52 / 84
52
しおりを挟む
おばちゃんは水を飲み干し、少し落ち着いたのか、俺たちに向かってしっかりとした口調で言った。
「助けてくれて、本当にありがとう。私は田辺和代(たなべ かずよ)。しばらく山で暮らしてたけど、食料が尽きそうでな……まさかこんな形で人に会うとは思わなかったよ」
「田辺さん、ですね。俺は三浦です。ここにいるのは俺の仲間たちで……とにかく、無事でよかった」
「いやあ、危なかったねぇ……。でもあんたたち、こんな場所で暮らしてるとは、なかなかやるじゃないか」
田辺さんは興味深そうに旅館の中を見回した。
「まあ……逃げ込んだ先がここだったって感じですけどね」
「ふふ、でもうまくやってるみたいだね。バリケードとか、食料の備蓄とかもちゃんとしてるし」
「田辺さんは山にいたって言ってましたけど、どうやって暮らしてたんですか?」
藤木が興味深そうに聞いた。
「そりゃあもう、山のもんを食べて暮らしてたよ。山菜にキノコに、時々は川で魚を釣ったりもしたし。うち、昔から山で暮らしてた家系でね、親父に色々教わったんだよ」
「それって……めちゃくちゃ頼もしいですね」
安田が目を輝かせた。
「いやあ、都会の人には馴染みがないだろうけど、山には食べられるもんが結構あるんだよ。春なら山菜、秋なら木の実。キノコは知識がないと危険だけど、ちゃんと見分けられれば最高の食材さ」
「キノコ……確かに、山ならいっぱいありそうだけど、素人には難しそうですね」
「まあ、慣れれば簡単さ。あと、狩猟はできないけど、罠の仕掛け方くらいは知ってるよ」
俺たちは顔を見合わせた。
「それ、ぜひ教えてもらえませんか?」
「もちろんさ。助けてもらった恩もあるし、あんたたちがしっかり生きていけるように、できることはするよ」
「助かります!」
田辺さんの知識があれば、俺たちの生活はさらに充実するはずだ。
「さて、それじゃあ……まずは、何から教えようかね?」
彼女の頼もしげな笑みを見て、俺たちはようやく緊張を解くことができた。
「いや~、心強いな!」
安田が大げさに手を叩く。「こっちは都会育ちばっかで、食料確保も手探り状態だったんですよ。いや~、田辺さんみたいな人が来てくれるなんて!」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。でも、私の知ってることなんて当たり前のことばっかりさ。山の暮らしってのは、こういう時にこそ役に立つもんなんだよ」
「いやいや、当たり前じゃないっすよ!」
安田が興奮気味に言う。「山菜の見分け方とか、罠の仕掛け方とか、俺ら全然分かんないんで!」
「そうそう、俺らの仕掛けた罠、マジで役立たずでしたからね……」
「ま、慣れが必要だからねぇ。じゃあ、明日から本格的に教えてあげるよ。どうせこの旅館でしばらく暮らすんだろ?」
「ええ、まぁ……安全なうちは、ですけどね」
田辺さんは旅館を見渡しながら、「面白いとこに住んでるねぇ」と感心したように言った。
「私も昔、この旅館に泊まったことがある気がするよ。たしか、まだ現役で営業してた頃だったかなぁ……」
「え、そうなんですか?」
「まぁ随分前の話だけどね。確か、親戚の法事かなんかで、家族で泊まったんだよ。……そうそう、この廊下の奥の方、夜になると変な音がするって噂があったんだよねぇ」
俺たちは顔を見合わせた。
「変な音って、どんな?」
藤木が慎重に聞く。
「うーん、なんだっけね……子供の声がするとか、誰もいないのにふすまが勝手に開くとか……」
「…………」
全員、無言になった。
「え、なに? もしかして、この話、知らなかった?」
田辺さんが首を傾げる。
「い、いや……」
「俺ら、最近体験したばっかなんですよ、その“噂”」
