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第八章 いざ、決戦!
24.いつもと変わらない優しさに包まれて
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ホールの出入り口が空いて、背の高い男が入ってきた。
コツコツと革靴が音を立てミリーが立つ演壇に向かってくる。ユーフェミアと対峙していた時の迫力が消え失せたミリーは、今にも消えそうなほど影が薄く見えた。
「コンプトン、すまなかった」
演壇の下から見上げ謝罪したのは、今まで姿を見せなかった理事長だった。
「⋯⋯」
「私は何も見えていなかった。君を批判する資格などなかった。あれは君の話なんだろう?」
『⋯⋯⋯⋯現に君は健康に育ち学園に入学もできている。あれだけの成績を出せたのも、勉強できる環境を整えてもらえたからじゃないか。君以外の平民の孤児で、これほど恵まれた者は他にいないと気付いていないのか?⋯⋯⋯⋯国を思う気持ちがないなんて残念だ。失望したと言ってもいい』
「私は恵まれています。良い人達に出会い助けられてここに立っているから。
生きる為に努力しました。でも、努力だけではここまで来れませんでした。今日の成功も理事長代理の許可があったからはじめられましたし」
「不敬上等⋯⋯とてもかっこ良かったよ」
「あれはドキドキしました。一か八かの賭けだったので」
「てっきり自信があるんだと思っていたよ。あれだけ大勢の前で勝負を仕掛けたなんて、誰も信じないだろうね。しかも、それが12歳の少女だ⋯⋯」
「途中で『待った』がかからなかったので、理事長の邪魔にはならなかったようですね」
「途中からそれどころじゃなくなってね、すっかり忘れていたよ。見事な話術と計算された話の流れに夢中だった。最後の最後まで目が離せなかった」
「お褒めに預かり光栄です」
「外に首を長くして待ってる人達がいる。コンプトンはとても愛されているようだね、コテンパンにされてきた」
「それは残念です。私がボコボコにしたかったのに、二番煎じじゃつまらないです。では、失礼します」
ペコリと頭を下げたミリーは演壇の端の階段を駆け降りて、出入り口に向かって走って行った。思いドアを押し開けて⋯⋯。
「ただいま!」
「おかえりなさい」
「ミリー、凄かったじゃん!」
「出てくるのは遅かったけどな」
「ちょっと~、勝利の余韻に浸ってたって言うか~、ボケっとしてた」
エルフで美魔女なイリス、破壊力抜群で性別不明な天使のシモン、かまいたがりで身体も心もでっかい熊なレオン。
「あれだけ喋ったら疲れるよのう」
「うん、頑張り屋のミリーらしい戦いだったね」
「いっちばん輝いてた」
「途中で喉からっからになってヤバかったんだよ~」
狸で情報通なセオじい、怒りん坊で世話好きなターニャ婆、気配り上手で料理と裁縫が得意なセリナ。
「さて、帰るかのう。長いこと座っとったで、腹も減ったしのう」
「ミリー、セリナさんの料理が待ってるわよ」
「マジで!? いやっほお~、セリナさんだ~い好き。熊を置いて帰ろう、お腹ペッコペコだもん」
「チビすけ、なんで俺だけ置いてこうとすんだよ」
「熊は~、どんぐりと~蜂蜜も~ん」
「んなんじゃ足りねえよ。てかどんぐりは食わねえっての」
「はあ~、イリスのお茶が恋しいかも~」
「俺が淹れてあげるよ。この間より進化したんだ」
「え~、お腹壊しちゃうよお」
「んじゃ、セリナさんのメシは食えねえな」
「熊、退場! ネギーおじさんに言いつけてやるんだからね~」
「ネギーおじさん? なんだそりゃ」
「ネギーおじさんはね~、ネギを配り歩いてる気が弱くて優しいおじさんで、大好きだったの~。誰かの危機を察知したら変身して戦ってくれるんだ~。あ、トランクス!
