終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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おばちゃんは水を飲み干し、少し落ち着いたのか、俺たちに向かってしっかりとした口調で言った。

「助けてくれて、本当にありがとう。私は田辺和代(たなべ かずよ)。しばらく山で暮らしてたけど、食料が尽きそうでな……まさかこんな形で人に会うとは思わなかったよ」

「田辺さん、ですね。俺は三浦です。ここにいるのは俺の仲間たちで……とにかく、無事でよかった」

「いやあ、危なかったねぇ……。でもあんたたち、こんな場所で暮らしてるとは、なかなかやるじゃないか」

田辺さんは興味深そうに旅館の中を見回した。

「まあ……逃げ込んだ先がここだったって感じですけどね」

「ふふ、でもうまくやってるみたいだね。バリケードとか、食料の備蓄とかもちゃんとしてるし」

「田辺さんは山にいたって言ってましたけど、どうやって暮らしてたんですか?」

藤木が興味深そうに聞いた。

「そりゃあもう、山のもんを食べて暮らしてたよ。山菜にキノコに、時々は川で魚を釣ったりもしたし。うち、昔から山で暮らしてた家系でね、親父に色々教わったんだよ」

「それって……めちゃくちゃ頼もしいですね」

安田が目を輝かせた。

「いやあ、都会の人には馴染みがないだろうけど、山には食べられるもんが結構あるんだよ。春なら山菜、秋なら木の実。キノコは知識がないと危険だけど、ちゃんと見分けられれば最高の食材さ」

「キノコ……確かに、山ならいっぱいありそうだけど、素人には難しそうですね」

「まあ、慣れれば簡単さ。あと、狩猟はできないけど、罠の仕掛け方くらいは知ってるよ」

俺たちは顔を見合わせた。

「それ、ぜひ教えてもらえませんか?」

「もちろんさ。助けてもらった恩もあるし、あんたたちがしっかり生きていけるように、できることはするよ」

「助かります!」

田辺さんの知識があれば、俺たちの生活はさらに充実するはずだ。

「さて、それじゃあ……まずは、何から教えようかね?」

彼女の頼もしげな笑みを見て、俺たちはようやく緊張を解くことができた。

「いや~、心強いな!」

安田が大げさに手を叩く。「こっちは都会育ちばっかで、食料確保も手探り状態だったんですよ。いや~、田辺さんみたいな人が来てくれるなんて!」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。でも、私の知ってることなんて当たり前のことばっかりさ。山の暮らしってのは、こういう時にこそ役に立つもんなんだよ」

「いやいや、当たり前じゃないっすよ!」

安田が興奮気味に言う。「山菜の見分け方とか、罠の仕掛け方とか、俺ら全然分かんないんで!」

「そうそう、俺らの仕掛けた罠、マジで役立たずでしたからね……」

「ま、慣れが必要だからねぇ。じゃあ、明日から本格的に教えてあげるよ。どうせこの旅館でしばらく暮らすんだろ?」

「ええ、まぁ……安全なうちは、ですけどね」

田辺さんは旅館を見渡しながら、「面白いとこに住んでるねぇ」と感心したように言った。

「私も昔、この旅館に泊まったことがある気がするよ。たしか、まだ現役で営業してた頃だったかなぁ……」

「え、そうなんですか?」

「まぁ随分前の話だけどね。確か、親戚の法事かなんかで、家族で泊まったんだよ。……そうそう、この廊下の奥の方、夜になると変な音がするって噂があったんだよねぇ」

俺たちは顔を見合わせた。

「変な音って、どんな?」

藤木が慎重に聞く。

「うーん、なんだっけね……子供の声がするとか、誰もいないのにふすまが勝手に開くとか……」

「…………」

全員、無言になった。

「え、なに? もしかして、この話、知らなかった?」

田辺さんが首を傾げる。

「い、いや……」

「俺ら、最近体験したばっかなんですよ、その“噂”」

安田が乾いた笑いを漏らした。

「……まさか、本当に出たのかい?」

「ええ……バッチリ」

「昨日なんて、見張りしてたらゾンビが旅館に近づいたんですけど、そいつ、何かに気を取られたみたいにふらっと離れてったんですよ」

「で、そん時に、誰もいないはずの部屋のふすまが勝手に開いたんです」

田辺さんは「ほぉ~」と興味津々に目を輝かせた。

「へぇ、そりゃあ本格的にいるねぇ!」

「いやいや、嬉しそうに言わないでくださいよ!」

安田が慌てて手を振る。

「でも、それならいい子なのかもしれないねぇ」

「いい子?」

「ゾンビを遠ざけてくれたんだろ? それって、あんたたちに害を与えるつもりはないってことじゃないの?」

「まぁ……そう、ですかね?」

「しかも、ちゃんと気づいてほしいって、ちょっかい出してくるんで……それで試しに昨日、飴玉を供えてみたんですよ」

「おやおや、それは可愛らしいことするねぇ!」

「で……それ、どうなったの?」

俺たちは顔を見合わせる。

「……まだ、見に行ってないな」

「ええっ!? じゃあ、行ってみようよ!」

田辺さんがまるでお祭りにでも行くかのようなノリで言う。

「いや、まぁ、行くのはいいんですけど……」

「誰が確認するか、ですよね」

俺たちは顔を見合わせ、しばし沈黙した。

「……安田、行ってこいよ」

「え!? 俺!? なんで!?」

「お前が飴玉を供えようって言い出したんだから、責任持てよ」

「そ、そうだけど……!」

「ほらほら、みんなで行こうじゃないか!」

田辺さんに背中を押され、俺たちは再び、幽霊が関心を向けてきたあの部屋へと向かうことになった。

果たして、飴玉はどうなっているのか……。

全員が、微妙な緊張感を抱えながら、そろりそろりと廊下を進んでいった。
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