安田が乾いた笑いを漏らした。
「……まさか、本当に出たのかい?」
「ええ……バッチリ」
「昨日なんて、見張りしてたらゾンビが旅館に近づいたんですけど、そいつ、何かに気を取られたみたいにふらっと離れてったんですよ」
「で、そん時に、誰もいないはずの部屋のふすまが勝手に開いたんです」
田辺さんは「ほぉ~」と興味津々に目を輝かせた。
「へぇ、そりゃあ本格的にいるねぇ!」
「いやいや、嬉しそうに言わないでくださいよ!」
安田が慌てて手を振る。
「でも、それならいい子なのかもしれないねぇ」
「いい子?」
「ゾンビを遠ざけてくれたんだろ? それって、あんたたちに害を与えるつもりはないってことじゃないの?」
「まぁ……そう、ですかね?」
「しかも、ちゃんと気づいてほしいって、ちょっかい出してくるんで……それで試しに昨日、飴玉を供えてみたんですよ」
「おやおや、それは可愛らしいことするねぇ!」
「で……それ、どうなったの?」
俺たちは顔を見合わせる。
「……まだ、見に行ってないな」
「ええっ!? じゃあ、行ってみようよ!」
田辺さんがまるでお祭りにでも行くかのようなノリで言う。
「いや、まぁ、行くのはいいんですけど……」
「誰が確認するか、ですよね」
俺たちは顔を見合わせ、しばし沈黙した。
「……安田、行ってこいよ」
「え!? 俺!? なんで!?」
「お前が飴玉を供えようって言い出したんだから、責任持てよ」
「そ、そうだけど……!」
「ほらほら、みんなで行こうじゃないか!」
田辺さんに背中を押され、俺たちは再び、幽霊が関心を向けてきたあの部屋へと向かうことになった。
果たして、飴玉はどうなっているのか……。
全員が、微妙な緊張感を抱えながら、そろりそろりと廊下を進んでいった。
「助けてくれて、本当にありがとう。私は田辺和代(たなべ かずよ)。しばらく山で暮らしてたけど、食料が尽きそうでな……まさかこんな形で人に会うとは思わなかったよ」
「田辺さん、ですね。俺は三浦です。ここにいるのは俺の仲間たちで……とにかく、無事でよかった」
「いやあ、危なかったねぇ……。でもあんたたち、こんな場所で暮らしてるとは、なかなかやるじゃないか」
田辺さんは興味深そうに旅館の中を見回した。
「まあ……逃げ込んだ先がここだったって感じですけどね」
「ふふ、でもうまくやってるみたいだね。バリケードとか、食料の備蓄とかもちゃんとしてるし」
「田辺さんは山にいたって言ってましたけど、どうやって暮らしてたんですか?」
藤木が興味深そうに聞いた。
「そりゃあもう、山のもんを食べて暮らしてたよ。山菜にキノコに、時々は川で魚を釣ったりもしたし。うち、昔から山で暮らしてた家系でね、親父に色々教わったんだよ」
「それって……めちゃくちゃ頼もしいですね」
安田が目を輝かせた。
「いやあ、都会の人には馴染みがないだろうけど、山には食べられるもんが結構あるんだよ。春なら山菜、秋なら木の実。キノコは知識がないと危険だけど、ちゃんと見分けられれば最高の食材さ」
「キノコ……確かに、山ならいっぱいありそうだけど、素人には難しそうですね」
「まあ、慣れれば簡単さ。あと、狩猟はできないけど、罠の仕掛け方くらいは知ってるよ」
俺たちは顔を見合わせた。
「それ、ぜひ教えてもらえませんか?」
「もちろんさ。助けてもらった恩もあるし、あんたたちがしっかり生きていけるように、できることはするよ」
「助かります!」
田辺さんの知識があれば、俺たちの生活はさらに充実するはずだ。
「さて、それじゃあ……まずは、何から教えようかね?」
彼女の頼もしげな笑みを見て、俺たちはようやく緊張を解くことができた。
「いや~、心強いな!」
