【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との

文字の大きさ
7 / 32

7.教会に行こう

しおりを挟む
 翌日の朝早く着替えを済ませたルーシーが食堂でコーヒーを飲んでいると、無精髭を生やしたヒューゴが真っ赤になった目を擦りながら現れた。

「おはよう。父さん目が真っ赤よ」

「おう、調子に乗ってちょっと飲み過ぎた。そう言うお前は大丈夫か?」


 ヒューゴは椅子に座りながら、メイドに『朝食はいらないからコーヒーだけでいい』と伝えた。


「父さんみたいにガブガブ飲んでないから大丈夫。この後教会に行ってから弁護士事務所に行ってくる」


「無理するな、あんまり寝てないんだろ? 手伝いならいくらでもいるんだ。帰って来たら昼寝でもして一日位ゆっくりしたらいいんじゃないか?」

 ルーシーは目の下にクマを作り、青白い顔で無理矢理朝食を詰め込んでいるように見えた。
 昨夜ワインを勧めるべきではなかったのかもと反省しきりのヒューゴだった。


「ありがとう。資料の整理とか清書とか、後数字に強い人がいると助かる」

「分かった。手配しとく」



 婚姻等については教会法の規定で定められており、十分な理由があると認められない限り離婚が成立する事はない。

 妻の側から離婚を求める事ができるのは白い結婚のみだが夫の側は、
 ・身分の違い
 ・妻の姦通
 ・肉体的欠陥や貧困
等の理由があれば離婚できる。


 今回リチャードは恐らく身分の違いを理由に離婚を求めるつもりだとルーシー達は考えている。
 一代貴族を嫌悪している彼らの狙いはガードナー男爵家の凋落。

 現在のこの国の法律では、高位貴族と平民の結婚は認められていないので、ガードナー男爵家が平民に落とされれば離婚は無条件で成立する。


「さて、行ってくるわね。帰りは夕方になるからリチャードが怒鳴り込んで来るのを見れないかもだけど、離婚が成立するまでは会わないつもりだから宜しくね」

「ああ、任せとけ。念の為何人か人を呼んでおく。お前の方こそ気をつけるんだぞ」

「アレックスとジェイクに同行を頼んだから大丈夫」

 二人はフリーカンパニー傭兵団の黒衣団に所属している。

 殆どのフリーカンパニーは正規の仕事戦争等以外に定期的に略奪を行い生計を立てているが、ガードナー商会は黒衣団と契約を結び、護衛や警備等を依頼している。


 アレックスは両刃の剣、ジェイクはランスを持ちマントの下には軽装の鎧をつけている。


「カニンガムの奴が喜ぶな」



 騎乗した護衛の二人とアリスを連れたルーシーの馬車は教会にやって来た。
 正面の扉を開けると狭い前室があり司祭が声をかけて来た。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「離婚についてご相談したく参りました」

 女性からの離婚相談は多いのか、司祭は驚く様子も見せず次の扉に向けて進んで行った。

「では此方へどうぞ」


 扉の中に入るとそこは広々とした聖堂で、正面に十字架の掲げられた祭壇があった。
 両側には火が灯された蝋燭があり、数人の信者が椅子に腰掛け祈りを捧げているように見受けられた。

 入り口横の水盤に入っている聖水に指先を浸し十字を切る。
 
 司祭の後をついて聖堂の左端を進み、途中のドアから入った先にある応接室に案内された。
 アレックスとジェイクは応接室の外に立ち、ルーシーはアリスと共に応接室に入って行った。

 ルーシーの物腰から貴族だと推測されたのだろう、案内された応接室には深く赤みがかった色合いのウォールナットの高級な応接セットが置かれていた。
 テーブルの足はカブリオール足猫足。テーブルクロスには繊細な刺繍が施されている。
 刺繍入りのベルベットのソファはゆったりとした作り。

(ゴシック装飾特有のひだ模様の入った輸入品で・・かなりの高級品。気を付けないと、もしかしたら)


「どうぞおかけください。今お茶をお持ちします」

 ノックの音が聞こえ助祭がお茶のセットを運んできた。
 お茶を出し終わった助祭が退出すると司祭はおもむろに話し始めた。

しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】婚約破棄に感謝します。貴方のおかげで今私は幸せです

コトミ
恋愛
 もうほとんど結婚は決まっているようなものだった。これほど唐突な婚約破棄は中々ない。そのためアンナはその瞬間酷く困惑していた。婚約者であったエリックは優秀な人間であった。公爵家の次男で眉目秀麗。おまけに騎士団の次期団長を言い渡されるほど強い。そんな彼の隣には自分よりも胸が大きく、顔が整っている女性が座っている。一つ一つに品があり、瞬きをする瞬間に長い睫毛が揺れ動いた。勝てる気がしない上に、張り合う気も失せていた。エリックに何とここぞとばかりに罵られた。今まで募っていた鬱憤を晴らすように。そしてアンナは婚約者の取り合いという女の闘いから速やかにその場を退いた。その後エリックは意中の相手と結婚し侯爵となった。しかしながら次期騎士団団長という命は解かれた。アンナと婚約破棄をした途端に負け知らずだった剣の腕は衰え、誰にも勝てなくなった。

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

処理中です...