ねえ、熊ってどんなパンツ履いてるの?」
「パンツってなんだ?」
「ああ、そうかぁ、ないのか⋯⋯イリスが履いてるのはドロワーズ?」
「えっと、それは何かしら」
「そうか、両方ないのか⋯⋯ねえ、セリナさん。綿布で作るトランクスとドロワーズに興味ない?」
「ト、トラ? ド?」
「えっとね男の人のシャツの前後って長くなってるじゃん。あの部分が汚れないようにズボンより先に履くのがトランクス。女性用はドロワーズ。形とかはかなり変わるけど。
ズボンとかスカートを汚さない為に履くもの。もっとシンプルな作りだけどね。例えば熊がお漏らししても、ちょっとくらいならズボンを汚さなくて済む。
ウエストはゴム紐がない⋯⋯綿布で⋯⋯ ポイントは用を足す時の⋯⋯作る時旦那さんの協力も⋯⋯販売はシモンに丸投げ⋯⋯」
ミリーの頭が回転しはじめた。
「チビすけ~、誰が漏らすって?」
「ヤダな~、例えですよ~。た・と・え」
いつものように軽口を言い合いながら笑いあい、おねだりを言って揶揄いあい、新しい商売を思いつき⋯⋯馬車に向かって歩き出した。
夕陽が最後の力で窓ガラスを輝かせている園舎を背に、長くなった影がミリー達の後を追いかけていた。
翌日からミリーは仕事の残務整理をはじめた。
シモンに引き継いだ事業についてはアーノルドやビリーにも参加してもらい、事業の問題点の洗い出しと改善策。今後の方針や疑問点の最終確認と追加資料の作成。
途中で足踏みをしていた郵便事業はレオンとアーノルドの兄カーライル子爵が引き継いでくれると言う。
カーライル子爵は商人ギルドとの繋がりが深く、思ったより早く稼働できそうな予感がしている。ミリーは大株主となり経営にはノータッチ。
今はHバックが主流のサスペンダーだが、XバックとYバックのデザインをして、トランクスやドロワーズのデザイン画と共にファイリングした。
(やっぱり女性にパンツを作ってもらうのはハードルが高かったね~)
オーレリアに長い長い手紙を書いた。大ホールでの事、仕事や周りの人達の事。
『王都の平民街でマーサが見つかり、本物のミリーが目を覚ましはじめている気がします。オーレリア様の要塞にいつかミリーを招待していただければ幸いです』
(誰にも知らせるつもりはないんだ。いつどうなるのか誰にも分かんないんだもん。それならいつも通りに暮らしていたいから)
「おはようごじゃま~す。イリス~、お願いがあるんだけどぉ」
《 第八章 完 》
コツコツと革靴が音を立てミリーが立つ演壇に向かってくる。ユーフェミアと対峙していた時の迫力が消え失せたミリーは、今にも消えそうなほど影が薄く見えた。
「コンプトン、すまなかった」
演壇の下から見上げ謝罪したのは、今まで姿を見せなかった理事長だった。
「⋯⋯」
「私は何も見えていなかった。君を批判する資格などなかった。あれは君の話なんだろう?」
『⋯⋯⋯⋯現に君は健康に育ち学園に入学もできている。あれだけの成績を出せたのも、勉強できる環境を整えてもらえたからじゃないか。君以外の平民の孤児で、これほど恵まれた者は他にいないと気付いていないのか?⋯⋯⋯⋯国を思う気持ちがないなんて残念だ。失望したと言ってもいい』
「私は恵まれています。良い人達に出会い助けられてここに立っているから。
生きる為に努力しました。でも、努力だけではここまで来れませんでした。今日の成功も理事長代理の許可があったからはじめられましたし」
「不敬上等⋯⋯とてもかっこ良かったよ」
「あれはドキドキしました。一か八かの賭けだったので」
「てっきり自信があるんだと思っていたよ。あれだけ大勢の前で勝負を仕掛けたなんて、誰も信じないだろうね。しかも、それが12歳の少女だ⋯⋯」
「途中で『待った』がかからなかったので、理事長の邪魔にはならなかったようですね」
「途中からそれどころじゃなくなってね、すっかり忘れていたよ。見事な話術と計算された話の流れに夢中だった。最後の最後まで目が離せなかった」
「お褒めに預かり光栄です」
「外に首を長くして待ってる人達がいる。コンプトンはとても愛されているようだね、コテンパンにされてきた」
「それは残念です。私がボコボコにしたかったのに、二番煎じじゃつまらないです。では、失礼します」
