夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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エルドリン王国編

145 主様の住処

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 入ってきた扉とは別の扉から部屋を抜け、薄暗く照らされた廊下を進んでいく。
 途中、現れるいくつかの扉や横道はスルーしてたどり着いた突き当りには、螺旋階段が上へと伸びていた。
 グルグルと、高く伸びる螺旋階段を昇る。
 たどり着いた先には、小さな扉がひとつ。
 キィと高い音を立てながら開いたそこから、ブワッと爽やかな風が舞い込んできた。

「うわぁ……!」

 たどり着いたのは木のてっぺん。
 太陽の光を反射した青い葉がキラキラと目に入り、視界全体を輝かせている。
 まるで宝石のようなそれは、見渡す限り遠くの方まで続いていて、まるで巨大な緑の絨毯が広がっているようだ。

 ぐるりと、景色を一望するように見回してみる。
 全方位、同じように緑が広がっているのだろうと、そう思っていたが、ある一部だけ視界が遮られるところがあった。
 そこは、大きく岩肌が露出している断崖絶壁。
 下から見たときは木々の枝葉に遮られて見えなかったが、まさかこんな崖がすぐそばにあったとは……。
 あの上はどうなっているんだろうと、じっと見つめていると、直ぐ側から答えが聞こえてきた。
 
 「あそこが、主様の住まう地ですよ」

 王様が指さしたのは、その崖の、上の方。
 目に見えないほど高いそこに、風の神獣、白虎が住んでいる――。

 私は唖然として、そこを見上げる。
 あんな場所、一体どうやって行けばいいのか。
 たとえ命綱があったとしても、到底辿り着けそうも無い角度と高さだ。

「普通には登れないでしょうから、下まで行けば主様のお迎えがあるんじゃないでしょうか?」

 むしろ、それが無ければ困る。
 コタローやホムラに運んでもらえなくも無いとは思うが、正直遠慮したいところだ。普通に強すぎる。

 どちらにしろ、とりあえず行ってみるしかないだろう。

 たっぷりと景色を堪能した後、私たちはツリーハウスの入口まで戻ってきた。

「では皆さん。どうぞお気をつけて行ってきてくださいね」

 ニコニコと優しい笑顔で手を降る王様。
 私も手を振り返して颯爽と出発……したくても出来なかった。

 王様が地面に降ろしてくれない。
 そこが定位置であるかのように、私の体が王様の腕にはまっている。
 これ、王様は素で気づいてないんじゃないかと思うほどの馴染みっぷりだ。

 さすがに降ろしてほしいと伝えようと王様の方に顔を向けたその時。
 いつの間にか王様のそばに立っていた、凶悪な目つきをしたエルフと目があった。

「あ?」

 ギュッと眉間にシワを寄せ、こちらを睨みつけるヤンキー風エルフ。
 つり上がった細眉と三白眼、細いカチューシャで前髪を全て上げ、耳にはピアスをジャラジャラとつけたその姿は、そう見ても一昔前のヤンキーだ。

「おい、エリュリード。そのガキはなんだ」

 まさかの王様を呼び捨て。
 上下関係が無いとは言え、それはありなのか?とハラハラする。
 しかし、王様は平然と穏やかな声で言葉を返した。

「おかえりなさい、ミュルガー。どうです?可愛いでしょう。私の隠し子です」
「…………んなわけねぇだろ。人間じゃねえか。どこで拾ってきたんだ」

 そこそこ長い間があったのが気になるが、ミュルガーと呼ばれたそのエルフは王様の冗談を一蹴した。
 鋭い目で睨みつけられる私は、王様の腕の中にいるからか特に危機感も無く、じっとその目を見返す。

 王様はちらりと私を意味ありげに見つめてニコッと笑い、ミュルガーさんへと視線を戻した。

「こらこら、怖がらせないであげてください。幼気な幼子にあなたの目つきは凶悪すぎますよ」

 まさかの直球で返した言葉に、私のほうがギョッとする。そういうのは、思っていても言わないほうがいいんじゃないだろうか。
 しかしミュルガーさんは気にした様子もなく、私から視線を外して王様を見つめた。

