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8.司祭の応接室
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「司教のミューリアと申します。
ご婦人からの離婚相談と言いますとどのような事でしょうか?」
「昨日夫から離婚を申し渡されて。
ただ、離婚については受け入れるつもりおりますのよ。
お聞きしたいのは・・夫は私に対してかなりの金額の借財がありますの。
それらの精算を夫に求める為には・・教会に相談するべきなのか、裁判所に行くべきなのか分からなくて困っておりますの」
「・・結婚した際に奥様の資産は旦那様との共同名義若しくは伯爵家の資産になっているのではありませんか?」
「いえ、婚姻協議の際持参金等の取り決めをいたしましたが、この度のそれは全く別のものですの」
「婚姻中に使ったものについて請求するのは難しいかもしれませんね。
しかしながら、請求書が残っており旦那様が個人的理由で購入した物と言う証拠があれば話は変わってくるでしょうが」
ルーシーはガックリと肩を落とし、溜息をついた。
「それらがない場合は難しいと?」
「弁護士に相談しても難しいと思いますよ。せいぜい現物で残っている物を返してもらうのが関の山かと」
「裁判所に訴える前、若しくは訴えている最中に教会で離婚手続きが終わる可能性はありますかしら?」
「その場合は一旦手続きが中止される事になっています。
ただ、夫側から離婚を申し立てて受理されるような理由があるのであれば、財産について深追いされるのはお勧め致しません」
「この後弁護士と会う予定ですの。お忙しい所お時間を頂いて感謝いたします。
心ばかりですが教会にご寄付をさせて頂けますでしょうか」
アリスがずしりとした重さの皮袋をテーブルの端に置くと、司祭の目つきが変わった。
「宜しければまたご相談に乗らせて頂きます。どうぞお心を強くお持ちください」
「ありがとうございます。ではここで失礼させて頂きますわ」
「神の導きがありますように」
「そう言えば、司祭様・・私は姦淫の罪は犯しておりませんの。お心遣い感謝します」
ルーシーはアリスやアレックス達と共に教会を出て、メルバーン法律事務所にやって来た。
メルバーン法律事務所は王都のメインストリートにある煉瓦造りの三階建ての建物を占有している。
所属している弁護士は二十二人。
その内十四名は法的アドバイスや法廷外の訴訟活動を専門に行う事務弁護士で、残りの八人が事務弁護士の依頼を受けて法廷で弁論を行う法廷弁護士。
ルーシーは一階受付のソフィアに声をかけた。
「こんにちはソフィア。カニンガム弁護士はいらっしゃるかしら?」
「はい、二階の事務所でお待ちしております」
カニンガム弁護士は長年ガードナー家の担当をしているベテランの事務弁護士で、ここ数年はルーシーの担当もしている。
癖のあるブルネットはいつも通りくしゃくしゃで、眠そうな垂れ目はダークグリーン。
事務所の両側に据えられた本棚にはびっしりと本が詰まっていて、入りきれない本が床に山積みになっている。
机の上に山のように積まれた資料に埋もれたアーロンが顔を覗かせた。
「急な連絡でごめんなさい。昨日の夜突然言われたものだから」
「一発目の書類は準備出来てるから、直ぐに裁判所に提出しとく。
で、荷物は持って帰ったのかい?」
「ええ、出来る限りね。リストにチェックしてあるから持って帰った物の査定を行うつもり」
「持って帰れなかった物の一覧を作ってくれ。物とそれ以外に分けたやつ」
「愛人にプレゼントしたドレスと屋敷の改装費を分ける感じね」
「うん、それで良い。奴はなんて言ってた?」
「漸く準備ができたって」
ご婦人からの離婚相談と言いますとどのような事でしょうか?」
「昨日夫から離婚を申し渡されて。
ただ、離婚については受け入れるつもりおりますのよ。
お聞きしたいのは・・夫は私に対してかなりの金額の借財がありますの。
それらの精算を夫に求める為には・・教会に相談するべきなのか、裁判所に行くべきなのか分からなくて困っておりますの」
「・・結婚した際に奥様の資産は旦那様との共同名義若しくは伯爵家の資産になっているのではありませんか?」
「いえ、婚姻協議の際持参金等の取り決めをいたしましたが、この度のそれは全く別のものですの」
「婚姻中に使ったものについて請求するのは難しいかもしれませんね。
しかしながら、請求書が残っており旦那様が個人的理由で購入した物と言う証拠があれば話は変わってくるでしょうが」
ルーシーはガックリと肩を落とし、溜息をついた。
「それらがない場合は難しいと?」
「弁護士に相談しても難しいと思いますよ。せいぜい現物で残っている物を返してもらうのが関の山かと」
「裁判所に訴える前、若しくは訴えている最中に教会で離婚手続きが終わる可能性はありますかしら?」
「その場合は一旦手続きが中止される事になっています。
ただ、夫側から離婚を申し立てて受理されるような理由があるのであれば、財産について深追いされるのはお勧め致しません」
「この後弁護士と会う予定ですの。お忙しい所お時間を頂いて感謝いたします。
心ばかりですが教会にご寄付をさせて頂けますでしょうか」
アリスがずしりとした重さの皮袋をテーブルの端に置くと、司祭の目つきが変わった。
「宜しければまたご相談に乗らせて頂きます。どうぞお心を強くお持ちください」
「ありがとうございます。ではここで失礼させて頂きますわ」
「神の導きがありますように」
「そう言えば、司祭様・・私は姦淫の罪は犯しておりませんの。お心遣い感謝します」
ルーシーはアリスやアレックス達と共に教会を出て、メルバーン法律事務所にやって来た。
メルバーン法律事務所は王都のメインストリートにある煉瓦造りの三階建ての建物を占有している。
所属している弁護士は二十二人。
その内十四名は法的アドバイスや法廷外の訴訟活動を専門に行う事務弁護士で、残りの八人が事務弁護士の依頼を受けて法廷で弁論を行う法廷弁護士。
ルーシーは一階受付のソフィアに声をかけた。
「こんにちはソフィア。カニンガム弁護士はいらっしゃるかしら?」
「はい、二階の事務所でお待ちしております」
カニンガム弁護士は長年ガードナー家の担当をしているベテランの事務弁護士で、ここ数年はルーシーの担当もしている。
癖のあるブルネットはいつも通りくしゃくしゃで、眠そうな垂れ目はダークグリーン。
事務所の両側に据えられた本棚にはびっしりと本が詰まっていて、入りきれない本が床に山積みになっている。
机の上に山のように積まれた資料に埋もれたアーロンが顔を覗かせた。
「急な連絡でごめんなさい。昨日の夜突然言われたものだから」
「一発目の書類は準備出来てるから、直ぐに裁判所に提出しとく。
で、荷物は持って帰ったのかい?」
「ええ、出来る限りね。リストにチェックしてあるから持って帰った物の査定を行うつもり」
「持って帰れなかった物の一覧を作ってくれ。物とそれ以外に分けたやつ」
「愛人にプレゼントしたドレスと屋敷の改装費を分ける感じね」
「うん、それで良い。奴はなんて言ってた?」
「漸く準備ができたって」
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