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17.騎士団で可哀想な人発見
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(なんの書類かなあ)
そっと横からロクサーナが覗き込むと、壊れかけた青年が顔を上げた。
「ん? 誰もいないか⋯⋯はぁ、とうとう頭がイカれちまったか。もう限界かなぁ、でも弟と妹がなぁ」
ブツブツ言いながら机に向かう青年の目の前にあるのは、来月末の遠征で使う備品の購入予定一覧。
(へえ、こんな騎士団でも遠征とかするんだ。えーっと、西の森⋯⋯人数は⋯⋯えっ? 騎士団の遠征の備品でお酒の購入?)
「間に合うかなぁ、財務でハンコもらってリブルス商会に持ってって⋯⋯また嫌味を言われそう。
ああっ! 酒が入ってんじゃんか! ロバートの奴、マジ巫山戯んなよ⋯⋯ああもう、このソーセージとハムは最高級品じゃねえか。こんなの財務に持ってったら殺されちまう。
遠征に連れてくメイドの人件費だあ、メイドじゃなくて娼婦だろうが! んなもん、自家発電してろや! 奴等なんて剣も抜かねえんだから、右手はガラ空きだろうがよおー。毎回毎回、テントの中から出て来やがらねえで、何が魔物発生状況の確認だよ! 平民に丸投げのくせしやがって⋯⋯。
団長やらの希望をまんま書きやがったな! クッソ使えねえ。ロバートも終わったな」
【聞かなきゃ良かったね。可哀想過ぎて見てらんない】
(自家発電不要になる薬を⋯⋯)
「おい、受付に人が来てるぞ」
「今日の担当がいねえんならお前がやれ! 俺は忙しい」
書類に顔を突っ込んだまま返事をした哀れな青年が、ひたすらペンを走らせている。
「先月の請求分で支払いがないって怒鳴ってるんだけど?」
哀れな男の顔の前に突きつけられたのは、宿の代金とびっしりと購入品が羅列された請求書。
「はぁ? リューズベイの宿⋯⋯団長の家族旅行の宿じゃねえか! んなもん払えねえ」
「接待交際費ってやつなんじゃね?」
「馬鹿野郎! 家族旅行だって言ったのが聞こえなかったか!? 急に休みを取って、娘の誕生祝いに海でバカンスしてきたアレだよアレ。
団長は⋯⋯今日は王宮か⋯⋯王宮行って本人に直談判しろって言っておけ!」
「えー、俺が?」
「なら、今朝お前が持ってきた購入品リストの書き直しをするか? 期限切れで酒と高級食材と娼婦の費用が入ったやつ。財務のハンコまで貰ってくるって言うなら、受付に来たバカの対応してやるけど?」
「⋯⋯いや、受付は俺が」
「ロバート、騎士団の奴らに染まるのも団長に媚を売るのも良いけどよ。俺に甘えんのはやめてくれ。もうお前は奴らと一緒、幼馴染は引退だ」
「レイ⋯⋯」
しっしと手を振って書類に顔を埋めた哀れな青年の名前はレイモンド・ボッグス。張り切って騎士団に入ったものの、いつの間にか事務仕事を一人で背負わされた哀れな男。
ロバート・ムスカはレイモンドの幼馴染。2年遅れで騎士団に入団し、雑用係を脱却する為に斜め下方向に向けて爆走中。
【レイって可哀想だよね、ほっとくの?】
「今のところできる事が思いつかないし⋯⋯。ジルベルト司祭に報告するくらいかな」
夕食に向けて着替えながら返事をしたロクサーナの表情は硬い。
姿を隠して調べまわった騎士団の状態は想像以上に酷かった。勤労意欲なしで不正の温床、1人の騎士に全て丸投げしている。
「ほんの数時間でこれだけの事が判明するんだから、内部はどんな事になってるのか想像したくないよ」
翌日の午前中は弁証法・幾何・音楽の試験。
「昨日の試験、予想より楽勝だったから今日も大丈夫」
昨日の午前の筆記試験終わりに、魂が抜けかけていたセシルがガッツポーズを見せた。
「午後は休みだしね」
「良かったら王都見学に行かない? 美味しいケーキを出すお店を教えてもらったの」
「ごめん、私は錬金術の先生に呼ばれてるんだ」
「じゃ、私とサブリナで行く? 剣術の時話をした子に声かけてもいいかも」
「私も誰か誘ってみるわ。お店の情報を教えてくれた子に声をかけてもいいわね」
