神様自学

天ノ谷 霙

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3月3日 見て来たもの 恋音

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見て来たもの、と問われて最初に思い浮かんだのは、夕音を蔑み嫌う子供たちだった。同じくらいの背丈で同じくらいの知能である筈なのに、夕音の見ているものが少し異なるとわかればすぐに顔を歪め排斥する。夕音もそれに心を痛め、その差異の原因に怯えていたから視界を覆った。そうしてひと段落したかと思えば、誰それが好きだの好きな人がお前を好きだからだのと言った陳腐な理由で夕音を苦しめた。鬱陶しい。私の依代である夕音に向けられる言葉は、私の耳に届いてしまう。眠りを妨げる程の威力はないが、それでも不快感は残る。我らのようなモノには眠っている間の出来事も理解出来るよう創られているモノが多い。私もその一つであり、夕音へ向けられる憎悪の目が生々しく伝わって来て、気味悪かった。
憎むのは相手の勝手だが、伝わらないようにすべきだろう。
私はそう考えるが、夕音は違ったようだった。彼彼女らの不愉快な視線を受け入れ、自身を責め、態度を改めようと行動に気を遣った。そんなことをしてもなかの声が締め付けられるだけなのに、夕音は他者のために努力した。仲良くしていた"羅樹"という奴とも距離を置いた。それから羅樹との距離は精神的にも離れていき、私の隠れ蓑にしている夕音のなかに響く声も、辛く苦しいものになっていった。
やはりヒトなんて嫌いだ。
自分勝手で我儘で、自分の世界にないものを見つけるとすぐに叩き出そうとする。その対象になった者がどんな思いをするかも知らないで、自分の心の安寧の為に他者を犠牲にする。
私は夕音と同じように、ヒトに排斥された者。
他の人間よりも気持ちを理解することが出来るだろう、と少しだけ寄り添ってやろうと思った。けれど夕音は解決もしていないその出来事を忘れたかのように振る舞い始め、会う機会がなくなってからは時折思い出す程度で深く悩むことはなくなっていた。それどころか"恋使コイツカイ"となった後は他者の心を気遣い、背を押し、多くの心と心を結びつけるようになった。そして自身の切れかけていた想い人とのえにしも、再び繋げ心を通わせるようになっていた。
夕音は羅樹が自身のことを慮るあまり、「恋人」という関係によって此方の世界に繋ぎ止めようとしていると考えていたけれど、羅樹自身にだって夕音を想う気持ちはある。誰よりも強く、何よりも深い心だ。それは夕音が結び付けて来た数々の"恋"とは異なる感情だったけれど、私は知っている。他人を想う感情で最も深く重いもの。相手を想うことに囚われ、自身の気持ちすら見失ってしまう危うい思考。

羅樹は、夕音を"愛"している。

そんな姿を、ずっと見て来た。
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