹿肉を投入した。
ジュウウウ……
肉が焼ける香ばしい匂いが広がる。
「うまそう……!」
藤木が鼻を鳴らし、みんながゴクリと喉を鳴らした。軽く塩を振り、スパイスを加え、焼き色がついたところで食べてみる。
「……これは、うまい」
「噛みごたえがあるけど、クセは少ないな」
「やっぱり、新鮮だからか?」
「しばらくはこれで食糧には困らないな」
「でも、少しずつ消費しないと、すぐにダメになる」
「明日は干し肉を作ろう。それと、鹿の骨でスープも取れるぞ」
「スープは保存できる?」
「うまくやれば、数日はもつ。冷蔵できないから、作る量を調整しないといけないけど」
こうして、俺たちは手に入れた鹿肉をできる限り活用することに決めた。
「……にしても、なんか最近サバイバル感増してきたな」
安田が焼けた肉を口に運びながら苦笑する。
「そりゃそうだ。街に頼れなくなった以上、これが普通になるんだろうな」
「ま、食えてるだけマシか」
腹を満たしながら、俺たちは明日以降のことを考えていた。罠の調整、山菜採りの継続、そして食糧のさらなる備蓄。
「この静かな生活が、いつまで続くかだな……」
焚き火の炎を見つめながら、誰かがぽつりと呟いた。
「今日こそ何かかかっててほしいな……」
安田が期待を込めた声を出しながら、くくり罠をチェックする。だが、ロープはそのままで、地面に動物の気配はなかった。
「……ダメか」
「まあ、こんなもんだろ。すぐに獲れるとは思ってなかったし」
藤木が肩をすくめる。罠を仕掛けるのは初めてのことだったし、コツを掴むまでは時間がかかるだろう。
「じゃあ、エサの位置を調整するか。もう少し奥に置いたほうが……」
斉藤が罠を点検しながら言いかけたとき、高橋がふと足を止め、目を細めた。
「……あれ」
彼が指差したのは、少し離れたところにある急な斜面だった。土が不自然に崩れていて、滑落したような跡が残っている。
「何か落ちた跡だな」
俺たちは慎重に近づき、斜面の下を覗き込んだ。
そこには、一頭の鹿が倒れていた。
「……やったな」
藤木が息を呑む。
「これは……偶然?」
「たぶんな。足を滑らせたんだろう」
鹿はすでに動かない状態だったが、大きな傷は見当たらず、まだ新しい。腐敗もしていない。
「これは……持ち帰るしかないだろ」
「でも、引き上げるの大変だぞ」
「いや、せっかくの食糧だし、頑張ろう」
俺たちはロープを使って鹿を引き上げることにした。
「これが結構……重いな……」
「そりゃそうだろ……でも、無駄にはできねえ……!」
全員で力を合わせ、ようやく鹿を地上へ引き上げた。
「さて、どうする?」
「とりあえず旅館に持ち帰ろう。ここで処理するのは無理だ」
「さすがに旅館の中ではできないし……庭でやるしかないか」
「必要な部分だけ切り分けて、あとは山に埋めよう」
旅館に戻り、俺たちは慎重に鹿の処理に取り掛かった。素人でもできる範囲で肉を切り分ける。
「とりあえず、とりやすい部分を優先だな」
高橋がナイフを使い、脂肪の多い部位を取り分ける。骨や不要な部分は新聞紙に包み、後で埋めることにした。
「これは冷凍できないから、早めに食べないと」
「燻製にできれば保存が効くんだが……」
「その辺は後で考えよう」
「それにしても、ラッキーだったな。狩猟できなくても、こうやって獲物が手に入るとは」
藤木が苦笑する。
「まあ、運も実力のうちってやつだな」
俺たちはこの貴重な食糧をどう活用するか考えながら、手早く処理を進めた。
鹿の肉を切り分け、必要な部位を取り出し終えるころには、すっかり日が傾いていた。庭の隅に穴を掘り、食べられない部分を埋める作業も済ませる。
「さて、こいつをどうやって調理するかだな」
高橋が腕を組みながら言う。獲れたばかりの肉を前に、誰もが期待に満ちた目をしていた。
「とりあえず、今日はシンプルに焼いて食おう」
「それが一番だな。スパイスはあるし、レトルトのカレーと合わせてもいいかも」
「それなら、ある程度まとめて焼いて、余った分は干し肉にしてみるか?」
「干し肉?」
安田が首を傾げる。
「薄く切って塩をまぶして、風通しのいいところで乾燥させれば保存できるはずだ。多少は日持ちするだろ」
「燻製にするには時間がかかるし、それが現実的かもな」
調理方法が決まり、俺たちはさっそく焚き火の準備に取り掛かった。
「久しぶりにまともな肉料理になるな」
安田が薪を組みながら言う。焚き火に火をつけ、フライパンを載せると、油をひいて鹿肉を投入した。
ジュウウウ……
肉が焼ける香ばしい匂いが広がる。
「うまそう……!」
藤木が鼻を鳴らし、みんながゴクリと喉を鳴らした。軽く塩を振り、スパイスを加え、焼き色がついたところで食べてみる。
「……これは、うまい」
「噛みごたえがあるけど、クセは少ないな」
「やっぱり、新鮮だからか?」
「しばらくはこれで食糧には困らないな」
「でも、少しずつ消費しないと、すぐにダメになる」
「明日は干し肉を作ろう。それと、鹿の骨でスープも取れるぞ」
「スープは保存できる?」
「うまくやれば、数日はもつ。冷蔵できないから、作る量を調整しないといけないけど」
こうして、俺たちは手に入れた鹿肉をできる限り活用することに決めた。
「……にしても、なんか最近サバイバル感増してきたな」
安田が焼けた肉を口に運びながら苦笑する。
「そりゃそうだ。街に頼れなくなった以上、これが普通になるんだろうな」
「ま、食えてるだけマシか」
腹を満たしながら、俺たちは明日以降のことを考えていた。罠の調整、山菜採りの継続、そして食糧のさらなる備蓄。
「この静かな生活が、いつまで続くかだな……」
焚き火の炎を見つめながら、誰かがぽつりと呟いた。
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