夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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エルドリン王国編

144 エルフの王

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 ゆったりと一晩を過ごし、翌日。私たちは早速、エルフの王に会いに来ていた。
 
 王様が住むのは、村の中央にある太い幹のツリーハウスだ。
 きっと、見上げるほどに背の高い大きな木なのだろうと思ったが、意外にもそんなことはなく、他のツリーハウスより確かに大きくはあるが、倍ほどの大きさでとどまっている。
 幹は下の方からぷっくりと丸く、太さはかなりある。樹冠は平べったく広がり、まるできのこの傘のようだ。
 なんだか可愛らしい形をしている。
 
 他のツリーハウスと違うところは、幹の周りに階段がついていないところだ。確かに、あの幹の形では外階段をつけるのは難しいかもしれない。
 入口は、木の根が地面に露出し、股のように別れているところに扉がはめ込まれていた。

「さあ、どうぞ中へ」

 リュールさんの先導でお邪魔させてもらえば、そこは幹の中をそのままくり抜いたような大ホールになっていた。
 天井は程よい高さで平らになっており、豪奢なシャンデリアが部屋全体を明るく照らしていた。
 壁にはいくつかタペストリーがかかっているのみで、他に装飾は無い。
 向かい合った二人のエルフ、躍動感あふれる白虎の姿、両手を広げる妖精のようなシルエット……。
 どれも繊細な刺繍で表現されており、美しい以外の言葉が出てこない。
 色のくすみや端のほつれからそれらは年代物であることがうかがえるが、全く見劣りしない素晴らしい作品だ。

「みなさん、こちらです」

 階段は、入口から隠れるように設置されていた。
 一部せり出した木の壁から、階段を覆うように丸みのある通路を作り出し、まるでどこかの遺跡や洞窟に潜っているかのような印象を与える。
 ぽつりぽつりと設置してあるランタンは柔らかな明かりを灯していて、多少薄暗くはあるが足元を十分に照らしてくれるだけの光量はあるようだ。

 階段を登った先には、細かい細工の施された両開きの扉が佇んでいた。

 いよいよこの先に、エルフの王様がいるんだ。
 緊張でドキドキする胸を抑え、私はルーフェさんの話を思い返す。


 ルーフェさんは道中、エルフのことや王様について教えてくれた。

 エルフの一番の特徴は、長命であること。
 百歳で成人を迎え、そこから数百年の青年期、最後に数年から十数年の老年期があり、命が尽きる。
 活発に活動できる期間が長く、老いればあっという間に亡くなってしまうことから、人生に満足したものから老いて死にゆく、などと言われているらしい。
 また、成人までに百年もの年月があるせいか、やけに達観したものが多く、あまり他人に興味が無いという。それゆえ、エルフ全体がマイペースで穏やかな気質なのだとか。
 他人に興味が無いからか、妬み僻みをほとんど感じることなく、そのおかげなのか悪人という悪人もほとんどいない。
 成人を迎えるまでに百年もの年月があるため、根っからの悪人はその間に本性を表すことがほとんどだという。そして、矯正できなければダークエルフとして追放されるのだ。
 エルフの団結力は凄まじく、悪は滅びよと言わんばかりの勢いで制裁される。長い人生の中で、自分や仲間が脅威に脅かされ続けるのが許せないのだろう。
 普段穏やかな人は怒ると怖い。……よく聞く言葉だが、エルフ全体がこれに当てはまりそうだ。

 長く生きているぶん、心に余裕があり、懐が広い。
 だいたいのことは時間が解決するせいか、暴力的な行動に訴えたり、他人を攻撃することは無意味だと感じている。
 理性的というか、理知的というか……結局はみんな自分のペースで好きに生きている、ということだ。
 自分のペースを乱されたくないから、相手のペースを乱すこともしない。
 これまで立ち寄った村でも感じてきたが、本当にほとんどのエルフが温厚で懐が広いのだ。

 一度、私が絨毯にスープをこぼしてしまったことがあるのだが、その時も「また、新しいものを作る機会が与えられて嬉しいわ。これほど大きいと、作っても保管場所がなくって、交換時期にならないと作れないのよ。だから、機会をくれてありがとう」と、むしろ感謝までされたのだ。
 どう見ても本心から言っていたようだし、その後女性陣で集まってどんな柄にするかワイワイと話し合っていたので安心したものだが、本当にエルフの人は怒るということをしない。
 ディルクさんと初めてあった時、ルーフェさんがディルクさんに対して声を上げていたのだって、人間である私たちを気遣ってのことだろう。
 もっと言えば、私たちの懐の大きさが計り知れないからなるべく起こらせないようにしていた、というところか。
 エルフは基本自分のことしか考えていないが、人を巻き込むようなことはしない。これはきっとそのとおりの言葉なのだ。

 また、エルフは青年期が長いため、年齢を見た目で判断することが難しい。
 ニンフェさんやルーフェさんも、まだ二十代ともいえる若々しい見た目をしているのに孫までいるそうだし、老年期をとうに迎えているのであろうおばばは人一倍の気力がある。
 いつまでも変わらない見た目で長く過ごすだけあって、エルフは自分や他人の年齢に頓着しないそうだ。百や二百の歳の差なんて、あって無いようなもの。
 そのため、上下関係や年功序列という概念がほとんど無いといえる。

