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56.熊、頑張れ〜!
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土曜日の午後5時、領主館とギルドに戦慄が走った。
「大変です! ウルサの奴がシーサーペントを殺る為に今から船を出すと港で騒いでます! しかも、確実に殺る方法を見つけたと自信満々だそうです」
「なんだと!」
大慌てで港に駆けつけた領主とギルド長は、見たことのないキャラベル船の船首に立つウルサを見つけて怒鳴り声を上げた。
「何をやってるんだ! 船から降りてこい、牢にぶち込んでやる!!」
「貴様らの私服を肥やすために港と海獣を利用させるのはヤメだ! 俺は今からシーサーペントを討伐に行く。誰にも止めさせねえ!」
「き、貴様の船は運行許可がおりん!」
「そんなこたぁ知ってら! だがな、今俺が乗ってる船は俺んじゃねえ。なら、船を出しても問題ねえだろうがよ!」
「ゆ、許さんぞ! シーサーペントの撃退は魔法士の仕事だ。奴等が討伐できない海獣をお前ごときが殺れるわけがなかろう」
「ウルサ、聖女様が祈ってくれたんだぞ! 面倒なことなんかしなくても、俺達は無敵なんだ」
そうだそうだと言う声の間に、今年からシーサーペントは被害を出さない筈だと声がする。
「聖女様の祈りで海獣は大人しくなったはずだろうがよ」
「テメエらよく聞きやがれ! 聖女様の祈りで何が変わった? 空が光って怪我が治ったやつは? 病気が良くなったやつは? 答えはな⋯⋯さかむけひとつ治っちゃいねえ。
聖女の放つ光ってのは治療効果があることくらい、テメエらも知ってるだろうが!
つーまーりー、あの光にはなんの意味もねえ、ただのパフォーマンスだよ!」
集まった人に動揺が広がった。
「ウルサの言う通りかも。あん時、一番前にいたのに、転けて擦りむいてたガキの膝小僧はそのまんまだった」
「そう言やぁ俺も、足の捻挫が治ってなかった」
疑問を口にする人が増え、領主達を不審そうな目で見始めたのを見計らって、ウルサが右手を空に向けて突き上げた。
「これが聖女様の祈りの光の正体だぁ!」
カチン!
ウルサの全身が光り初め、空まで広がっていく。
「同じじゃねえかよ!」
「なんだそりゃ⋯⋯えっ? 魔導具だと!」
「領主に騙されるな! このままだと、また船を壊される奴が出るぞ。それでいいのかよ! 今までどんだけの奴らが船壊されて、陸に上がったか、考えてみやがれ! 陸の奴らだって、これから先も、おんなじ町の仲間がそんな目にあっていいのかよ!」
「シーサーペントをホントに殺れるのか!?」
ウルサがニヤッと笑って海に向けて手を突き出した。
ドゴーン!
「うおぉぉ、凄えぇぇ!」
悠々と船が桟橋を離れていくのを大勢の人が見守っている。
「お疲れ~。熊、伊達にでっかい身体してないね。声もデカくて良く響いてたじゃん」
「うるせえ、チビ」
魔導具で出した光のトリックと、ウルサの動きに合わせたロクサーナの魔法。
「タイミング、バッチリっしょ」
隠蔽をかけて船首の上を飛んでいるロクサーナが、ウルサの背中を叩いた。
大きなリアクションのウルサに合わせて氷魔法を撃つのは容易い。この作戦のポイントは、ウルサがどれだけ人々の気持ちを掴めるか、どれだけ領主とギルド長を釘付けにできるかだけ。
「熊に赤っ恥かかせようと思ったのに、ヒーローみたいになっちゃったのが、なんかムカつくけど」
「ふん、この後ヘマするなよ!」
「あったりまえじゃん。6年間の聖女生活で、一回もヘマしたことないんだからね。聖王国一と言われる魔力と、使用可能属性数と魔法の練度⋯⋯そこで口開けてみてろよ!」
索敵で確認したシーサーペントの巣の手前で船を停めた。
「こないだより揺れるから。熊が船から落ちたら作戦失敗なんだから⋯⋯ちゃんと船首にしがみついといて! 腰が抜けて泣き出しても、その場から逃げるなよ!」
攻撃は全てウルサの持つ魔導具と言う設定なので、前回ほど船を遠くにできないのが難点。
昼行性のシーサーペントが海の底をゆっくりと移動しているのを見据え、進行方向を狙って氷の槍を打ちまくった。
大きな水飛沫が上がり船が横倒しになりかける。
「くっそぉぉ!」
大きな波に船が翻弄されてウルサが船首にしがみつき、波飛沫が船に襲いかかる⋯⋯数え切れないほどの槍が休む間もなく打ち込まれると、ゆらりゆらりと巨大なシーサーペントが姿を表した。
「きたきたきたきたぁぁ! おっしゃあぁぁ!」
鱗が陽の光で鈍く輝き、大きくもたげた頭を船に向けて大量の潮を噴き、幅の広い大きな鰭で素早く方向を変えようとする。
潮は結界にあたり『ドゴーン』と大きな音を立てて飛び散り、海をますます荒れさせていった。
「さあ、いっくよぉぉ! せえのおぉぉ、どりゃあぁぁ」
頭のほんの少し下を狙い氷魔法を付与した剣で一閃すると、ドワーフの剣は鮮やかな切れ味を見せてシーサーペントの首を切り落とした。
「よっしゃぁぁ!」
空向けて飛んだ首と胴体を拘束し、波が静まるのを待っていると、シーミア達が甲板に出てきた。
「凄いじゃない! アタシ、ロクサーナに惚れちゃいそうだわ!」
「想像以上の強さだなぁ、カッコよかったぜ」
「すす、凄い。も、もっかい見たい、く、くらい」
「テヘヘ、人に見られるのは慣れてないから⋯⋯なんか恥ずかしいね」
船の向きを変え、シーサーペントを引っ張りながら帰港した。
「いや~、ドワーフ凄いねえ。あの一瞬で斬った後を氷漬けだもん。海が血だらけにならなくって良かったね。海水の汚染は良くないもんね~」
「⋯⋯なあ、こないだは離れてたから聞こえんかったが、『どおりゃあぁぁ』とかは止めよう? 俺の中に残る、僅かな聖女への期待とか憧れが⋯⋯消えてなくなるんだわ」
「う~ん、じゃじゃあ。先輩聖女の決め台詞にしよう! 『こんのチン◯ス野郎がぁ! 一昨日きやがれってんだ!』⋯⋯えーっと、ダメ? なら⋯⋯『玉無し野郎にピッタリの最後ね』とか『わたくしの足を舐めたら許して差し上げても宜しくてよ!?』とか、あとは⋯⋯『汚ったないそのケツにテメエの一物⋯⋯」
「すまん、もういいわ。お前のエロ知識がガンツ以外からも⋯⋯ってのだけはわかったから」
打ちひしがれるウルサを見ながら首を傾げたロクサーナ。
港が近付くにつれ岸壁の騒ぎが聞こえてくる。出港前の何倍もに膨れ上がった人々は、飛び上がり抱き合い、涙を流していた。
「やったじゃん。後はまた、熊の出番だから」
「チビの手柄だろ? なんで顔を出さねえんだ?」
「便利な魔法が使えるって知られたら面倒になるから。聖女を辞められなくなるのも嫌だし、その後付き纏われたり誘拐されるのも⋯⋯のんびりスローライフの邪魔になるじゃん。それにさ、人は嫌いなんだ」
「そうか⋯⋯俺も転移門を通れるようにしてくれよ。じゃなきゃ、全部ロクサーナがやったんだって大声で叫んでやる」
「ひっで~! 強迫じゃん! なら、そん時は熊が二度と娼館に行けないように、勃起不全にしてやるからな!」
「そいつは勘弁してくれ⋯⋯まだ枯れ果てるのは遠慮だぜ」
「うおぉぉぉ! ウルサァァ!!」
港に着いてもみくちゃにされるウルサ達は町の人達から感謝の言葉をかけられた。
その一方で、誰にも見向きされず地面に座り込んだ領主とギルド長は、肩を落としたまま船の横で揺れるシーサーペントを見つめていた。
(討伐完了! これで任務はぜーんぶ終わりだね)
【お疲れ~、後でお祝いだね】
姿を消して空に浮かんだまま、喜ぶ人達を見ていたロクサーナがサムズアップした。
「大変です! ウルサの奴がシーサーペントを殺る為に今から船を出すと港で騒いでます! しかも、確実に殺る方法を見つけたと自信満々だそうです」
「なんだと!」
大慌てで港に駆けつけた領主とギルド長は、見たことのないキャラベル船の船首に立つウルサを見つけて怒鳴り声を上げた。
「何をやってるんだ! 船から降りてこい、牢にぶち込んでやる!!」
「貴様らの私服を肥やすために港と海獣を利用させるのはヤメだ! 俺は今からシーサーペントを討伐に行く。誰にも止めさせねえ!」
「き、貴様の船は運行許可がおりん!」
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「ゆ、許さんぞ! シーサーペントの撃退は魔法士の仕事だ。奴等が討伐できない海獣をお前ごときが殺れるわけがなかろう」
「ウルサ、聖女様が祈ってくれたんだぞ! 面倒なことなんかしなくても、俺達は無敵なんだ」
そうだそうだと言う声の間に、今年からシーサーペントは被害を出さない筈だと声がする。
「聖女様の祈りで海獣は大人しくなったはずだろうがよ」
「テメエらよく聞きやがれ! 聖女様の祈りで何が変わった? 空が光って怪我が治ったやつは? 病気が良くなったやつは? 答えはな⋯⋯さかむけひとつ治っちゃいねえ。
聖女の放つ光ってのは治療効果があることくらい、テメエらも知ってるだろうが!
つーまーりー、あの光にはなんの意味もねえ、ただのパフォーマンスだよ!」
集まった人に動揺が広がった。
「ウルサの言う通りかも。あん時、一番前にいたのに、転けて擦りむいてたガキの膝小僧はそのまんまだった」
「そう言やぁ俺も、足の捻挫が治ってなかった」
疑問を口にする人が増え、領主達を不審そうな目で見始めたのを見計らって、ウルサが右手を空に向けて突き上げた。
「これが聖女様の祈りの光の正体だぁ!」
カチン!
