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1月1日 壁の華
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全体での挨拶は終わり、交流のための自由時間となった。扇様と紺様の元へはひっきりなしに婚約祝いの挨拶をする人が訪れる。私は壁際に寄って、辺りを注意深く観察した。先程の音といい、何だか嫌な予感がする。
「こんばんは」
「…」
「あの、こんばんは?」
「えっ?」
急に声が降ってきて、思わず顔を上げる。そこには見目の良い少し年上くらいの青年が立っていた。紺様と同じくらいだろうか。それにしても銀髪緑眼の異国風の容姿が煌びやかである。
驚いて目を丸くしていると、青年は小さく微笑んだ。
「初めまして。ベリル・クーベルと申します。一昨日の会食でも澪愛様と一緒にいましたよね」
「は、はい。夕音と申します」
告げられた名字は、大手飲料メーカーと同名であったため聞き覚えがある。きっと偶然では無いのだろう。ここに招待されている人は、皆そういった家柄を持っている筈だから。
クーベル様は私の様子を伺うようにして話を始めた。特に興味を惹かれる話題でもなかったし、いつボロが出てしまうかの緊張で上手く返せている自信がない。困りながらも話を合わせて相槌を打っていると、クーベル様は優しく微笑んで小さな声で囁いた。
「…緊張していらっしゃいますか?」
「…えっ…えぇ、まぁ」
「実は私もなのです」
「…はい?」
クーベル様は苦笑いを浮かべながら、さっと周囲を眺めた。
「紺様と幼少の頃に付き合いがありまして、今回参加させていただきました。しかしこういった場は不慣れでして。夕音様も憂い顔を浮かべていたのでもしかしたら同じ気持ちなのでは、とつい声を掛けてしまいました」
エメラルドの瞳を細めて朗らかに笑う顔はとても美しくて、とても居心地が悪い。
「そうですね、私も似たようなものです」
扇様と付き合いがあって初参加だ。緊張するなという方が難しい。私は曖昧に微笑みを返した。
「…でも、一昨日の貴方は堂々としていて美しかった」
ポツリと呟かれた言葉。意味がわからず首を傾げる。クーベル様の緑色の瞳が、艶やかに揺れる。
「昔から澪愛様への心無い中傷に胸を痛めておりました。しかしこんな容姿ですから、伝統を重んじる方々から軽んじられ言い返すことも出来ず。けれど貴方はそんなこと気にも留めず、果敢に言い返しておられました。その姿に、私は心を打たれたのです」
「…は、はぁ…?」
何だか距離が近い。片足だけ後退る。
「貴方こそが、私の…」
言葉に被さるようにして、私の耳にガラスの砕け散る音が響いた。それはきっと、いつも私にだけ聞こえる音。私は言葉の続きなど気にせず振り向いた。そこにはこげ茶のウェーブがかった髪と琥珀色の瞳を揺らす、愛らしい容姿少女がいた。残念ながらその心には、憎悪に似た暗い感情が揺れていたけれど。その足の向かう先には扇様と紺様がいる。
寒気がする。駄目だ、なんだか、近付けてはいけない気がする。
「夕音様…!?」
私はクーベル様の横をすり抜けて、扇様の元へ駆けた。はしたないと言われるかもしれない。それでも、私が行かなければ誰が気付く。誰が彼女の笑顔に隠れた敵意を見抜ける。その手に隠された凶器に、誰が間に合う。
ガチャリと小さく開かれた銀製のナイフ。それを手袋に隠すようにして持つ少女。何で、こんな所で。彼女は笑顔の仮面を剥がして、徐々に敵意を剥き出しにする。
「駄目…ッ!」
彼女が床を蹴ったのと、私が扇様の前に庇うように進み出たのは同時だった。
「こんばんは」
「…」
「あの、こんばんは?」
「えっ?」
急に声が降ってきて、思わず顔を上げる。そこには見目の良い少し年上くらいの青年が立っていた。紺様と同じくらいだろうか。それにしても銀髪緑眼の異国風の容姿が煌びやかである。
驚いて目を丸くしていると、青年は小さく微笑んだ。
「初めまして。ベリル・クーベルと申します。一昨日の会食でも澪愛様と一緒にいましたよね」
「は、はい。夕音と申します」
告げられた名字は、大手飲料メーカーと同名であったため聞き覚えがある。きっと偶然では無いのだろう。ここに招待されている人は、皆そういった家柄を持っている筈だから。
クーベル様は私の様子を伺うようにして話を始めた。特に興味を惹かれる話題でもなかったし、いつボロが出てしまうかの緊張で上手く返せている自信がない。困りながらも話を合わせて相槌を打っていると、クーベル様は優しく微笑んで小さな声で囁いた。
「…緊張していらっしゃいますか?」
「…えっ…えぇ、まぁ」
「実は私もなのです」
「…はい?」
クーベル様は苦笑いを浮かべながら、さっと周囲を眺めた。
「紺様と幼少の頃に付き合いがありまして、今回参加させていただきました。しかしこういった場は不慣れでして。夕音様も憂い顔を浮かべていたのでもしかしたら同じ気持ちなのでは、とつい声を掛けてしまいました」
エメラルドの瞳を細めて朗らかに笑う顔はとても美しくて、とても居心地が悪い。
「そうですね、私も似たようなものです」
扇様と付き合いがあって初参加だ。緊張するなという方が難しい。私は曖昧に微笑みを返した。
「…でも、一昨日の貴方は堂々としていて美しかった」
ポツリと呟かれた言葉。意味がわからず首を傾げる。クーベル様の緑色の瞳が、艶やかに揺れる。
「昔から澪愛様への心無い中傷に胸を痛めておりました。しかしこんな容姿ですから、伝統を重んじる方々から軽んじられ言い返すことも出来ず。けれど貴方はそんなこと気にも留めず、果敢に言い返しておられました。その姿に、私は心を打たれたのです」
「…は、はぁ…?」
何だか距離が近い。片足だけ後退る。
「貴方こそが、私の…」
言葉に被さるようにして、私の耳にガラスの砕け散る音が響いた。それはきっと、いつも私にだけ聞こえる音。私は言葉の続きなど気にせず振り向いた。そこにはこげ茶のウェーブがかった髪と琥珀色の瞳を揺らす、愛らしい容姿少女がいた。残念ながらその心には、憎悪に似た暗い感情が揺れていたけれど。その足の向かう先には扇様と紺様がいる。
寒気がする。駄目だ、なんだか、近付けてはいけない気がする。
「夕音様…!?」
私はクーベル様の横をすり抜けて、扇様の元へ駆けた。はしたないと言われるかもしれない。それでも、私が行かなければ誰が気付く。誰が彼女の笑顔に隠れた敵意を見抜ける。その手に隠された凶器に、誰が間に合う。
ガチャリと小さく開かれた銀製のナイフ。それを手袋に隠すようにして持つ少女。何で、こんな所で。彼女は笑顔の仮面を剥がして、徐々に敵意を剥き出しにする。
「駄目…ッ!」
彼女が床を蹴ったのと、私が扇様の前に庇うように進み出たのは同時だった。
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