終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

文字の大きさ
44 / 84

44

しおりを挟む
翌朝、俺たちは罠の様子を確認しに旅館の裏へ向かった。仕掛けてから数日が経つが、まだ一度も獲物がかかっていない。

「今日こそ何かかかっててほしいな……」

安田が期待を込めた声を出しながら、くくり罠をチェックする。だが、ロープはそのままで、地面に動物の気配はなかった。

「……ダメか」

「まあ、こんなもんだろ。すぐに獲れるとは思ってなかったし」

藤木が肩をすくめる。罠を仕掛けるのは初めてのことだったし、コツを掴むまでは時間がかかるだろう。

「じゃあ、エサの位置を調整するか。もう少し奥に置いたほうが……」

斉藤が罠を点検しながら言いかけたとき、高橋がふと足を止め、目を細めた。

「……あれ」

彼が指差したのは、少し離れたところにある急な斜面だった。土が不自然に崩れていて、滑落したような跡が残っている。

「何か落ちた跡だな」

俺たちは慎重に近づき、斜面の下を覗き込んだ。

そこには、一頭の鹿が倒れていた。

「……やったな」

藤木が息を呑む。

「これは……偶然?」

「たぶんな。足を滑らせたんだろう」

鹿はすでに動かない状態だったが、大きな傷は見当たらず、まだ新しい。腐敗もしていない。

「これは……持ち帰るしかないだろ」

「でも、引き上げるの大変だぞ」

「いや、せっかくの食糧だし、頑張ろう」

俺たちはロープを使って鹿を引き上げることにした。

「これが結構……重いな……」

「そりゃそうだろ……でも、無駄にはできねえ……!」

全員で力を合わせ、ようやく鹿を地上へ引き上げた。

「さて、どうする?」

「とりあえず旅館に持ち帰ろう。ここで処理するのは無理だ」

「さすがに旅館の中ではできないし……庭でやるしかないか」

「必要な部分だけ切り分けて、あとは山に埋めよう」

旅館に戻り、俺たちは慎重に鹿の処理に取り掛かった。素人でもできる範囲で肉を切り分ける。

「とりあえず、とりやすい部分を優先だな」

高橋がナイフを使い、脂肪の多い部位を取り分ける。骨や不要な部分は新聞紙に包み、後で埋めることにした。

「これは冷凍できないから、早めに食べないと」

「燻製にできれば保存が効くんだが……」

「その辺は後で考えよう」

「それにしても、ラッキーだったな。狩猟できなくても、こうやって獲物が手に入るとは」

藤木が苦笑する。

「まあ、運も実力のうちってやつだな」

俺たちはこの貴重な食糧をどう活用するか考えながら、手早く処理を進めた。

鹿の肉を切り分け、必要な部位を取り出し終えるころには、すっかり日が傾いていた。庭の隅に穴を掘り、食べられない部分を埋める作業も済ませる。

「さて、こいつをどうやって調理するかだな」

高橋が腕を組みながら言う。獲れたばかりの肉を前に、誰もが期待に満ちた目をしていた。

「とりあえず、今日はシンプルに焼いて食おう」

「それが一番だな。スパイスはあるし、レトルトのカレーと合わせてもいいかも」

「それなら、ある程度まとめて焼いて、余った分は干し肉にしてみるか?」

「干し肉?」

安田が首を傾げる。

「薄く切って塩をまぶして、風通しのいいところで乾燥させれば保存できるはずだ。多少は日持ちするだろ」

「燻製にするには時間がかかるし、それが現実的かもな」

調理方法が決まり、俺たちはさっそく焚き火の準備に取り掛かった。

「久しぶりにまともな肉料理になるな」

安田が薪を組みながら言う。焚き火に火をつけ、フライパンを載せると、油をひいて鹿肉を投入した。

ジュウウウ……

肉が焼ける香ばしい匂いが広がる。

「うまそう……!」

藤木が鼻を鳴らし、みんながゴクリと喉を鳴らした。軽く塩を振り、スパイスを加え、焼き色がついたところで食べてみる。

「……これは、うまい」

「噛みごたえがあるけど、クセは少ないな」

「やっぱり、新鮮だからか?」

「しばらくはこれで食糧には困らないな」

「でも、少しずつ消費しないと、すぐにダメになる」

「明日は干し肉を作ろう。それと、鹿の骨でスープも取れるぞ」

「スープは保存できる?」

「うまくやれば、数日はもつ。冷蔵できないから、作る量を調整しないといけないけど」

こうして、俺たちは手に入れた鹿肉をできる限り活用することに決めた。

「……にしても、なんか最近サバイバル感増してきたな」

安田が焼けた肉を口に運びながら苦笑する。

「そりゃそうだ。街に頼れなくなった以上、これが普通になるんだろうな」

「ま、食えてるだけマシか」

腹を満たしながら、俺たちは明日以降のことを考えていた。罠の調整、山菜採りの継続、そして食糧のさらなる備蓄。

「この静かな生活が、いつまで続くかだな……」

焚き火の炎を見つめながら、誰かがぽつりと呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年中盤まで執筆

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

処理中です...