安田が大げさに手を叩く。「こっちは都会育ちばっかで、食料確保も手探り状態だったんですよ。いや~、田辺さんみたいな人が来てくれるなんて!」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。でも、私の知ってることなんて当たり前のことばっかりさ。山の暮らしってのは、こういう時にこそ役に立つもんなんだよ」
「いやいや、当たり前じゃないっすよ!」
安田が興奮気味に言う。「山菜の見分け方とか、罠の仕掛け方とか、俺ら全然分かんないんで!」
「そうそう、俺らの仕掛けた罠、マジで役立たずでしたからね……」
「ま、慣れが必要だからねぇ。じゃあ、明日から本格的に教えてあげるよ。どうせこの旅館でしばらく暮らすんだろ?」
「ええ、まぁ……安全なうちは、ですけどね」
田辺さんは旅館を見渡しながら、「面白いとこに住んでるねぇ」と感心したように言った。
「私も昔、この旅館に泊まったことがある気がするよ。たしか、まだ現役で営業してた頃だったかなぁ……」
「え、そうなんですか?」
「まぁ随分前の話だけどね。確か、親戚の法事かなんかで、家族で泊まったんだよ。……そうそう、この廊下の奥の方、夜になると変な音がするって噂があったんだよねぇ」
俺たちは顔を見合わせた。
「変な音って、どんな?」
藤木が慎重に聞く。
「うーん、なんだっけね……子供の声がするとか、誰もいないのにふすまが勝手に開くとか……」
「…………」
全員、無言になった。
「え、なに? もしかして、この話、知らなかった?」
田辺さんが首を傾げる。
「い、いや……」
「俺ら、最近体験したばっかなんですよ、その“噂”」
安田が乾いた笑いを漏らした。
「……まさか、本当に出たのかい?」
「ええ……バッチリ」
「昨日なんて、見張りしてたらゾンビが旅館に近づいたんですけど、そいつ、何かに気を取られたみたいにふらっと離れてったんですよ」
「で、そん時に、誰もいないはずの部屋のふすまが勝手に開いたんです」
田辺さんは「ほぉ~」と興味津々に目を輝かせた。
「へぇ、そりゃあ本格的にいるねぇ!」
「いやいや、嬉しそうに言わないでくださいよ!」
安田が慌てて手を振る。
「でも、それならいい子なのかもしれないねぇ」
「いい子?」
「ゾンビを遠ざけてくれたんだろ? それって、あんたたちに害を与えるつもりはないってことじゃないの?」
「まぁ……そう、ですかね?」
「しかも、ちゃんと気づいてほしいって、ちょっかい出してくるんで……それで試しに昨日、飴玉を供えてみたんですよ」
「おやおや、それは可愛らしいことするねぇ!」
「で……それ、どうなったの?」
俺たちは顔を見合わせる。
「……まだ、見に行ってないな」
「ええっ!? じゃあ、行ってみようよ!」
田辺さんがまるでお祭りにでも行くかのようなノリで言う。
「いや、まぁ、行くのはいいんですけど……」
「誰が確認するか、ですよね」
俺たちは顔を見合わせ、しばし沈黙した。
「……安田、行ってこいよ」
「え!? 俺!? なんで!?」
「お前が飴玉を供えようって言い出したんだから、責任持てよ」
「そ、そうだけど……!」
「ほらほら、みんなで行こうじゃないか!」
田辺さんに背中を押され、俺たちは再び、幽霊が関心を向けてきたあの部屋へと向かうことになった。
果たして、飴玉はどうなっているのか……。
全員が、微妙な緊張感を抱えながら、そろりそろりと廊下を進んでいった。
10
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年中盤まで執筆
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる