もう1人の、王子と呼ばれる人が気になって話しかけただけだった

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5.本音

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「へー、良かったじゃん、大好きな弥生くんと同じ当番で」

 慎吾に委員会のことを話すと、こんな言葉を言われた。

「え、大好き? 俺が?」
「大好きだろ、お前が、月王子を」

 好き? 俺が? 弥生くんを?

「お前、マジで自覚ないの? 月王子と仲良くなれるかもって、読書してさ。さっきも嬉しそうだったよ、『弥生くんと同じ曜日だ~』って」

 慎吾が冗談でこういうことを言わないことは知ってる。たしかに、弥生くんのことを好きか嫌いかで聞かれたら、もちろん好きだ。好きは好きでも、ラブじゃない……はずだ。

「フッフッフ……イケメンはイケメンに惹かれるんだな」

 俺は冗談めかしてそう言った。

「うわ。うざ」

 慎吾は俺の冗談にのってきた。その方が、ありがたかった。俺の心はざわざわとしていた。

______


 今日は水曜日。当番の日である。図書室のカウンターには弥生くんと森本先輩、本の整理には俺と伊吹先輩と、とりあえずの役割分担をした。伊吹先輩と並んで本棚の整理をしていると、少し離れた位置から女子が手を振ってくる。

「太陽王子~」

 俺は手を振り返す。すると女子は「キャ」とテンションを上げて、去っていく。

「すげえな、太陽王子。5回目じゃん」

 そう。これは今日だけでもう、5度目である。代わる代わる女子たちがファンサを受けに来るのは。

「月王子の方もこんなかな?」
「弥生くんは、こんなことしないと思います」

 月王子って呼ばれるの好きじゃないって言ってたし。

「ふーん……ちょっと来い」

 伊吹先輩は、俺の手首を掴んで、歩く。

「え、何ですか?」

 伊吹先輩に連れてこられたのは、カウンター。弥生くんと森本先輩がいるところだ。

「森本、大崎と代われ。こいつファンサばっかで作業が進まん。大崎もカウンターにいた方が仕事してる感があって、女子が話しかけにくくなってくれるかも」
「分かりました」
「王子は2人で固まっとけ、試しに」

 そうして2人の先輩は本棚の方に行った。俺は森本先輩が座っていたカウンターの椅子に座った。

「ファンサしてたの?」

 弥生くんは呆れたように笑った。

「なんか、期待されるからやらなきゃって思っちゃうんだよね」
「キャーキャー言われるの、好きじゃなかったの?」

 弥生くんの顔が見れない。俺はカウンター席の手元を見ていた。


「好きだよ……反応されるのが楽しくて……ただ、始めにそうやっちゃったから、やめ時が分かんなくて」
「…………」
「太陽王子って呼ばれるからには、明るくいなきゃって思うんだ。期待外れだって思われるのが怖くて……でも、俺も人だから、明るく振る舞う気分じゃない時もある」

 本音を言うのは初めてだった。他の人に言ったら、悩みが悩みに聞こえないだろう。同じ王子と呼ばれる相手だからこそ言える、本音なのかもしれない。ボソボソと言ったから、弥生くんの耳に届いたかどうかは分からない。

「晴人はさ」

 初めて弥生くんに名前を呼ばれた。弥生くんって、俺のこと[晴人]って、呼ぶんだなって思った。弥生くんの顔を見ると、真っ直ぐとこちらを見ていた。

「晴人の思うままに行動して良いと思うよ。いくら太陽王子でも、明るくない時もあるって、みんな分かってくれるさ。みんなに分かってもらえなくても、僕がいる。ファンサしたくない日はしなければ良い。晴人はこの学校のアイドルかもしれないけど、それで金もらってるわけじゃないし」

 弥生くんはフッと笑ってた。弥生くんの言葉が、とても嬉しかった。

「ありがとう、弥生くん」
「どういたしまして」


______


 晴人が『好きだよ』という言葉を言った時、心臓が跳ねた。キャーキャー言われるのが好きということは、話の流れで理解している。でも、ドキリと心臓が鳴った。晴人がこちらを向いていなくて良かったと思った。あの時、こちらを見ていたら、ドキリとしたことがバレていたかもしれない。

 カウンターに、女子が近づいてきた。本を借りるか返すのかと思ったが、本は持っていない。

「大崎くん、ちょっと良いかな?」

 僕は理解した。これは、告白のための呼び出しだ。

「弥生くん、ちょっと行ってく……どうした?」

 そこで気がついた。僕は、立ち上がろうとした晴人の腕を掴んでいた。無意識だった。パッと手を離す。

「あ、いや、何でもない。行ってらっしゃい」
「本当に?」

 晴人は、座っている僕の顔を覗き込む。あんまり顔を近づけないでほしい。心臓に悪い。

「本当に」
「そ? じゃ、行ってくる」
「うん」

 女子と一緒に行く晴人の背中を見送った。どうして、腕を掴んでしまったのだろう……

 そうか、嫌なんだ。晴人が告白されるのが……

 なぜ? そんなの決まってる。


 僕が晴人を好きだからだ。


 晴人の本音に触れて嬉しかった。僕には打ち明けてくれたことに。それは、僕も彼と同じく、王子と呼ばれる存在だからだろう。月王子と呼ばれるのは好きじゃないが、初めて、呼ばれていて良かったと思った。

 
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