順調に交友を広めはじめた2人ににっこりと笑ったロクサーナは、成長した子供を見る親目線。
「子爵家の方で裁縫が得意だって言ってらしたの」
「わぁ、サブリナと趣味が合いそうじゃん! 私の方は2人とも『初の女性騎士』を目指してるって言ってた。男子生徒なんかより頑張って訓練してるみたいでさ⋯⋯」
楽しそうに友達の説明をしあう2人の雰囲気とは別で、園舎に近付くごとに険悪な目が集中しはじめた。
「なんか私達、睨まれてる?」
「私達って言うよりロクサーナが睨まれてる気がするわね」
男子生徒も女子生徒もロクサーナ達を遠巻きにして、ヒソヒソと陰口を言っている。
「⋯⋯いて⋯⋯たわ」
「え⋯⋯人がき⋯⋯じゃな⋯⋯気を⋯⋯」
「⋯⋯家のくせに⋯⋯に入っ⋯⋯しいと思⋯⋯の」
(うーん、レベッカが盛大にやらかしたか)
サブリナ達には途切れ途切れにしか聞こえていないが、聴覚を上げたロクサーナの耳には⋯⋯。
「見ていて可哀想だったわ」
「ええっ! うちの国にそんな人がきたなんて、最悪じゃない。気をつけなくちゃ大変!」
「男爵家のくせにAクラスに入ってるから、おかしいと思ったの」
爵位で言えばロクサーナとセシルはBクラスかCクラスのはずだが、アーノルド王子達との交流時間を増やす為に、Aクラスにいれたのだろう。
(何をやらかしたんだか、見とけば良かったかも)
マナーのカケラも覚えてないレベッカが心配だったロクサーナは、レベッカの午後の試験状況を記録しておいたが、秘密の騎士団見学で心が折れて確認を忘れていた。
レベッカがポンコツ王子を籠絡するのは大賛成だが、聖王国の評判を落とされるのは困る。
(一応リーダーだし⋯⋯無理矢理だけど。何かあって謝るのも事態を取り繕うのも私って事。ジルベルト憎し! 明日の朝帰った時、下の毛消してやる)
以前、無謀なおねだりをしてきたジルベルト司祭の毛を、脱毛してあげた事があるロクサーナ。
トイレに行ったジルベルト司祭が絶叫したのは言うまでもない。
(見えないとこなら被害少ないし。今回はちっちゃくしちゃおうかなぁ⋯⋯あの人って、トイレで用が足せさえしたら、他に使い道なさそうだしね)
にんまりと笑った黒い顔を俯いて誤魔化したロクサーナは、ゾゾゾっと悪寒が走ったジルベルト司祭が椅子から飛び上がったのを知らない。
『なな、なんだ! もう、今度は何よぉぉ』
園舎に入り廊下を進むとパッと道が開き、教室に入ると生徒全員が振り向いた。
「歩きやすかったって言っていい?」
セシルは、膨れ上がった制服のスカートに邪魔されずに歩けたと言いたいらしい。
「蛇になる杖でも持っとけばモーセみたいでカッコよかったかな」
「女神サブリナを従えたロクサーナって?」
「それよりも、歌って踊るサブリナがミリアムで、お喋りなセシルがアロンかな?」
「ん?」
「モーセの姉のミリアムと兄のアロン⋯⋯セシルは弟っぽいけどね」
「私は人前で歌って踊るなんて無理だわ。セシルはお喋りだけど」
「昨日の専攻で一緒だったんだけど、覚えてらっしゃるかしら?」
「ええ、ビビアン・ハミル様ね」
「サブリナって呼んでもいいかしら。わたくしの事はビビアンで」
「よろしく、ビビアン様」
「で、今日の午後なんだけど、もしよろしければどこか⋯⋯」
話が盛り上がりはじめたサブリナ達に小さく会釈して、セシルと2人で席に向かった。
「ファーラム嬢⋯⋯いや、セシル。昨日の剣術の試験は女性にしては素晴らしかったな。魔法が使えるのに剣術もできるなんて」
「ありがとうございます?」
「部活は考えてるのか? 来月からはじまる予定なんだが⋯⋯」
セシルが脳筋ビクトールに捕まり、ロクサーナはひとりポツンと席についた。
(う~む、これからは毎日このパターンかな)
そっと横からロクサーナが覗き込むと、壊れかけた青年が顔を上げた。
「ん? 誰もいないか⋯⋯はぁ、とうとう頭がイカれちまったか。もう限界かなぁ、でも弟と妹がなぁ」
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(へえ、こんな騎士団でも遠征とかするんだ。えーっと、西の森⋯⋯人数は⋯⋯えっ? 騎士団の遠征の備品でお酒の購入?)
「間に合うかなぁ、財務でハンコもらってリブルス商会に持ってって⋯⋯また嫌味を言われそう。
ああっ! 酒が入ってんじゃんか! ロバートの奴、マジ巫山戯んなよ⋯⋯ああもう、このソーセージとハムは最高級品じゃねえか。こんなの財務に持ってったら殺されちまう。
遠征に連れてくメイドの人件費だあ、メイドじゃなくて娼婦だろうが! んなもん、自家発電してろや! 奴等なんて剣も抜かねえんだから、右手はガラ空きだろうがよおー。毎回毎回、テントの中から出て来やがらねえで、何が魔物発生状況の確認だよ! 平民に丸投げのくせしやがって⋯⋯。
団長やらの希望をまんま書きやがったな! クッソ使えねえ。ロバートも終わったな」
【聞かなきゃ良かったね。可哀想過ぎて見てらんない】
(自家発電不要になる薬を⋯⋯)
「おい、受付に人が来てるぞ」
「今日の担当がいねえんならお前がやれ! 俺は忙しい」
書類に顔を突っ込んだまま返事をした哀れな青年が、ひたすらペンを走らせている。
「先月の請求分で支払いがないって怒鳴ってるんだけど?」
哀れな男の顔の前に突きつけられたのは、宿の代金とびっしりと購入品が羅列された請求書。
「はぁ? リューズベイの宿⋯⋯団長の家族旅行の宿じゃねえか! んなもん払えねえ」
「接待交際費ってやつなんじゃね?」
「馬鹿野郎! 家族旅行だって言ったのが聞こえなかったか!? 急に休みを取って、娘の誕生祝いに海でバカンスしてきたアレだよアレ。
団長は⋯⋯今日は王宮か⋯⋯王宮行って本人に直談判しろって言っておけ!」
「えー、俺が?」
「なら、今朝お前が持ってきた購入品リストの書き直しをするか? 期限切れで酒と高級食材と娼婦の費用が入ったやつ。財務のハンコまで貰ってくるって言うなら、受付に来たバカの対応してやるけど?」
「⋯⋯いや、受付は俺が」
「ロバート、騎士団の奴らに染まるのも団長に媚を売るのも良いけどよ。俺に甘えんのはやめてくれ。もうお前は奴らと一緒、幼馴染は引退だ」
「レイ⋯⋯」
しっしと手を振って書類に顔を埋めた哀れな青年の名前はレイモンド・ボッグス。張り切って騎士団に入ったものの、いつの間にか事務仕事を一人で背負わされた哀れな男。
ロバート・ムスカはレイモンドの幼馴染。2年遅れで騎士団に入団し、雑用係を脱却する為に斜め下方向に向けて爆走中。
【レイって可哀想だよね、ほっとくの?】
「今のところできる事が思いつかないし⋯⋯。ジルベルト司祭に報告するくらいかな」
夕食に向けて着替えながら返事をしたロクサーナの表情は硬い。
姿を隠して調べまわった騎士団の状態は想像以上に酷かった。勤労意欲なしで不正の温床、1人の騎士に全て丸投げしている。
「ほんの数時間でこれだけの事が判明するんだから、内部はどんな事になってるのか想像したくないよ」
翌日の午前中は弁証法・幾何・音楽の試験。
「昨日の試験、予想より楽勝だったから今日も大丈夫」
昨日の午前の筆記試験終わりに、魂が抜けかけていたセシルがガッツポーズを見せた。
「午後は休みだしね」
「良かったら王都見学に行かない? 美味しいケーキを出すお店を教えてもらったの」
「ごめん、私は錬金術の先生に呼ばれてるんだ」
「じゃ、私とサブリナで行く? 剣術の時話をした子に声かけてもいいかも」
「私も誰か誘ってみるわ。お店の情報を教えてくれた子に声をかけてもいいわね」
順調に交友を広めはじめた2人ににっこりと笑ったロクサーナは、成長した子供を見る親目線。
「子爵家の方で裁縫が得意だって言ってらしたの」
「わぁ、サブリナと趣味が合いそうじゃん! 私の方は2人とも『初の女性騎士』を目指してるって言ってた。男子生徒なんかより頑張って訓練してるみたいでさ⋯⋯」
楽しそうに友達の説明をしあう2人の雰囲気とは別で、園舎に近付くごとに険悪な目が集中しはじめた。
「なんか私達、睨まれてる?」
「私達って言うよりロクサーナが睨まれてる気がするわね」
男子生徒も女子生徒もロクサーナ達を遠巻きにして、ヒソヒソと陰口を言っている。
「⋯⋯いて⋯⋯たわ」
「え⋯⋯人がき⋯⋯じゃな⋯⋯気を⋯⋯」
「⋯⋯家のくせに⋯⋯に入っ⋯⋯しいと思⋯⋯の」
(うーん、レベッカが盛大にやらかしたか)
サブリナ達には途切れ途切れにしか聞こえていないが、聴覚を上げたロクサーナの耳には⋯⋯。
「見ていて可哀想だったわ」
「ええっ! うちの国にそんな人がきたなんて、最悪じゃない。気をつけなくちゃ大変!」
「男爵家のくせにAクラスに入ってるから、おかしいと思ったの」
爵位で言えばロクサーナとセシルはBクラスかCクラスのはずだが、アーノルド王子達との交流時間を増やす為に、Aクラスにいれたのだろう。
(何をやらかしたんだか、見とけば良かったかも)
マナーのカケラも覚えてないレベッカが心配だったロクサーナは、レベッカの午後の試験状況を記録しておいたが、秘密の騎士団見学で心が折れて確認を忘れていた。
レベッカがポンコツ王子を籠絡するのは大賛成だが、聖王国の評判を落とされるのは困る。
(一応リーダーだし⋯⋯無理矢理だけど。何かあって謝るのも事態を取り繕うのも私って事。ジルベルト憎し! 明日の朝帰った時、下の毛消してやる)
以前、無謀なおねだりをしてきたジルベルト司祭の毛を、脱毛してあげた事があるロクサーナ。
トイレに行ったジルベルト司祭が絶叫したのは言うまでもない。
(見えないとこなら被害少ないし。今回はちっちゃくしちゃおうかなぁ⋯⋯あの人って、トイレで用が足せさえしたら、他に使い道なさそうだしね)
にんまりと笑った黒い顔を俯いて誤魔化したロクサーナは、ゾゾゾっと悪寒が走ったジルベルト司祭が椅子から飛び上がったのを知らない。
『なな、なんだ! もう、今度は何よぉぉ』
園舎に入り廊下を進むとパッと道が開き、教室に入ると生徒全員が振り向いた。
「歩きやすかったって言っていい?」
セシルは、膨れ上がった制服のスカートに邪魔されずに歩けたと言いたいらしい。
「蛇になる杖でも持っとけばモーセみたいでカッコよかったかな」
「女神サブリナを従えたロクサーナって?」
「それよりも、歌って踊るサブリナがミリアムで、お喋りなセシルがアロンかな?」
「ん?」
「モーセの姉のミリアムと兄のアロン⋯⋯セシルは弟っぽいけどね」
「私は人前で歌って踊るなんて無理だわ。セシルはお喋りだけど」
「昨日の専攻で一緒だったんだけど、覚えてらっしゃるかしら?」
「ええ、ビビアン・ハミル様ね」
「サブリナって呼んでもいいかしら。わたくしの事はビビアンで」
「よろしく、ビビアン様」
「で、今日の午後なんだけど、もしよろしければどこか⋯⋯」
話が盛り上がりはじめたサブリナ達に小さく会釈して、セシルと2人で席に向かった。
「ファーラム嬢⋯⋯いや、セシル。昨日の剣術の試験は女性にしては素晴らしかったな。魔法が使えるのに剣術もできるなんて」
「ありがとうございます?」
「部活は考えてるのか? 来月からはじまる予定なんだが⋯⋯」
セシルが脳筋ビクトールに捕まり、ロクサーナはひとりポツンと席についた。
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