【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

文字の大きさ
23 / 126

23.ノリのいい熊は、犬・猿・雉をお供にしている

しおりを挟む
「イカは血行が良くなるし老化防止になるんだよね~。更年期障害って知ってる? 全身の倦怠感・不眠・勃起不全・集中力の低下とかになるの。
ウルサさんの気の短さとか⋯⋯あ、イカ焼きのおじさんとこによるからひとつだけあげるね」

 広場を出て歩きはじめたロクサーナが楽しそうに蘊蓄を垂れていると、ウルサが眉間に皺を寄せた。

「でけえ声で『勃起』とか言うんじゃねえ! 俺はまだ枯れてねえしな」

「勃起なんて医学用語じゃん。医者とか薬師が使うアレだよ。やらしいことばっか考えてるとガンツみたいなエロジジイになっちゃうよ?」

「⋯⋯ガンツが誰か分かんねえけど、苦労してそうだな」

「今朝も会ってきたけど超元気で、昨日の夜も奥ちゃんとあっつあつの夜⋯⋯」

「だーまーれー! 屋台に行くんじゃねえのか?」

「そうだった! おじさーん、熊⋯⋯ウルサさん捕獲したよ~。イカ焼き、できてる?」

 パタパタと走って屋台に近付くと、屋台のおじさんが手を上げた。

「できてんぞ。ウルサ、久しぶりだな」

「おう、変なのに声かけられたからな」

「酔っ払ってばかりより面白そうじゃねえか」

 ロクサーナに大量のイカ焼きを持たされて目を丸くしたウルサが、屋台のおじさんを睨みつけた。

「こんな大量のイカ焼き売りつけたのかよ!」

「こちとら商売だから、買うって言われりゃ売るに決まってんだろ? 情報料は別に貰ったしな~。酒を奢ってやるから、暇になったら遊びにこいよ。ガッハッハ」

 またね~と手を振って路地裏に向かって歩くロクサーナを、ウルサが『おい、待てよ!』と言いながら追いかけた。

「この辺でいいか、これから見る事は全部秘密ね。いい?」

「あ、ああ? まあ、いいけど」

「イカ焼きが冷めちゃうから急いで契約しちゃいま~す。ロクサーナ・バーラムの指示に従い、ウルサは2~3回船を操縦する。必要な人材はウルサが集め、その報酬としてウルサが納得できるキャラベル船をロクサーナ・バーラムは譲渡する。全員の人件費や必要経費はロクサーナ・バーラムが現金で支払う。
ロクサーナ・バーラムは船員全員に対し生命の保証と怪我の治療を確約するが、ウルサと船員はロクサーナ・バーラムに関係する全ての内容に対して守秘義務が生じる。
ウルサが契約を違えた時、船を没収しそれと同額の支払いを行う。ロクサーナ・バーラムが契約を違えた場合には、ロクサーナ・バーラムの資産の全てをウルサに譲渡した後に生命を持って支払いとする。
これで納得できたら契約ね」

「契約違反の時の内容が重すぎるが⋯⋯俺は黙ってるだけでいいんだな。船員達はどうする? 奴等が喋るかもしんねえ」

「契約してくれる人だけを見つけてね」

「⋯⋯いいだろう、契約してやろうじゃねえか」

 ウルサの言葉が終わると同時に足元に現れた複雑な魔法陣は、円の中に六芒星が描かれ、見たこともない文字や記号が書かれている。

 魔法陣が虹色に光り輝き、ロクサーナとウルサを包み込んだ後、光の粒を残しながら消えていった。

「⋯⋯な、なんだ、今のは」

「契約の魔法陣。私は聖⋯⋯魔法士だからね~」

 茫然としているウルサの手から受け取ったイカ焼きを異空間にしまいこみ、港へ向かって歩きはじめた。



「人がいないとこ⋯⋯入江みたいになってるとことかがいいんだけど」

「なら、あっちだな。港の端に壊れたまま修理していない桟橋があるんだ。そこなら誰もこねえ」

 ウルサが指し示した方には一見すると問題のなさそうな桟橋があり、手漕ぎボートが一艘ゆらゆらと揺れている。

 近付いてみると少し傾いていて、あちこちの板が腐っている。

「持ち主は直さないの?」

「俺の知り合いなんだが直す金がねえんだと。そいつも船がなくなったから仕事もできねえしな」

「じゃあ、直しても怒られないってことだね。あんまり派手に直すと面倒になりそうだから⋯⋯傾きを直して⋯⋯板を張り替えて⋯⋯ウルサさんの重さに耐えられるくらいに、強化! よしオッケー」