 根本的な性質が人間とは違うのだろう。これは、この旅を通して日々実感してきたことだ。
 ……年齢だけで言えば、エルフからすればカイルさんだってまだ赤子のようなもの。 
 大きな懐で包みこまれているように感じるのも、当たり前のことなのかもしれない。

 エルフの王はこういった気質が人一倍強く、何事にも寛容で、誰よりも穏やかな、のんびりとした方だそうだ。
 それを聞けば、不安なんてほとんど吹き飛んでしまった。
 まだ少し緊張はしているが、最初の頃ほどではない。
 自分が思っているよりもおだやかな気持ちで、ここまで来ることができた。


 リュールさんが正面の扉を開く。
 薄暗い通路に、中の光が飛び込んできてキラキラと輝いているように見えた。
 
「おまたせしました、王。お客様方をお連れしましたよ」

 みんなに続いて、そっと一歩を踏み出す。
 ふわっと柔らかい絨毯に足が沈み込むようで、まるで雲の上を歩いている心地だ。

「よく来ましたね。ようこそ、エルドリン王国へ」

 穏やかな声に、優しい空気。微笑むと目尻にシワの寄る、柔らかい表情。
 堂々とした佇まいなのに威圧感はなく、全てを包み込んでくれそうな、暖かさを感じる。

「若様も、お久しぶりです。さあ、こちらに」

 王様があぐらをかく膝をトントンと叩けば、コタローは迷わずそこに収まりに行った。
 まさかの仲良し……!という衝撃を胸に、リュールさんに促されるまま、王様の正面に座る。
 王様は、コタローの鼻先から尻尾の先までを背中を通ってゆったりと撫でつけ、コタローも心地よさそうにそれを受け入れていた。

「皆さん。こちら、エルドリン王国国王のエリュリード様です。王、こちらは……」
 
 リュールさんの紹介を受けて、私たちも挨拶する。
 王様もリュールさんも、同じようにほのぼのとした空気感を出すものだから、つい私たちもほのぼのしてしまった。

「主様が気に掛けるお方はどんな強者なのだろうとドキドキしていましたけど、なるほど……これはまた、想定外の方が来られたようで」

 なんだか私の方を見ている気がするが、気のせいだろうか。私は目立たぬよう、カイルさんの斜め後ろにちょこんと座っているだけなのだが……。
 王様が首を傾げたときにサラリと流れ落ちた白髪交じりの緑髪に目を奪われ、私はコタローの行動に気がついていなかった。

「おい、チナもこっちに来い」

 私の袖を加えて引っ張るコタロー。
 何だ何だと戸惑っている私は、コタローの力強さに負け、引きずられるようにして王様の前に連れてこられる。

「チナに半分貸してやる。特別だぞ」

 王様の膝のうえに戻ったコタローは、確かにそこを半分開けていた。謎のドヤ顔を添えて。

「はははっ。それはいいですね。お嬢さん、よろしければどうぞ」

 なんで乗り気なんだこの王様。
 トントンと、ここに座れというように招かれれば拒否は出来ぬ小心者の私は、大人しくそこに収まってしまった。

「小さな子と触れ合う機会など久方ぶりです。貴重な機会を作ってくださった若様に感謝を」

 カチコチに固まる私に、カイルさんたちは心底気の毒そうな視線を送る。そう思うなら助けてほしい。

 上を向けば、バチッと王様と視線が合ってしまった。
 にっこり微笑まれれば、微笑みを返さないわけにはいかない。
 エヘッと笑って首を傾げれば、さっきの王様と同じように私の髪が肩から流れ落ちた。
 王様の視線は、私の目から、その横の髪に。
 何かに気づいたように一瞬固まった王様は、私を窺い見て……にこりと微笑みを浮かべた。

 え、なに。今の一瞬で何があった……!
 王様が視線をやったその髪を自分で持ち上げて確認してみれば、そこは丁度、風の精霊王の証――緑色に染まっている部分だった。
 認識阻害は解けていない。リュールさんたち他のエルフが気付いた様子もない。
 しかし王様は、確実に何かに気づいた様子で……。

 カイルさんたちと王様は、何か話を進めているようだが、今の私に耳を傾ける余裕は無い。
 どうしよ、どうしよう、と髪をギュッと握りしめて固まる私に、安心しろと言うように王様がポンポンと頭を撫でる。
 不思議なことに、今にも暴れだしそうだった心臓はスッと落ち着き、このことについて王様が言及することも無いのだと理解した。

「じゃあ、行こうか」

 王様の膝からコタローがピョンと飛び退くのを目の端に捉えるのと同時に、王様がスッと立ち上がる。王様は私を片腕抱っこした状態で、ズンズンと歩き出してしまう。
 い、一体どちらへ……。
 一つも話を聞いていなかったよ……。
 後ろからカイルさんたちがついてきてくれているからひとまずは安心だが……降ろしては、くれなさそうだなぁ……。

 すごく楽しそうにしている王様に、私は何も言えなかった。
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