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2月26日 万事休す
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青海川くんは思い出すような仕草をしながら、話を続けた。
「前世の記憶を持っているなんて、誰も簡単には信じてくれない。だから凄く時間を掛けて、やっと扇様が同じかもしれないって知ったんだ。それで初めて会いに行く許可を得た日に、稲森さんと会ったんだ」
私が初めて扇様に会いに行った日、確かに私は青海川くんとも会った。そして3人が前世の記憶を取り戻し再会する場面に居合わせた。3人共に前世の姿が重なって見え、私も記憶を辿るような夢を見て倒れた。思い出したことに何処となく冷や汗をかきながら頷くと、青海川くんは手元の緑茶に視線を移す。
「それまでは俳句とか随筆とか、作品のことばかり思い出していた。写真みたいに切り取られた景色とかを途切れ途切れに思い出すばかりで、前世のおれ自身のことなんてほとんど分からなかったんだ。でもあの日、扇様と喜岡さんと会って、人間関係から何からたくさんのことを思い出した。まるで追体験するみたいに記憶が蘇ってきて、脳が混ぜられるみたいに気持ち悪かったけど、思い返してみればそれが普通みたいにすとんと腑に落ちたんだ。同時に、扇様に酷く惹かれた。身分差とか会ったばかりだとかたくさんの問題が過るのに、またそれで諦めるのかって苦しくなって、会いたくて仕方なくなった。それで作夜に頼んで、また会わせてもらったんだ。でも、その時にはもう既に"扇様"だった」
青海川くんの言葉の意味が分からず、怪訝な顔をして首を傾げる。青海川くんは緑茶から視線を上げ、くすくすと笑った。
「前世とは違うって思ったんだ。あの時みたいに鮮明な記憶も甦らなかった。今年の正月に婚約発表があったよね。その時の嬉しそうな顔は、紺様に向いていた。彼女は前世と違って、紺様に恋をしたんだよ。おれも彼女への恋心は前世の残滓だったと気付いた。だから余計に不思議に思ったんだ」
一呼吸置いてからこちらを真っ直ぐに見つめる。前髪で覆い隠されている筈の瞳から、じっと見られているような居心地の悪さを感じた。それを逃さぬように視線で捉えてから、青海川くんは微笑む。
「どうして稲森さんが居た時だけ気持ちが動いたんだろう、って」
その言葉に、私の心臓がドクンッと揺れた。目を見開いて、唇が小さく震える。動揺が露見するのは良くないと思いながらも、湧き上がる不安を閉じ込めることが出来なかった。
「もう一度会った時には3人揃ってなかった。だから喜岡さんも呼んで3人で会わせてもらった。でも記憶が濃くなることはなかった。違うのは、稲森さんがいるかいないか、ただそれだけだった」
心臓がドクンドクンと鳴り響く。鼓動音が聞こえてしまいそうなくらいにうるさくて、緊張に血の気が引いた。手先が冷える。動き出す青海川くんの唇が、えらくゆっくりに見えた。
「ねぇ、稲森さん」
青緑の瞳が私を真っ直ぐに見据えた。
「貴方は一体、何者なの?」
「前世の記憶を持っているなんて、誰も簡単には信じてくれない。だから凄く時間を掛けて、やっと扇様が同じかもしれないって知ったんだ。それで初めて会いに行く許可を得た日に、稲森さんと会ったんだ」
私が初めて扇様に会いに行った日、確かに私は青海川くんとも会った。そして3人が前世の記憶を取り戻し再会する場面に居合わせた。3人共に前世の姿が重なって見え、私も記憶を辿るような夢を見て倒れた。思い出したことに何処となく冷や汗をかきながら頷くと、青海川くんは手元の緑茶に視線を移す。
「それまでは俳句とか随筆とか、作品のことばかり思い出していた。写真みたいに切り取られた景色とかを途切れ途切れに思い出すばかりで、前世のおれ自身のことなんてほとんど分からなかったんだ。でもあの日、扇様と喜岡さんと会って、人間関係から何からたくさんのことを思い出した。まるで追体験するみたいに記憶が蘇ってきて、脳が混ぜられるみたいに気持ち悪かったけど、思い返してみればそれが普通みたいにすとんと腑に落ちたんだ。同時に、扇様に酷く惹かれた。身分差とか会ったばかりだとかたくさんの問題が過るのに、またそれで諦めるのかって苦しくなって、会いたくて仕方なくなった。それで作夜に頼んで、また会わせてもらったんだ。でも、その時にはもう既に"扇様"だった」
青海川くんの言葉の意味が分からず、怪訝な顔をして首を傾げる。青海川くんは緑茶から視線を上げ、くすくすと笑った。
「前世とは違うって思ったんだ。あの時みたいに鮮明な記憶も甦らなかった。今年の正月に婚約発表があったよね。その時の嬉しそうな顔は、紺様に向いていた。彼女は前世と違って、紺様に恋をしたんだよ。おれも彼女への恋心は前世の残滓だったと気付いた。だから余計に不思議に思ったんだ」
一呼吸置いてからこちらを真っ直ぐに見つめる。前髪で覆い隠されている筈の瞳から、じっと見られているような居心地の悪さを感じた。それを逃さぬように視線で捉えてから、青海川くんは微笑む。
「どうして稲森さんが居た時だけ気持ちが動いたんだろう、って」
その言葉に、私の心臓がドクンッと揺れた。目を見開いて、唇が小さく震える。動揺が露見するのは良くないと思いながらも、湧き上がる不安を閉じ込めることが出来なかった。
「もう一度会った時には3人揃ってなかった。だから喜岡さんも呼んで3人で会わせてもらった。でも記憶が濃くなることはなかった。違うのは、稲森さんがいるかいないか、ただそれだけだった」
心臓がドクンドクンと鳴り響く。鼓動音が聞こえてしまいそうなくらいにうるさくて、緊張に血の気が引いた。手先が冷える。動き出す青海川くんの唇が、えらくゆっくりに見えた。
「ねぇ、稲森さん」
青緑の瞳が私を真っ直ぐに見据えた。
「貴方は一体、何者なの?」
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