神様自学

天ノ谷 霙

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問い掛けと答え

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本殿の中に招かれ、通されたのは記憶と違いのないあの和室だった。あの時と同じように否守いなもり様は正座をし、私もそれに倣って向かいに座る。同じよう正座で。それを見た否守様は、朱色の瞳を優しく細めて笑った。正面から見る彼女は、夢の中で見たよりいくらか幼く見える。それなのに立ち居振る舞いに貫禄があり、永い時を生きているのだと感じさせる。
稲荷いなりの恋使ですね。中にいる方も出て来て構いませんよ」
私の中で恋音こいねさんがビクッと震えたが、ゆらりと実体を持って隣に現れた。その表情は畏敬の念に駆られているのか、ソワソワと落ち着きがない。
「さて。わたしに答えられる範囲ならお答えしますよ。何が聞きたいのですか」
こちらを見透かしたかのような瞳が、淡く煌めく。射抜かれたように硬直したのは一瞬で、息を吐いて口を開く。
「私は稲森、稲森 夕音と申します。昔もこちらに訪れたことがあるようで、その時のことを聞きに来ました」
否守様は、予想通りといった様子で頷いた。
「私は最近までそれを忘れていました。けれど、夢の中で思い出したんです。それで、その、名前を尋ねた時、どうして答えてくださったんですか」
問い掛けたのは幼い私じゃない、夢を見ていた今の私だった。時空が交差するように答えてくれたのは、どうしてなのだろう。
「簡単な話です。私の管轄はこちらの世界全般なので、その場にいる者は過去の者でも未来の者でも言葉を交わすことが出来ます」
最高神の1柱兼、世界の管理者である。相応の力だと思う。けれど、だからこそ、答えの単純さに驚いた。
「つまり、返してくれた理由は、聞かれたから答えた、と…?」
「はい。単純ですが、そうです」
にっこり笑う否守様。何だかこちらの力がどっと抜けた。人と違うだけあって、一癖も二癖も持っている。否守様はくすくすと笑うと、説明を重ねてくれた。
「普段はしませんが、個人に注目すればその人の過去、現在、未来も見られますよ。それを記録する仕事もあるので」
「記録…?」
「えぇ、貴方と同じですね」
否守様の言葉にどきりとする。"恋使"としてではなく、私が使った力。虹様や澪愛みおう家で駆使した力。それを持っていると知られているのが、少し不安を煽った。
「そんなに警戒しないでください。そちらも単純な話ですよ」
否守様は苦笑して、宥めるように微笑む。こちらの気分を落ち着かせるような微笑みに、また脱力しそうになる。
「貴方の瞳と髪の色、私と似ているでしょう?」
「え、あ、はい」
「人の中には時折、私と同じ色彩を持った子が生まれます。彼らは往々にしてこちら側に近く、誰かと交流を持つ可能性が高いのです。きっと貴方も」
私は稲荷様と交流を持った。こちら側、と呼ばれた神側に近い人なら、蓮乃くんも知っているけれど彼は赤茶色の髪に赤い瞳だ。確かに瞳の色は私に近い。けれど髪の色は全く異なる。だから神と交流を持つこともなく、光が見える程度でおさまっているのだろう。編茶乃ちゃんも気配を感じたことがあるそうだが、2人ともはっきり見ることは少ない。
「それに恋音もそうでしょう?」
「え?」
恋音さんも同じ色彩。けれどさっき、否守様は。
「恋音も元人ですよ。記憶があるかは存じ上げませんが」
恋音さんの方を向くと、唖然とした顔で驚いていた。
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