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22.猛獣ステラ参戦
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古い家具が離れや地下室から運び出されたマルフォー伯爵邸。
まだ新しい壁紙や艶々の床にそぐわない古びたソファの前に立ち上がり、怒り狂っているリチャードの前にサミュエルとロンデリー子爵が青褪めて座っていた。
テーブルの上には裁判所から送られてきた三通の訴状。
「どういう事だ! ロンデリー話が違うじゃないか。
奴等は頭を下げてくるんじゃなかったのか!」
「悪足掻きです。ただ、メルプレースの男が捕まっているのが問題です。
自白魔法を使われたらこちらが犯罪者として逮捕される。
勿論、爵位を褫爵させることなんて出来ない」
「サミュエル、メルプレースなら上手く行くと言ってたくせにこの体たらくはなんだ!」
「領主館に逃げ込めと言い含めてあったんだ。あそこの家令とは話がついていたのに。くそ、俺まで捕まってしまう」
「奴は既に王都へ護送され牢の中だそうだ。何か・・何か打つ手はないのか」
三人が頭を抱えソファに座り込んでいると、騒がしい声が聞こえ応接室のドアがバタンと大きな音を立てて開いた。
「ちょっとリチャード、どういう事?」
駆け込んできたステラの手には一通の封筒。嫌な予感がしたリチャードは黙ったままステラを見つめた。
ばん! と音を立ててテーブルに置かれたそれはリチャードの予想通りのものだった。
「何でわたくしがあんな女に慰謝料を払わなくてはならないのよ。
しかもわたくしが購入した物の返還請求まで。
あれはリチャードがわたくしにくれた物でしょう? 買い物だってリチャードが良いと仰ったから買ったのよ」
「ステラ・・」
「先日の夜会、あの女が着ていたドレスを覚えてらっしゃるかしら?
わたくしのドレスよりよっぽど高価な物だったわ。
絶対わざとよ。わざとわたくしに見せつけたんだわ!
ローブ・ア・ラングレーズは王都ではまだ仕立てられるお針子は殆どいないのよ。
髪飾りだってあんな精巧な金細工、見たこともないわ。
あんな・・あんな・・わたくしに見せつけるように・・恥をかかせておいて。
ドレスもアクセサリーも何一つ返しませんから。
どうしてもって言うのならマルフォー伯爵家に払って頂くわ。
それが出来ないと言うならお父様に頼んでマルフォー伯爵家を訴えるから覚えてらっしゃい!」
長文で怒りをぶちまけたステラは『こんな汚い部屋にはいられない』と捨て台詞を吐いて帰って行った。
「くそ、ガードナーはどこまで私を追い詰めるつもりだ!」
リチャードはテーブルの上の訴状を床に払い落とした。
「謝るしかないんじゃないか?」
サミュエルがぽつりと呟いた。
「それしかない。メルプレースの事や訴えた事を謝れば元通りだろ? このままだとお前のせいで俺は犯罪者になる。そんなのはお断りだ」
「現時点それしかではなさそうですね。謝罪して訴状も離婚も取り下げると言うしかありません。
私も犯罪の片棒を担いだと思われたらやっていけませんから」
「謝って・・元通り?」
「次の機会を狙えば良いのではありませんか? 離婚を白紙に戻せばガードナーは訴状を取り下げるでしょうから」
「彼奴らに頭を・・」
まだ新しい壁紙や艶々の床にそぐわない古びたソファの前に立ち上がり、怒り狂っているリチャードの前にサミュエルとロンデリー子爵が青褪めて座っていた。
テーブルの上には裁判所から送られてきた三通の訴状。
「どういう事だ! ロンデリー話が違うじゃないか。
奴等は頭を下げてくるんじゃなかったのか!」
「悪足掻きです。ただ、メルプレースの男が捕まっているのが問題です。
自白魔法を使われたらこちらが犯罪者として逮捕される。
勿論、爵位を褫爵させることなんて出来ない」
「サミュエル、メルプレースなら上手く行くと言ってたくせにこの体たらくはなんだ!」
「領主館に逃げ込めと言い含めてあったんだ。あそこの家令とは話がついていたのに。くそ、俺まで捕まってしまう」
「奴は既に王都へ護送され牢の中だそうだ。何か・・何か打つ手はないのか」
三人が頭を抱えソファに座り込んでいると、騒がしい声が聞こえ応接室のドアがバタンと大きな音を立てて開いた。
「ちょっとリチャード、どういう事?」
駆け込んできたステラの手には一通の封筒。嫌な予感がしたリチャードは黙ったままステラを見つめた。
ばん! と音を立ててテーブルに置かれたそれはリチャードの予想通りのものだった。
「何でわたくしがあんな女に慰謝料を払わなくてはならないのよ。
しかもわたくしが購入した物の返還請求まで。
あれはリチャードがわたくしにくれた物でしょう? 買い物だってリチャードが良いと仰ったから買ったのよ」
「ステラ・・」
「先日の夜会、あの女が着ていたドレスを覚えてらっしゃるかしら?
わたくしのドレスよりよっぽど高価な物だったわ。
絶対わざとよ。わざとわたくしに見せつけたんだわ!
ローブ・ア・ラングレーズは王都ではまだ仕立てられるお針子は殆どいないのよ。
髪飾りだってあんな精巧な金細工、見たこともないわ。
あんな・・あんな・・わたくしに見せつけるように・・恥をかかせておいて。
ドレスもアクセサリーも何一つ返しませんから。
どうしてもって言うのならマルフォー伯爵家に払って頂くわ。
それが出来ないと言うならお父様に頼んでマルフォー伯爵家を訴えるから覚えてらっしゃい!」
長文で怒りをぶちまけたステラは『こんな汚い部屋にはいられない』と捨て台詞を吐いて帰って行った。
「くそ、ガードナーはどこまで私を追い詰めるつもりだ!」
リチャードはテーブルの上の訴状を床に払い落とした。
「謝るしかないんじゃないか?」
サミュエルがぽつりと呟いた。
「それしかない。メルプレースの事や訴えた事を謝れば元通りだろ? このままだとお前のせいで俺は犯罪者になる。そんなのはお断りだ」
「現時点それしかではなさそうですね。謝罪して訴状も離婚も取り下げると言うしかありません。
私も犯罪の片棒を担いだと思われたらやっていけませんから」
「謝って・・元通り?」
「次の機会を狙えば良いのではありませんか? 離婚を白紙に戻せばガードナーは訴状を取り下げるでしょうから」
「彼奴らに頭を・・」
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