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88.リューズベイの山には不思議がいっぱい
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漁業ギルドの手前から領主館に向かう道を登りはじめた2人の前に、仕事終わりなのか疲れ果てた顔の男が立ち塞がった。
「あんた達、この先には領主館しかないし、今はもう窓口も閉まってますよ」
「ご親切にどうも。ただの散歩なんで、適当なところで戻ります」
「それなら良いけど⋯⋯最近山から魔物が降りてくる事が増えてるから気をつけた方がいい。大人しい魔物ばかりだから被害は出てないけど、いつ何があるかわからないから注意した方が良いよ」
親切な男に礼を言って道を登りはじめると、暫くロクサーナ達の後ろ姿を見つめていた男が、溜め息を吐いて坂を降りはじめた。
「魔物が降りてくるかぁ⋯⋯めちゃめちゃ気になる」
「そうだね。今の所山に何か仕掛けられてる気配は感じられないけど、ロクサーナは何か分かった?」
「幻術とかの気配は感じない。ただの山にしか思えないけど、魔物達の様子は確かにおかしい」
ロクサーナの索敵に引っかかった魔物の中に、見たことのないキメラが何体もいる。その内の2体は領主館のすぐ近くにいるが、特に目立った動きはしていない。
「領主館の中には人がかなり残ってるのに、人間を襲おうとしてないのはかなりおかしいと思う」
夜行性の魔物と入れ替わるこの時間は動物や魔物達の夕食の時間。虫系の魔物でも気が立っていて攻撃力が高くなっているが、領主館近くのキメラは虎系の魔物がベースになっているように感じた。
「気が立っているどころか、餌を前に盛り上がってるはずなのに⋯⋯もう少し近づいて、現物を見ながら鑑定すれば、もっと詳しい事が分かるかも」
領主館を遠巻きにして裏に回り込み、隠蔽と気配遮断をかけてキメラの風下から近付いて行くと、大木の間にチラチラとキメラの姿が現れた。
「うーん、見えたけど⋯⋯情報の一部が読めない。こんなの初めてかも」
【あのキメラ、元は人間だね。ピークス王の従者のひとりで、カネーンスと一緒に山に入った奴。
キルケーの魔法の効果だから、情報が所々壊れてても仕方ないかなぁ】
「元人間なら領主館を襲撃したり人を襲ったりしないで、このまま大人しくしてるとか?」
「その前に⋯⋯こんなに人の近くにいたら、町の奴が討伐しにくる可能性があるな」
元人間で人を襲わないなら討伐したくないが、このまま放置しているわけにはいかない。
(こんなに簡単に遭遇するとは思ってなかったから⋯⋯先にクロちゃんに聞いておけば良かったかな)
クロノスは時の神の一柱で時間を司り、同じ時の神カイロスは時刻を司る。
時刻は時の流れの中の各瞬間である1点を示し、時間は時の経過の長さを示す。
ロクサーナが時間停止の異次元収納を使えるのは時刻を操るカイロスのお陰で、転移や復元魔法を使えるのは時間を司るクロノスのお陰。
「今日は山の観察だけに留めて、彼等は眠らせて山の奥に運ぶのが最善じゃないかな?」
クロノスに復元魔法が使えるかどうかを聞くのは簡単だが、出来たとしても復元させた後どうすれば良いのかも分からない。
精霊なら兎も角、数千年前の人が突然今の時代に対応出来るとは思えないし、その人の一生を面倒見る気にもなれない。
「言葉が通じるとは思えないから、このまま近付いて眠らせる。領主館から裏庭に人が出てきそうなんで、妨害と周囲の警戒をお願いです。
その後、山の様子を調べてきたいので少し時間がかかるけど、なるたけ早く戻るね」
「1日で終わらせる必要はないから、無理だけはするなよ」
「はい!」
ロクサーナとジルベルトは頷きあい、そっと移動を開始した。
元人間のキメラ2体を眠らせて山の奥に運んだロクサーナは、山の頂上に転移して索敵の範囲を広げていった。
「キメラとか魔物が結構いるねぇ」
【昔はキルケーのゴミ捨て場になってたみたいだね。今は次元の向こうから出てこないから、別の場所に捨ててる】
「精霊や人を勝手に魔物に変えて捨てるなんて最低じゃん」
【元々、あの一族にはロクでもない奴等が多いからね。神も精霊も人とは違う価値観で生きてるから、残虐な話とか自分勝手な話なんて山盛りだよ】
「だよね、古い文献を読めば読むほど『神様ってなんぞ?』って思うもん。まあ、人間だって欲望まみれの悪意だらけだから、偉そうには言えないけど」
【キルケーの母は狩猟が好きでさ、獲物が見つからない時は人間を射殺して遊んでたし、毒好きだからアコニツムを発見したんだけど、人を騙して実験しまくってた。
キルケーの妹は、父親から宝物を盗んで逃げ出す時、一緒に連れてきてた幼い弟を殺して、亡骸を海にばらまいたんだ。他にも色々⋯⋯数えきれないくらいやらかしてる。
ね、真面な一族じゃないだろ?】