「やれやれ。もう少し視界を広くしないと、いつか足元をすくわれますよ」

 ここにきてようやく、私は王様から解放される。
 そっと優しく降ろされた私は、王様に背中を押され、その勢いのままカイルさんのもとに駆け出した。

「こちらの方々が、主様のお客様ですよ」

 王様のその言葉に、ミュルガーさんは細い目を精一杯大きく開いてこちらを凝視する。
 そして、一拍の後……。

「はぁあああああああああ?!」

 叫ぶように一息で吐き出した。

「主様の客が、人間?!主様の気に掛ける相手が、人間?!主様がエリュリードにまで頼むほどの相手が、人間?!冗談だろっ!」

 憎々しげにこちらを睨むその姿は、さっきまでのただ目つきが悪いだけの姿とは違う。
 完全に「悪意」を持って、睨みつけている。
 その目に一瞬怯んだ私は、カイルさんの後ろに隠された。

「ミュルガー」

 王様の静かな一言で、ミュルガーさんの怒気は静まった。
 普段は理性的な人なのだろう。今は何故か、感情が爆発したようだった。
 突然のことに驚き、私も周りも固まる。少し気まずい空気だ。

 そんなところに割り込んだ能天気な声は、この空気をぶち壊してくれた。

「お?みんなどうしたんだ?はやく親父のところに行かないのか?」
「わ、若様っ……!」

 ズサーッとスライディングをする勢いでコタローの前に躍り出た影は、土下座の姿勢で顔だけ上げる。

「ああっ!ようやくお会いできました、若様っ!私は、ミュルガーと申します!お、お会いできて光栄ですっ!」

 頬を赤らめ、目を輝かせ、こころなしか息が荒い。
 ギュンとつり上がっていた眉が驚くほどに垂れ下がり、まるで別人だ。
 しかしそれは、同じ姿をした別の誰かでも、私たちの幻覚でもなんでもなく、さっき私たちに怒りを向けてきたミュルガーさん、その人だった。

「おぉ……お前、なんか怖いぞ。どうした、大丈夫か……?」

 コタローが引いている。ミュルガーさん、ある意味すごい。
 しかし、この変貌ぶりは一体……。
 コタローだけでなく、私たちも引いていると、王様が苦笑いで教えてくれた。

 なんでも、ミュルガーさんは主様狂いなのだそう。
 主様が大好きで、敬愛していて、いつかそのお姿をこの目に収めたいと、毎日崖下に通っているほどらいし。
 その苛烈な愛は異常とも言えるほどで、いわゆる同担拒否。主様のことを一番知っていて、一番愛しているのは自分だと言って憚らない。
 ミュルガーさんの前で主様の話をするのはご法度だと、国中に広まっているくらいだという。

 だというのに、軽率に私たちが主様の客だと発言した王様。
 まあ、後から知るよりはマシかも知れないが……せめて教えておいてほしかった。
 ぷくっと頬を膨らませて抗議の視線を送れば、何の邪気もない微笑みが帰ってきて怒りが霧散した。
 人を穏やかにさせるスキルでも持っているのだろうか。王様こわい。

「ミュルガー、そろそろ離れなさい。お客様たちはこれから主様に会いに行くんだから」
「でしたら私が……!」
「君はこっちで仕事ですよ。ほら、ちゃんとお見送りをして」
「あぁ、若様っ!どうかわたくしめをお供に……!」
「はいはい。皆さん、気にせず行ってください」

 ミュルガーさんの襟元を掴みながら笑顔で手を振る王様に背を押されるように、私たちは微妙な足取りでその場を後にした。
 ズルズルと前に進むように足を滑らせるミュルガーさんを、何の苦も無く片手で抑えられる王様の力は一体どうなっているんだと、恐ろしくなった。
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