病弱設定されているようです

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第八章 いざ、決戦!

23.ゴールまで全速力でダッシュする💨

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「どのようなご病気なのですか? お名前は?」

「それは色々よ。名前は⋯⋯コンプトンには関係ないわ」

 呼んだことも声をかけたこともないユーフェミアは横を向いたまま、ミリーの目を避け続けた。

「名前を覚えておられないのは当然ですね。何しろ侯爵家の方々はあの子を無視するのが基本でしたし、呼ぶ時は『アレ』でしたから。
ミッドランド侯爵家に産まれた直後から閉じ込めて飢えさせて、家族全員が平然としておられたんですよね。対外的には病弱だと嘘をついて。
えーっと確か⋯⋯ミッドランド侯爵が産まれたばかりの赤ん坊にかけた言葉は『死なない程度に閉じ込めておけ』で、夫人は『妖精の取り違え子だわ』でした。兄様は『おばあさんみたいでいや』で、姉様は『捨ててきて』でした」

「そ、そんなの嘘よ! 出鱈目だわ」

「では、ミッドランド侯爵令嬢の妹様のお名前は?」

「⋯⋯お、教える必要なんてないわ」

「ミッドランド侯爵令嬢の妹様は今どこに?」

「家にいるに決まってるでしょ。病弱なんだから」

 ユーフェミアは妹が家のどこに住んでいるのか知らない。ただ家にいると聞いているだけ。

「もう一度お聞きします。どのような病気なのですか? お医者様に見せた記録は?」

 侯爵が暴れ椅子が倒れる音が聞こえた。ドスドスと音がするのは殴り合いでもしているのだろうか。ユーフェミアは何度かその様子見ようと首を伸ばしていた。

「ねえ、お父様は大丈夫なの? 酷い事しないで! それに記録ならあるわよ! えーっと、我が家の主治医が持ってるはずだわ。嘘だって言うなら閉じ込めた理由を言ってごらんなさいよ」

「次女がミッドランド侯爵家の持つ金髪碧眼じゃなく銀髪で紫眼だったから。美貌が自慢のミッドランド侯爵家に相応しくない地味な⋯⋯残念顔だったから」

「な、何故それを⋯⋯」

(なんで知ってるの? まさかコンプトンがアレなのかしら⋯⋯違うわ。だってアレの髪は、お兄様が言った通りおばあさんみたいで気持ち悪かった覚えがあるもの)

「妹様がどうやって生きてきたかなど、ミッドランド侯爵家の方々は一度も気にされた事がありません。名前さえ執事に『適当につけておけ』と命令されたほどですから。
食事は1日一度の硬いパンと具のないスープ。それさえ何日も忘れられることもありました。どうやって生きていたと思います?
ミッドランド侯爵家には果樹園がありますが、高い塀の中に閉じ込められたその子には無縁でした。パーティーの喧騒が聞こえて美味しそうな料理の匂いがしてくるのに、何も食べるものがないんです。
6歳の冬、大雪が降った日です。暖炉の薪も、まともな布団もない部屋でその子は死にかけましたよね。その時が唯一お医者様に診てもらった日です。執事が呼んだのは夫人だけでしたから侯爵もご存じないかもしれません。
12歳の時、ミッドランド侯爵はその子を大金で売り飛ばしました。売った相手に問題があったので離籍した事が国にバレる前に見つけろと慌てておられますよね。その子はもう見つかりましたか?」

 大金は買い物と遊興費で使い果たしている。ミリーが見つかっても離籍届をどうにかする金はない。

「そ、そんな事は⋯⋯わたくしは何も知らないわ。だってアレの事は気にする必要はないって言われてたし、それに食事だって何歳からか覚えてないけど、2回にしたって聞いた気がするわ。あっ!」

 ユーフェミアが無意識に妹のことを『アレ』と呼んだのが会場の人達にはっきりと聞こえた。しかも真面に食事をもらえてさえいない。

 誰もが声を出せないほどの衝撃を受けた。自分達が見てきたミッドランド侯爵家はなんだったのか、眉目秀麗・才色兼備⋯⋯様々な言葉で褒め称えられながら、家に幼子を閉じ込め飢えさせていたなんて、どうやって信じろと言うのか。


「やめろぉぉぉ、そいつは嘘をついてる! 娘は家にいる。昔より元気になって⋯⋯」

「まあ! ミッドランド侯爵家に相応しい孤児をようやく見つけられたのですね。夫人が執事のクリフに『早く我が家に似合いの子を探してアレと入れ替えてちょうだい。アレが家にいると思うだけで気が滅入るから』と仰ってましたから」

 何度も聞こえよがしに話される会話。その後は決まってクリフが『お前が残念顔じゃなけりゃ用事が減ったのに』と文句を言っていた。

「出鱈目だ! タダじゃおかんからな、ぶっ殺してやる」

 ユーフェミアが気が短いのは父親譲りか?

「離籍届けはどうされたのですか? 役人に渡す賄賂は残っていないでしょう?」

「煩い煩い煩ぁぁぁい!」



「さて、どちらが本当のことを言っているのか⋯⋯賄賂に惑わされない法の番人がこの国にいるのなら、きっと真実がわかるでしょう。
もし、私や私の友人知人が不慮の事故に遭ったり行方不明になったら、どこかに私の口を封じたい人達がいると言うことかもしれませんね」

 静まり返る会場は重苦しい空気に包まれ、息をするのでさえ躊躇ってしまいそうになる。

 2階席から数人の男が降りてきた。

「ミッドランド侯爵とご家族の方には、お話をお聞きする必要がありそうですな。ご同行願います。それからコンプトンさんも⋯⋯詳しい話をお聞かせ願えますか?」

「はい。ですが知り合いに同行してもらう事は可能でしょうか?」

「勿論です。お時間の都合がつきましたらこちらへお越しください」

 ミリーに名刺を渡した男はミッドランド侯爵一家を連行して会場を後にした。





(最後までやり切った! とったど~じゃなくて、やったど~! ギルバートはいい仕事してくれたよ。んで、もっと頑張ってくれたのはメイナード先生だよね。ゾウさんって好物はなんだったっけ。今度差し入れ持ってかなくちゃ。
セオじいとターニャ婆とセリナさんと、熊とシモンとイリスに報告しなくちゃ!
どうしよう⋯⋯会いたい人が多すぎて震えが止まんない。
ミリー、やったよ。もうミッドランド侯爵家の奴等に怯えなくても良いんだよ。マーサさんとまた一緒に暮らせるかもだし⋯⋯)

 広い会場にはもう誰もいない。席に座りきれないほどいた大人達は、自分の子供を引き摺るようにして帰って行った。

 これから学園での所業を問い正されるであろう子供達は、暫く学校に戻って来れないかもしれない。

(もうミリーを怯えさせる奴はいない。そっか~、いや~、良かった~。すっごく良かったのに⋯⋯なんで私、泣いてるのかな)



 ホールの出入り口が空いて、背の高い男が入ってきた。

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