ペコリと頭を下げたミリーは演壇の端の階段を駆け降りて、出入り口に向かって走って行った。思いドアを押し開けて⋯⋯。
「ただいま!」
「おかえりなさい」
「ミリー、凄かったじゃん!」
「出てくるのは遅かったけどな」
「ちょっと~、勝利の余韻に浸ってたって言うか~、ボケっとしてた」
エルフで美魔女なイリス、破壊力抜群で性別不明な天使のシモン、かまいたがりで身体も心もでっかい熊なレオン。
「あれだけ喋ったら疲れるよのう」
「うん、頑張り屋のミリーらしい戦いだったね」
「いっちばん輝いてた」
「途中で喉からっからになってヤバかったんだよ~」
狸で情報通なセオじい、怒りん坊で世話好きなターニャ婆、気配り上手で料理と裁縫が得意なセリナ。
「さて、帰るかのう。長いこと座っとったで、腹も減ったしのう」
「ミリー、セリナさんの料理が待ってるわよ」
「マジで!? いやっほお~、セリナさんだ~い好き。熊を置いて帰ろう、お腹ペッコペコだもん」
「チビすけ、なんで俺だけ置いてこうとすんだよ」
「熊は~、どんぐりと~蜂蜜も~ん」
「んなんじゃ足りねえよ。てかどんぐりは食わねえっての」
「はあ~、イリスのお茶が恋しいかも~」
「俺が淹れてあげるよ。この間より進化したんだ」
「え~、お腹壊しちゃうよお」
「んじゃ、セリナさんのメシは食えねえな」
「熊、退場! ネギーおじさんに言いつけてやるんだからね~」
「ネギーおじさん? なんだそりゃ」
「ネギーおじさんはね~、ネギを配り歩いてる気が弱くて優しいおじさんで、大好きだったの~。誰かの危機を察知したら変身して戦ってくれるんだ~。あ、トランクス!
ねえ、熊ってどんなパンツ履いてるの?」
「パンツってなんだ?」
「ああ、そうかぁ、ないのか⋯⋯イリスが履いてるのはドロワーズ?」
「えっと、それは何かしら」
「そうか、両方ないのか⋯⋯ねえ、セリナさん。綿布で作るトランクスとドロワーズに興味ない?」
「ト、トラ? ド?」
「えっとね男の人のシャツの前後って長くなってるじゃん。あの部分が汚れないようにズボンより先に履くのがトランクス。女性用はドロワーズ。形とかはかなり変わるけど。
ズボンとかスカートを汚さない為に履くもの。もっとシンプルな作りだけどね。例えば熊がお漏らししても、ちょっとくらいならズボンを汚さなくて済む。
ウエストはゴム紐がない⋯⋯綿布で⋯⋯ ポイントは用を足す時の⋯⋯作る時旦那さんの協力も⋯⋯販売はシモンに丸投げ⋯⋯」
ミリーの頭が回転しはじめた。
「チビすけ~、誰が漏らすって?」
「ヤダな~、例えですよ~。た・と・え」
いつものように軽口を言い合いながら笑いあい、おねだりを言って揶揄いあい、新しい商売を思いつき⋯⋯馬車に向かって歩き出した。
夕陽が最後の力で窓ガラスを輝かせている園舎を背に、長くなった影がミリー達の後を追いかけていた。
翌日からミリーは仕事の残務整理をはじめた。
シモンに引き継いだ事業についてはアーノルドやビリーにも参加してもらい、事業の問題点の洗い出しと改善策。今後の方針や疑問点の最終確認と追加資料の作成。
途中で足踏みをしていた郵便事業はレオンとアーノルドの兄カーライル子爵が引き継いでくれると言う。
カーライル子爵は商人ギルドとの繋がりが深く、思ったより早く稼働できそうな予感がしている。ミリーは大株主となり経営にはノータッチ。
今はHバックが主流のサスペンダーだが、XバックとYバックのデザインをして、トランクスやドロワーズのデザイン画と共にファイリングした。
(やっぱり女性にパンツを作ってもらうのはハードルが高かったね~)
オーレリアに長い長い手紙を書いた。大ホールでの事、仕事や周りの人達の事。
『王都の平民街でマーサが見つかり、本物のミリーが目を覚ましはじめている気がします。オーレリア様の要塞にいつかミリーを招待していただければ幸いです』
(誰にも知らせるつもりはないんだ。いつどうなるのか誰にも分かんないんだもん。それならいつも通りに暮らしていたいから)
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