「魔法士、怖え」

「船を出すね、気に入ってくれたら夕食に間に合うかなぁ」

 認識阻害をかけて異空間から船を出して海に浮かべた。

【この船、久しぶりに見た】

【ピッピは初めて見たの~】

(私のコレクションのひとつ、かっこいいでしょ~)

 口をぽかんと開けていたウルサが目を輝かせて船に飛び乗った。船首から船尾まで走り回って雄叫びを上げ、帆を確認してマストに抱きついた。

「凄え! 初期のキャラベル船じゃねえか。全長は20ちょいか? 2本のマストで全長と全幅のバランスもいい。保存も完璧! まさか、コイツをくれるとか言わねえよな」

「報酬はこれのつもりだから、気に入ったなら助かる」

「やる! すぐに人を集めてくるからすぐに出航しよう!」

 ウルサが桟橋に飛び上がり、ロクサーナを小脇に抱えて走り出した。

(ギシって言ったよね、桟橋を強化したのにギシって。作り替えなきゃウルサには対応できないみたい)


 
 そして再び銀の梟亭へ⋯⋯。

「カーニス、シーミア、アンセル! 海に出るぞ」

 バンっと大きな音がして3人の男が飛び出してきた。

「マジか!? 酔って幻覚を見たとかじゃねえよな!」

「やりぃ~、海がアタシを呼んでるぅ」

「ふふ、船⋯⋯船は?」

「話は船を見てからだ、他にも話があるしな」

「⋯⋯アンタが小脇に抱えてる小動物。もしかしてさっき見たアンタの隠し子?」

「金持ちの女捕まえてたのか!? やったじゃねえか」

「いい、遺産?」

「違え! 兎に角話を⋯⋯詳しい話が先だ」

「いや、その前に下ろしてくんないかな! お腹が痛いし気持ち悪くなってきたじゃん」

 腹を立てたロクサーナの足がプラプラと揺れ、ウルサの興奮が一気に冷めた。



「ちっこいから抱えてるの忘れてた。で、契約内容なんだが⋯⋯」

「あーやーまーれー! 次に小荷物よろしく配送したら、何しでかすか分かんないからね!」

「酷いわよねぇ、もう大丈夫?」

「う、うん⋯⋯大丈夫」

 オネエ言葉で話されると、なぜか心がほっこりとなるのは⋯⋯ジルベルト司祭に調教されてるせいか。




 カーニス、シーミア、アンセルの3人は長年ウルサの船に乗っていた仲間。

(うぷぷ⋯⋯動物園みたい)

【ウルサ、カーニス、シーミア、アンセル⋯⋯昔の言葉で熊と犬・猿・雉だね】

 3人は船を見た途端『契約する!』と叫び船に飛び乗った。

 背の低いカーニスは力自慢、オネエ言葉のシーミアは風を読むのが得意、吃り気味のアンセルはオールマイティで全員のフォローをする。

 たった4人で船を動かせるのは魔力があるからだと言う。



「この陽気なら午後に一度行けるな」

「もう、ワクワクが止まんないんだけどぉ」

「明日なら、ちょっと沖に出て定置網やるか?」

(定置網かぁ、何が取れるんだろう。気になる~)

「その前にチビの依頼だ」

「そうよ! それを先に済ませなきゃだわ。何がしたいの? 海水浴のシーズンは終わったから小島巡り? 貝殻探し?」

「クラーケン釣り」

「「「⋯⋯はあぁぁぁ」」」

「今回はクラーケンの踊り食いが狙いなんだ~」

「この海ってクラーケンがいるのか?」

「いる。デカい帆船の向こうにいる」

「⋯⋯なあ、チビが魔法士だってのは信じてる。けど、クラーケンは無理。シーサーペントだって追っ払うのが関の山なんだぜ? クラーケンなんて船ごと海の藻屑になっちまう」

「ふ~ん、じゃあやめる? 契約違反になるけどね」

「⋯⋯」

「船は回収、それと同額の借金⋯⋯もう酒も飲めないし娼館にも行けないね」



「行ってやろうじゃねえか! 生命の保証と怪我の治療も契約の内だからな」

「大丈夫、クラーケンなら大したことないもん。縛りなしでチャチャっとやっちゃうからね」

【いえ~い、ようやくクラーケンだぁ】

【あたしはぁ、サラッと炙り焼きにしちゃおっかな~】

しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。 一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。 今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。 人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。 一度目の人生は何が起っていたのか。 今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...