侯爵家を守るのは・・・

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1.クラリスという姉

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 クラリスは過去に何人もの宰相や大臣を輩出した名家として名を馳せるラッセル侯爵家の長女として生を受けた。

 生まれたばかりのクラリスを見た母親のジャクリーン夫人は、
 「なによこれ!真っ黒い髪にアメジストの瞳なんてまるであのババァにソックリじゃない!」
 と叫んだ。
 
 あのババァとはラッセル侯爵の母親、つまりジャクリーン夫人にとって姑のことである。

 姑は貧乏男爵家出身のジャクリーン夫人と息子との身分違いの結婚を最後まで反対していた。

 そもそもラッセル侯爵とジャクリーン夫人の出会いは2人が貴族の子女が通う王立学院の学生だった時のことだった。

 溺れた猫を助けようとして池に落ちたジャクリーン夫人をラッセル侯爵が助けたのだ。
 
 ラッセル侯爵は運命の出会いだと信じているが、実際は貧乏暮らしから抜け出したいジャクリーン夫人が資産家令息のラッセル侯爵が池の近くを通るのを待ち伏せしてわざと落ちたのである。

 ジャクリーン夫人は輝くような金髪にエメラルドの瞳で、学院内でも目立つ美人だった。
 その美貌を武器になんとか成り上がろうと、それまでも他の令息達に似たようなことをしていた。
 
 まともな令息達はそんな見え透いた手に引っかからなかったが、お坊ちゃまのラッセル侯爵は震えながらしがみついてくるジャクリーン夫人のやわらかな体と鼻腔をくすぐる甘い香りにあっさり恋に落ちた。
 
 何人かの学友達はジャクリーン夫人との交際には慎重になるように忠告したがジャクリーン夫人は一枚上手で、
 「他の令息達に交際を申し込まれてお断りしたら悪女だという噂を流されてしまって・・・
 令嬢達からも嫉妬されていじめられているんです。」
 と涙ながらにラッセル侯爵訴えた。

 すっかり庇護欲をかき立てられてしまったラッセル侯爵は、
 「可哀想なジャクリーンは私が守る!」と鼻息荒く宣言して、周囲の反対を押し切って交際に発展した。
 
 ラッセル侯爵と付き合いはじめたジャクリーン夫人は一生懸命しおらしく振る舞っていたが姑は女の勘でジャクリーン夫人の本性を見抜いていた。

 高位貴族が集まるお茶会で
 「純情な息子がアバズレにあざとい手口で落とされましたわ。」
と言っていたとかいないとか・・・
 
 結婚後も当然嫁姑は気が合わない。気が合わないどころか犬猿の仲だった。

 日々繰り広げられる嫁姑の仁義なき戦いに困り果てたラッセル侯爵は景勝地として有名なリアン湖畔に豪華な別荘を建てて母親を追いやってしまった。

 それでもまだジャクリーン夫人は姑への恨みをたぎらせていた。
 『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』で、髪や目の色が姑に似ているクラリスまで目の敵にして可愛がるどころかいないものとして扱った。
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