「凄すぎる⋯⋯怖いとかそんなレベルじゃないね」
【会いに行くとか言ってるくせに】
人の行動に口を挟めないと言う精霊の誓約に縛られているミュウ達は『キルケーに会いに行くな』とは言えないが、ロクサーナが行くのをやめようと思うように誘導する事はできる。
【⋯⋯(漸く教会と縁が切れたんだから、無茶はやめて人生を楽しんでくれたら良いのに)】
キルケーの魔法を防ぐには、雄弁と計略の神ヘルメースがオデュッセウス与えたモーリュという薬草が必要だが、その薬草をロクサーナが探している事も知っている。
【⋯⋯(見つからなかったからヘルメースに聞きに行くとか言いそうだよな)】
「カネーンスの気配は分かんないし、ジルベルト司祭のとこに帰ろうか」
領主館の裏手に転移したロクサーナは気付かなかったが、ミュウの耳にはカネーンスの悲しげな歌声が微かに聞こえていた。
「只今帰りました!」
「お疲れ、取り敢えず町に戻ろうか。ロクサーナ自慢の旧コレクションを見せてくれるんだろ?」
来た道を通って港に向けて歩き出した。領主館から港までの道は簡易な舗装がされているが、ここ最近掃除した気配がなく伸びかけた雑草の間に砂利が転がっている。
夕闇が迫り足元が覚束なくなったロクサーナ達は《ライト》で前を照らしながら、自然と手を繋ぎ⋯⋯ゆっくりと坂を下って行った。
「この時間ならウルサさん達も戻ってきてるはずだし、港に行ってみよう。そこにいなかったらどうしようかなぁ」
ロクサーナはウルサ達の住んでいる所も家族構成も知らない。索敵で探せば簡単に見つかるが、それをしてしまうのはつまらない。
(人を鑑定しないって決めてるのと一緒で、勝手に詮索するのはルール違反だもん)
「船を見に行った時に会えなかったら、手紙を置いて帰ろうかな」
「そんなことになったら、ウルサさん達が後から追いかけてきそうだよ?」
「転移で帰るのに? 島の場所も教えてないしね」
ロクサーナとウルサ達はかなり仲がいいと思っていたが、意外にドライな関係だと知ったジルベルトは驚きを隠せなかった。
「島の場所も教えてないの?」
「リューズベイと島じゃ遠すぎるし、途中の海域に幾つか危険な場所があるから、場所を知らせるのもなんだかなぁって。島の港もただの岩場みたいなもんだから、船を痛めちゃう可能性大でしょ?
それより、レベッカ達3人とレベッカパパの気配が領主館の中にあったのには驚いた~。ジルベルト司祭は知ってた?」
「うん、教会に報告が来てたからね。王国に来るまではサブリナやセシルとは仲が良かったから、ロクサーナに知らせたら気にするかなあって思ったんだ」
「教会の中で話をする数少ない人だったのは間違いないけど⋯⋯すっかり忘れてた。聖王国に帰らずレベッカと一緒に行動してるなら、仲良くなってたって事?」
「あんた達、この先には領主館しかないし、今はもう窓口も閉まってますよ」
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親切な男に礼を言って道を登りはじめると、暫くロクサーナ達の後ろ姿を見つめていた男が、溜め息を吐いて坂を降りはじめた。
「魔物が降りてくるかぁ⋯⋯めちゃめちゃ気になる」
「そうだね。今の所山に何か仕掛けられてる気配は感じられないけど、ロクサーナは何か分かった?」
「幻術とかの気配は感じない。ただの山にしか思えないけど、魔物達の様子は確かにおかしい」
ロクサーナの索敵に引っかかった魔物の中に、見たことのないキメラが何体もいる。その内の2体は領主館のすぐ近くにいるが、特に目立った動きはしていない。
「領主館の中には人がかなり残ってるのに、人間を襲おうとしてないのはかなりおかしいと思う」
夜行性の魔物と入れ替わるこの時間は動物や魔物達の夕食の時間。虫系の魔物でも気が立っていて攻撃力が高くなっているが、領主館近くのキメラは虎系の魔物がベースになっているように感じた。
「気が立っているどころか、餌を前に盛り上がってるはずなのに⋯⋯もう少し近づいて、現物を見ながら鑑定すれば、もっと詳しい事が分かるかも」
領主館を遠巻きにして裏に回り込み、隠蔽と気配遮断をかけてキメラの風下から近付いて行くと、大木の間にチラチラとキメラの姿が現れた。
「うーん、見えたけど⋯⋯情報の一部が読めない。こんなの初めてかも」
【あのキメラ、元は人間だね。ピークス王の従者のひとりで、カネーンスと一緒に山に入った奴。
キルケーの魔法の効果だから、情報が所々壊れてても仕方ないかなぁ】
「元人間なら領主館を襲撃したり人を襲ったりしないで、このまま大人しくしてるとか?」
「その前に⋯⋯こんなに人の近くにいたら、町の奴が討伐しにくる可能性があるな」
元人間で人を襲わないなら討伐したくないが、このまま放置しているわけにはいかない。
(こんなに簡単に遭遇するとは思ってなかったから⋯⋯先にクロちゃんに聞いておけば良かったかな)
クロノスは時の神の一柱で時間を司り、同じ時の神カイロスは時刻を司る。
時刻は時の流れの中の各瞬間である1点を示し、時間は時の経過の長さを示す。
ロクサーナが時間停止の異次元収納を使えるのは時刻を操るカイロスのお陰で、転移や復元魔法を使えるのは時間を司るクロノスのお陰。
「今日は山の観察だけに留めて、彼等は眠らせて山の奥に運ぶのが最善じゃないかな?」
クロノスに復元魔法が使えるかどうかを聞くのは簡単だが、出来たとしても復元させた後どうすれば良いのかも分からない。
精霊なら兎も角、数千年前の人が突然今の時代に対応出来るとは思えないし、その人の一生を面倒見る気にもなれない。
「言葉が通じるとは思えないから、このまま近付いて眠らせる。領主館から裏庭に人が出てきそうなんで、妨害と周囲の警戒をお願いです。
その後、山の様子を調べてきたいので少し時間がかかるけど、なるたけ早く戻るね」
「1日で終わらせる必要はないから、無理だけはするなよ」
「はい!」
ロクサーナとジルベルトは頷きあい、そっと移動を開始した。
元人間のキメラ2体を眠らせて山の奥に運んだロクサーナは、山の頂上に転移して索敵の範囲を広げていった。
「キメラとか魔物が結構いるねぇ」
【昔はキルケーのゴミ捨て場になってたみたいだね。今は次元の向こうから出てこないから、別の場所に捨ててる】
「精霊や人を勝手に魔物に変えて捨てるなんて最低じゃん」
【元々、あの一族にはロクでもない奴等が多いからね。神も精霊も人とは違う価値観で生きてるから、残虐な話とか自分勝手な話なんて山盛りだよ】
「だよね、古い文献を読めば読むほど『神様ってなんぞ?』って思うもん。まあ、人間だって欲望まみれの悪意だらけだから、偉そうには言えないけど」
【キルケーの母は狩猟が好きでさ、獲物が見つからない時は人間を射殺して遊んでたし、毒好きだからアコニツムを発見したんだけど、人を騙して実験しまくってた。
キルケーの妹は、父親から宝物を盗んで逃げ出す時、一緒に連れてきてた幼い弟を殺して、亡骸を海にばらまいたんだ。他にも色々⋯⋯数えきれないくらいやらかしてる。
ね、真面な一族じゃないだろ?】
「凄すぎる⋯⋯怖いとかそんなレベルじゃないね」
【会いに行くとか言ってるくせに】
人の行動に口を挟めないと言う精霊の誓約に縛られているミュウ達は『キルケーに会いに行くな』とは言えないが、ロクサーナが行くのをやめようと思うように誘導する事はできる。
【⋯⋯(漸く教会と縁が切れたんだから、無茶はやめて人生を楽しんでくれたら良いのに)】
キルケーの魔法を防ぐには、雄弁と計略の神ヘルメースがオデュッセウス与えたモーリュという薬草が必要だが、その薬草をロクサーナが探している事も知っている。
【⋯⋯(見つからなかったからヘルメースに聞きに行くとか言いそうだよな)】
「カネーンスの気配は分かんないし、ジルベルト司祭のとこに帰ろうか」
領主館の裏手に転移したロクサーナは気付かなかったが、ミュウの耳にはカネーンスの悲しげな歌声が微かに聞こえていた。
「只今帰りました!」
「お疲れ、取り敢えず町に戻ろうか。ロクサーナ自慢の旧コレクションを見せてくれるんだろ?」
来た道を通って港に向けて歩き出した。領主館から港までの道は簡易な舗装がされているが、ここ最近掃除した気配がなく伸びかけた雑草の間に砂利が転がっている。
夕闇が迫り足元が覚束なくなったロクサーナ達は《ライト》で前を照らしながら、自然と手を繋ぎ⋯⋯ゆっくりと坂を下って行った。
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ロクサーナはウルサ達の住んでいる所も家族構成も知らない。索敵で探せば簡単に見つかるが、それをしてしまうのはつまらない。
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「そんなことになったら、ウルサさん達が後から追いかけてきそうだよ?」
「転移で帰るのに? 島の場所も教えてないしね」
ロクサーナとウルサ達はかなり仲がいいと思っていたが、意外にドライな関係だと知ったジルベルトは驚きを隠せなかった。
「島の場所も教えてないの?」
「リューズベイと島じゃ遠すぎるし、途中の海域に幾つか危険な場所があるから、場所を知らせるのもなんだかなぁって。島の港もただの岩場みたいなもんだから、船を痛めちゃう可能性大でしょ?
それより、レベッカ達3人とレベッカパパの気配が領主館の中にあったのには驚いた~。ジルベルト司祭は知ってた?」
「うん、教会に報告が来てたからね。王国に来るまではサブリナやセシルとは仲が良かったから、ロクサーナに知らせたら気にするかなあって思ったんだ」
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