ウルサの全身が光り初め、空まで広がっていく。
「同じじゃねえかよ!」
「なんだそりゃ⋯⋯えっ? 魔導具だと!」
「領主に騙されるな! このままだと、また船を壊される奴が出るぞ。それでいいのかよ! 今までどんだけの奴らが船壊されて、陸に上がったか、考えてみやがれ! 陸の奴らだって、これから先も、おんなじ町の仲間がそんな目にあっていいのかよ!」
「シーサーペントをホントに殺れるのか!?」
ウルサがニヤッと笑って海に向けて手を突き出した。
ドゴーン!
「うおぉぉ、凄えぇぇ!」
悠々と船が桟橋を離れていくのを大勢の人が見守っている。
「お疲れ~。熊、伊達にでっかい身体してないね。声もデカくて良く響いてたじゃん」
「うるせえ、チビ」
魔導具で出した光のトリックと、ウルサの動きに合わせたロクサーナの魔法。
「タイミング、バッチリっしょ」
隠蔽をかけて船首の上を飛んでいるロクサーナが、ウルサの背中を叩いた。
大きなリアクションのウルサに合わせて氷魔法を撃つのは容易い。この作戦のポイントは、ウルサがどれだけ人々の気持ちを掴めるか、どれだけ領主とギルド長を釘付けにできるかだけ。
「熊に赤っ恥かかせようと思ったのに、ヒーローみたいになっちゃったのが、なんかムカつくけど」
「ふん、この後ヘマするなよ!」
「あったりまえじゃん。6年間の聖女生活で、一回もヘマしたことないんだからね。聖王国一と言われる魔力と、使用可能属性数と魔法の練度⋯⋯そこで口開けてみてろよ!」
索敵で確認したシーサーペントの巣の手前で船を停めた。
「こないだより揺れるから。熊が船から落ちたら作戦失敗なんだから⋯⋯ちゃんと船首にしがみついといて! 腰が抜けて泣き出しても、その場から逃げるなよ!」
攻撃は全てウルサの持つ魔導具と言う設定なので、前回ほど船を遠くにできないのが難点。
昼行性のシーサーペントが海の底をゆっくりと移動しているのを見据え、進行方向を狙って氷の槍を打ちまくった。
大きな水飛沫が上がり船が横倒しになりかける。
「くっそぉぉ!」
大きな波に船が翻弄されてウルサが船首にしがみつき、波飛沫が船に襲いかかる⋯⋯数え切れないほどの槍が休む間もなく打ち込まれると、ゆらりゆらりと巨大なシーサーペントが姿を表した。
「きたきたきたきたぁぁ! おっしゃあぁぁ!」
鱗が陽の光で鈍く輝き、大きくもたげた頭を船に向けて大量の潮を噴き、幅の広い大きな鰭で素早く方向を変えようとする。
潮は結界にあたり『ドゴーン』と大きな音を立てて飛び散り、海をますます荒れさせていった。
「さあ、いっくよぉぉ! せえのおぉぉ、どりゃあぁぁ」
頭のほんの少し下を狙い氷魔法を付与した剣で一閃すると、ドワーフの剣は鮮やかな切れ味を見せてシーサーペントの首を切り落とした。
「よっしゃぁぁ!」
空向けて飛んだ首と胴体を拘束し、波が静まるのを待っていると、シーミア達が甲板に出てきた。
「凄いじゃない! アタシ、ロクサーナに惚れちゃいそうだわ!」
「想像以上の強さだなぁ、カッコよかったぜ」
「すす、凄い。も、もっかい見たい、く、くらい」
「テヘヘ、人に見られるのは慣れてないから⋯⋯なんか恥ずかしいね」
船の向きを変え、シーサーペントを引っ張りながら帰港した。
「いや~、ドワーフ凄いねえ。あの一瞬で斬った後を氷漬けだもん。海が血だらけにならなくって良かったね。海水の汚染は良くないもんね~」
「⋯⋯なあ、こないだは離れてたから聞こえんかったが、『どおりゃあぁぁ』とかは止めよう? 俺の中に残る、僅かな聖女への期待とか憧れが⋯⋯消えてなくなるんだわ」
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「すまん、もういいわ。お前のエロ知識がガンツ以外からも⋯⋯ってのだけはわかったから」
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「そうか⋯⋯俺も転移門を通れるようにしてくれよ。じゃなきゃ、全部ロクサーナがやったんだって大声で叫んでやる」
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「そいつは勘弁してくれ⋯⋯まだ枯れ果てるのは遠慮だぜ」
「うおぉぉぉ! ウルサァァ!!」
港に着いてもみくちゃにされるウルサ達は町の人達から感謝の言葉をかけられた。
その一方で、誰にも見向きされず地面に座り込んだ領主とギルド長は、肩を落としたまま船の横で揺れるシーサーペントを見つめていた。
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