神様自学

天ノ谷 霙

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2月26日 友人の好きな俳句

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前世の記憶がある。
唐突な言葉としては冗談としても面白くない類であり、社会常識として「そんなものは存在しない」が一般論とされるだろう。けれど実際にせん様と深沙ちゃんは何となく覚えており、紺様も引き出したことで思い出した。そもそも神の力をその身に宿し、ヒトでないモノを見る私からしたら、一般論と個人の乖離なんて今更だ。だからこそ、固まりはしたものの驚かなかった。私の様子を確認してから、青海川くんは続ける。
「昔から、おれではない誰かの記憶があった。よく分からなかったから、浮かぶものを記号と認識して書いていた。それが俳句や随筆だと知ったのは、ある程度成長してからだった」
懐かしむように目を細めながら、何かを堪えるように手を震わせながら語る。
青海川くんの前世は随筆家の男性だった。笠を深く被り、修行僧のような格好をして全国を旅する随筆家。自然を愛し、扇様の先祖である奥方様を生涯愛し続けた人。燃え盛る城を詠み、恋い焦がれる心を言葉に起こす。それらは、まだ学校にも通っていない子供が考える内容ではなかった筈だ。きっと心無い言葉を掛ける者も居たのだろう、と思い至る。
私の考えを察したのか、青海川くんは悲しげに笑って頷いた。肯定に見えるような頷きだった。
「それでも、おれのことを笑わないで理解してくれた人がいた。家族は小さい頃の戯言だって笑い話にしてるけど、作夜は、違ったんだ」
出て来た名前は、花火の恋人で同僚の片倉 作夜さん。執事服でしか会ったことがないが、青海川くんとは仲が良さそうであったし長い付き合いなのだろう。頷いて続きを促すと、青海川くんは遠くを見ながら思い出話を始めた。
「皆呆れてたし忘れていたのに、そういえば本当に前世の記憶があるのか、って聞いて来たんだ。小学校高学年くらいの頃かな。真面目な顔して、あまりにも真剣に聞いてくるから、つい頷いちゃったんだ。そしたら何て言ったと思う?」
優しい友を思う目で問い掛けて来る。思い付かなかった私が首を傾げると、青海川くんは小さく笑みを溢した。
「"あの俳句はとても綺麗だったから、他にもあるなら教えてほしい"って。書いてたのは低学年くらいの時だったし、難しい字や古語も使ってたから綺麗なんてどうして分かるんだよって返したんだ。そしたら、"全部覚えてる"って。意味が知りたくて、こっそり書き写して家に帰って調べたんだって言われたんだ。それからずっとお気に入りの俳句なんだって、凄く嬉しそうに言ったんだよ、あいつ」
仲が良いからこその砕けた口調に、深い信頼が伝わって来る。前世とはいえ書いたのは自分なのだから、きっと青海川くんの喜びは相当だったのだろう。前世の記憶の肯定でもあったのだから。
「それから作夜はおれの前世について一緒に調べてくれるようになったんだ。辿り着いたのは、作夜のご主人様が似たような過去を持つってところまでだったけど」
青海川くんは気の置けない友人を思う優しい顔から、獲物を追い込む狩人の目に変わった。
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