【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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12.ガンツは薬草と無駄な知識の師匠

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「レベッカ、私達は寮に帰るね」

 アレコレとうるさい王子と愉快な仲間達や、モブ集団を無視して教室を出たロクサーナ達3人の周りには、トコトコふわふわと3匹の家族兼ペットが飛び回っている。

 因みに、他の人達と同様にサブリナとセシルにも見えていないし声も聞こえていない。



「この後ちょっと出かけてくるね」

「食事は? ちゃんと食べないと大きくなんないよ?」

「後で食べる。成長期だもん」

「ロクサーナは昨日もお出かけしてたでしょ? そんなに忙しいのなら、何かお手伝いできないかしら」

「ありがとう、大丈夫だからね」

 畑の薬草が気になるから聖王国に帰るとは言えない。

(幻の薬草なんてバレたらセシルが金勘定はじめそうだし、転移が使えるなんて知ったら馬車がわりにされちゃう)

 寮の部屋の前でセシル達と別れ、作業用のチュニックに着替えながらウルウルに声をかけた。

(ウルウルは最近何してたの?)

【僕はモグモグにお仕置きしてたんだ~。だってモグモグってばお寝坊さんなんだもん】

 土魔法の得意なモグモグは、お気に入りの土を作り終わると潜り込んで寝てしまい、中から出てこなくなる。

 世話焼きのウルウルはそれが気になってしょうがないらしい。因みにウルウルはすっごく可愛い僕っ子。

 部屋に設置してある監視の為の魔導具を確認して、聖王国の畑にある納屋の中に転移した。



(この匂い⋯⋯はぁ、落ち着く~。おんなじ土や草でも全然違うんだよね。王国って土が痩せてるからか、草や木もカサカサの匂いっていうか)

 マイスコップを手に持ち、納屋の扉を開けて先ずは深呼吸。

「お、ロクサーナじゃねえか。ちょうど良かった、ちょいと魔法水作ってくれねえか? それとよお、シルフィウムは問題ねえんだが、コントライェルバがどうも元気がねえ気がするんだよな」

 ロクサーナの薬草作りに協力してくれている庭師のガンツがやって来た。



 シルフィウムは、暖かい地方の山奥や秘境と呼ばれる辺境地でごくたまに見つかり、高値で取引される事がある。

 解熱作用・鎮痛・咳の緩和・消化不良の改善などにも有効なので、是非とも増やしたい。避妊堕胎薬の効果が高いので、医師や薬師の処方は必要だが、多くの生命を救えると思っている。

(温度と湿度に細心の注意を払えば出来なくもないと思うんだけど、避妊堕胎薬になるからって、教会は禁止してる薬草なんだよな~)

 コントライェルバは伝説だと言われているくらい珍しい毒消し草。禁書の棚にある最も古い薬草図鑑にしか載っていない、超貴重な薬草。

 魔法士が減り続けている状況でコントライェルバの栽培に成功すれば、助かる人は多いだろう。流通している毒消し草は特定の毒にしか効かず、薬効も弱い為本人の体力によるところが大きい。

 コントライェルバはあらゆる毒に絶大な効果がある為、乱獲されて絶滅したと言われている薬草。

(実力のある冒険者や辺境地の人達に⋯⋯)




「確かにコンちゃんは元気がないねえ。何が足りないんだろう」

 王国に出かける前は元気に育っていたはず。その後に起きたことといえば⋯⋯。

「寂しかったとか?」

「んなわけねえだろ! 毎日声かけて世話してたんだからよ。母ちゃんのケツを追いかけるのを我慢して、せっせと世話してたんだぜ? そのせいで母ちゃんに浮気されたら、ロクサーナのせいにすっからな」

「はいはい、お盛んなことで。苦情はジルベルト司祭におねしゃーす」

 ガンツの話にはしょっちゅう下ネタが入るので、ロクサーナのエロ知識の全てはガンツから強制的に入手させられている。

 しゃがみ込んでいるロクサーナの横でガンツもしゃがみ溜息をついた。



「う~ん、もしかしたらだけど魔法水を冷やしてみたらどうかなぁ。で、結界張って魔力を充満させる」

 目の前で元気なく見えているコントライェルバは、最北端の人が足を踏み入れた事がない地方で発見された。その地域は肺が凍りつくほどの冷気と、息ができなくなるほどの魔力に包まれていた。

