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17.バリバリ働いてね
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午前中に事務員達との打ち合わせを済ませたルーシーは、昼食の後カニンガム弁護士の元へやって来た。
いつも通りに書類の山からひょっこり顔を覗かせた眠そうなアーロンは、ルーシーを見て破顔した。
「やあ、事態が進展したって連絡しようと思ってたとこなんだ。
ルーシーが来てくれたお陰で手間が省けた。
今日の午前中、マルフォー伯爵家が訴状を裁判所に提出したよ」
「相手は?」
「訴状は三種類」
カニンガム弁護士は楽しそうな顔で指を三本立てた。
「ルーシーの窃盗罪と離婚で二種類。もう一つは、何とヒューゴの国家反逆罪!」
『どう? 吃驚した?』と言うアーロンの笑顔に、
「予想がついてたって言ったらショック?」
「マジ? 俺としては脱税狙いで裏帳簿っぽいやつを作ってくると思ってたんだけどなぁ」
「今朝までは私もそう思ってたの。ところが商会長がメルプレースの支店に偽領収書の束を仕込まれたって教えてくれたの」
「領収書?」
「ホラントリア帝国に弩と手銃を売った事にしたいそうよ」
ぽけっとした顔でルーシーを見つめるアーロン。
(これで三十二歳とか、詐欺よね)
「そいつはまた安直な方法をとったもんだ」
「安直?」
「武器の横流しなら、仕入れ先・持ち込み方法・納品書・輸送方法・相手との連絡方法・受け渡し場所。ざっと考えてもこんなに沢山の事を立証しなきゃいけない。
商会長が認めるならそれらは全部商会長が白状する訳だけど」
「認めない場合は、原告側が立証しなきゃいけないのね」
「そう言う事。多分帳簿を入手出来なくて裏帳簿が作れなかったんだね」
「帳簿がないと裏帳簿って作れないの?」
「うーん、作れなくはないけど。仕分けの仕方から帳簿作成の方法が違ってて、筆跡も真似られないからすっごく怪しいやつしか出来ないと思う。
ガードナー商会は複式簿記だろ? これはこの国ではすごく珍しいんだ。一般的には単式簿記を使ってる。
貴族なんて《古くからの・・》が大事な奴らばっかりだから、単式簿記ばっかり。
長年複式簿記を使ってる人が突然旧式なやり方を使うなんて思えない。
だから、仮に適当な裏帳簿を仕込んできても裁判では通用しないと思う」
(それで父さんは呑気にしてたのね。ちょっと心配して損したかも)
「だけどなぁ・・マルフォー伯爵お抱えの弁護士は間抜けだけど、どれだけの貴族が裏にいるのかハッキリしないんだ。
だから、用心するに越した事はない」
「用心と言えば事務所の警備の追加とアーロンの護衛が来るから宜しくね。
商会長も賛成してるから、異議は認めません」
「はぁ、だよね。いつか言われるんじゃないかってビクビクしてたんだ。
でなきゃあんな凄いプレゼントはなかったんだろうなぁ」
アレックスとジェイクに会えたのが相当嬉しかったようで、アーロンは宙を見ながら思い出し笑いをしている。
「護衛は別の人になるから」
「・・残念。アイツらが始終一緖にいたら仕事する気なくなりそうだし、仕方ないか」
「時々アーロンの栄養補給に二人について来てもらうようにするからバリバリ頑張ってね」
「おっおう。ルーシーのバリバリは怖いなぁ。アンゲルス商会を立ち上げる時の地獄を思い出した」
真っ青な顔のアーロンと嬉しそうなルーシー。
「商会長が色々狙ってそう。でっかい花火だのあの方達だのってブツブツ言ってるから」
バタンと椅子を倒しながら立ち上がったアーロンの周りに机の上の資料が撒き散らかされた。
「無理無理無理無理! ルーシーだけでも面倒なのに、商会長の子守なんて絶対断る!」
「誰の子守だって?」
「ひぃ!」
ドアが開き、鬼の商会長登場。
この後アーロンはコッテリ搾られて一杯お仕事を頂いたとか・・。
いつも通りに書類の山からひょっこり顔を覗かせた眠そうなアーロンは、ルーシーを見て破顔した。
「やあ、事態が進展したって連絡しようと思ってたとこなんだ。
ルーシーが来てくれたお陰で手間が省けた。
今日の午前中、マルフォー伯爵家が訴状を裁判所に提出したよ」
「相手は?」
「訴状は三種類」
カニンガム弁護士は楽しそうな顔で指を三本立てた。
「ルーシーの窃盗罪と離婚で二種類。もう一つは、何とヒューゴの国家反逆罪!」
『どう? 吃驚した?』と言うアーロンの笑顔に、
「予想がついてたって言ったらショック?」
「マジ? 俺としては脱税狙いで裏帳簿っぽいやつを作ってくると思ってたんだけどなぁ」
「今朝までは私もそう思ってたの。ところが商会長がメルプレースの支店に偽領収書の束を仕込まれたって教えてくれたの」
「領収書?」
「ホラントリア帝国に弩と手銃を売った事にしたいそうよ」
ぽけっとした顔でルーシーを見つめるアーロン。
(これで三十二歳とか、詐欺よね)
「そいつはまた安直な方法をとったもんだ」
「安直?」
「武器の横流しなら、仕入れ先・持ち込み方法・納品書・輸送方法・相手との連絡方法・受け渡し場所。ざっと考えてもこんなに沢山の事を立証しなきゃいけない。
商会長が認めるならそれらは全部商会長が白状する訳だけど」
「認めない場合は、原告側が立証しなきゃいけないのね」
「そう言う事。多分帳簿を入手出来なくて裏帳簿が作れなかったんだね」
「帳簿がないと裏帳簿って作れないの?」
「うーん、作れなくはないけど。仕分けの仕方から帳簿作成の方法が違ってて、筆跡も真似られないからすっごく怪しいやつしか出来ないと思う。
ガードナー商会は複式簿記だろ? これはこの国ではすごく珍しいんだ。一般的には単式簿記を使ってる。
貴族なんて《古くからの・・》が大事な奴らばっかりだから、単式簿記ばっかり。
長年複式簿記を使ってる人が突然旧式なやり方を使うなんて思えない。
だから、仮に適当な裏帳簿を仕込んできても裁判では通用しないと思う」
(それで父さんは呑気にしてたのね。ちょっと心配して損したかも)
「だけどなぁ・・マルフォー伯爵お抱えの弁護士は間抜けだけど、どれだけの貴族が裏にいるのかハッキリしないんだ。
だから、用心するに越した事はない」
「用心と言えば事務所の警備の追加とアーロンの護衛が来るから宜しくね。
商会長も賛成してるから、異議は認めません」
「はぁ、だよね。いつか言われるんじゃないかってビクビクしてたんだ。
でなきゃあんな凄いプレゼントはなかったんだろうなぁ」
アレックスとジェイクに会えたのが相当嬉しかったようで、アーロンは宙を見ながら思い出し笑いをしている。
「護衛は別の人になるから」
「・・残念。アイツらが始終一緖にいたら仕事する気なくなりそうだし、仕方ないか」
「時々アーロンの栄養補給に二人について来てもらうようにするからバリバリ頑張ってね」
「おっおう。ルーシーのバリバリは怖いなぁ。アンゲルス商会を立ち上げる時の地獄を思い出した」
真っ青な顔のアーロンと嬉しそうなルーシー。
「商会長が色々狙ってそう。でっかい花火だのあの方達だのってブツブツ言ってるから」
バタンと椅子を倒しながら立ち上がったアーロンの周りに机の上の資料が撒き散らかされた。
「無理無理無理無理! ルーシーだけでも面倒なのに、商会長の子守なんて絶対断る!」
「誰の子守だって?」
「ひぃ!」
ドアが開き、鬼の商会長登場。
この後アーロンはコッテリ搾られて一杯お仕事を頂いたとか・・。
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