「どうやって? ロクサーナみたいに氷魔法使える奴は少ねえし、結界やら魔力充填してくれる奴なんざ、この国にはいねえよ」

「だよね~」

 氷魔法は水魔法の上位互換とも言える魔法。水属性持ちが魔法の練度をマックスに上げた時に、稀に出現する貴重なもの。

 その為、氷魔法が使える魔法士は他の者達よりもプライドが高い。

「水属性の魔法士さえ、ある程度の実力を身につけたら畑には近寄らねえんだからよ」


『畑の水やりなんかに貴重な魔法を使うなどあり得ん!』


「汎用性が高い分、鼻が高くなっていく水属性魔法士様だもんねえ」

「そういうこと。畑に来る水属性の魔法士は見習いの見習いくらいだぜ」

「納屋にコンちゃん専用魔法水を入れとく保冷庫を設置するしかなさそうだね。
結構大きな物がいりそうだから、場所を作ってもらえる? シルちゃんの魔法水を作ってから、盗難防止でガンツの使用者登録する」

「結界と魔力はどうすんだ?」

「毎朝来る。夜明け前にきて、結界を確認して魔力を充填しとく」

「国二つも離れててよお、結界を張りっぱなしになんか出来んのか?」

「うん、問題ないはず。それで上手くいったら他の薬草にも使えそうだし⋯⋯時間ができたら魔導具作ろうかな」



 魔力水を作り保冷庫を設置。薬草畑に認識阻害を掛け直して、雑草取りをしているうちに空が夕暮れに染まりはじめた。

「ヤバい、お昼食べ忘れた! 縮んじゃう」

「それ以上縮んだらポケットに入れて運んでやる。顔は可愛いからロリコン野郎なら喜びそうだけどな」

「げ、ロリコンとショタコンは断る! ボンキュッボンのセクシーレディになって、スローライフするんだもん」

「そこはイケメン捕まえて毎晩ヤリまくるとかじゃねえのかよ」

「滅びろイケメン! 余分なもんがついてる奴なんか、爆裂魔法で木っ端微塵にしてやる」

「なら、百合しかねえな」

「やっだね~! 男も女も人類全て敵だから。ガンツみたいなジジイはちょびっと我慢するけど」

「俺はまだまだバリバリの現役だかんな! 母ちゃんが『もう無理~』とか言うくらい、毎晩元気いっぱいで」

「⋯⋯加齢臭」

「え? マジで⋯⋯消臭と浄化魔法してくれんか?」

「銀貨1枚」

「お前、友達から金とんの?」

「人は悪、金は正義⋯⋯夜が益々楽しくなる薬付きなら、銀貨2枚」

「すぐ財布とってくる、待ってろ! いいか、絶対、ぜーったい帰るなよ! よっしゃあー!」

(薬に頼るようになったら、すでにジジイ⋯⋯毎度あり~)



 薬を手にソワソワするガンツに手を振って寮の部屋に転移した。

(お腹すいた。着替えて食堂に行けばちょうど良さそう)

 ロクサーナの部屋にはシャワールームやトイレがない為、《クリーン》をかけて着替えを済ませ、魔導具を確認してから部屋を出る。

 セシルの部屋のドアをノックすると、青褪めた顔で右手がインクだらけの部屋の主が顔を出した。

「ロクサーナ、助けてぇ」

(そう言えば、セシルって座学苦手だった)

「試験範囲に天文学が入ってるんだよ~、もう無理~」

「んじゃ、夕食の後で勉強会しよう」

 サブリナにも声をかけて食堂に向かうと、チラホラと座って食事している寮生達もセシルと同じ青い顔をしている。

「今回の試験範囲、酷すぎませんこと?」

「入学前に聞いていたのと違いすぎですわ!」

「赤点を取ったら補習とかありそう」




「セシル、仲間がたくさんいて良かったね」

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