病弱設定されているようです

との

文字の大きさ
133 / 145
第八章 いざ、決戦!

24.いつもと変わらない優しさに包まれて

しおりを挟む
 ホールの出入り口が空いて、背の高い男が入ってきた。

 コツコツと革靴が音を立てミリーが立つ演壇に向かってくる。ユーフェミアと対峙していた時の迫力が消え失せたミリーは、今にも消えそうなほど影が薄く見えた。

「コンプトン、すまなかった」

 演壇の下から見上げ謝罪したのは、今まで姿を見せなかった理事長だった。

「⋯⋯」

「私は何も見えていなかった。君を批判する資格などなかった。あれは君の話なんだろう?」


『⋯⋯⋯⋯現に君は健康に育ち学園に入学もできている。あれだけの成績を出せたのも、勉強できる環境を整えてもらえたからじゃないか。君以外の平民の孤児で、これほど恵まれた者は他にいないと気付いていないのか?⋯⋯⋯⋯国を思う気持ちがないなんて残念だ。失望したと言ってもいい』


「私は恵まれています。良い人達に出会い助けられてここに立っているから。
生きる為に努力しました。でも、努力だけではここまで来れませんでした。今日の成功も理事長代理の許可があったからはじめられましたし」

「不敬上等⋯⋯とてもかっこ良かったよ」

「あれはドキドキしました。一か八かの賭けだったので」

「てっきり自信があるんだと思っていたよ。あれだけ大勢の前で勝負を仕掛けたなんて、誰も信じないだろうね。しかも、それが12歳の少女だ⋯⋯」

「途中で『待った』がかからなかったので、理事長の邪魔にはならなかったようですね」

「途中からそれどころじゃなくなってね、すっかり忘れていたよ。見事な話術と計算された話の流れに夢中だった。最後の最後まで目が離せなかった」

「お褒めに預かり光栄です」



「外に首を長くして待ってる人達がいる。コンプトンはとても愛されているようだね、コテンパンにされてきた」

「それは残念です。私がボコボコにしたかったのに、二番煎じじゃつまらないです。では、失礼します」



 ペコリと頭を下げたミリーは演壇の端の階段を駆け降りて、出入り口に向かって走って行った。思いドアを押し開けて⋯⋯。

「ただいま!」

「おかえりなさい」

「ミリー、凄かったじゃん!」

「出てくるのは遅かったけどな」

「ちょっと~、勝利の余韻に浸ってたって言うか~、ボケっとしてた」

 エルフで美魔女なイリス、破壊力抜群で性別不明な天使のシモン、かまいたがりで身体も心もでっかい熊なレオン。

「あれだけ喋ったら疲れるよのう」

「うん、頑張り屋のミリーらしい戦いだったね」

「いっちばん輝いてた」

「途中で喉からっからになってヤバかったんだよ~」

 狸で情報通なセオじい、怒りん坊で世話好きなターニャ婆、気配り上手で料理と裁縫が得意なセリナ。

「さて、帰るかのう。長いこと座っとったで、腹も減ったしのう」

「ミリー、セリナさんの料理が待ってるわよ」

「マジで!? いやっほお~、セリナさんだ~い好き。熊を置いて帰ろう、お腹ペッコペコだもん」

「チビすけ、なんで俺だけ置いてこうとすんだよ」

「熊は~、どんぐりと~蜂蜜も~ん」

「んなんじゃ足りねえよ。てかどんぐりは食わねえっての」


「はあ~、イリスのお茶が恋しいかも~」

「俺が淹れてあげるよ。この間より進化したんだ」

「え~、お腹壊しちゃうよお」

「んじゃ、セリナさんのメシは食えねえな」

「熊、退場! ネギーおじさんに言いつけてやるんだからね~」

「ネギーおじさん? なんだそりゃ」

「ネギーおじさんはね~、ネギを配り歩いてる気が弱くて優しいおじさんで、大好きだったの~。誰かの危機を察知したら変身して戦ってくれるんだ~。あ、トランクス!
ねえ、熊ってどんなパンツ履いてるの?」

「パンツってなんだ?」

「ああ、そうかぁ、ないのか⋯⋯イリスが履いてるのはドロワーズ?」

「えっと、それは何かしら」

「そうか、両方ないのか⋯⋯ねえ、セリナさん。綿布で作るトランクスとドロワーズに興味ない?」

「ト、トラ? ド?」

「えっとね男の人のシャツの前後って長くなってるじゃん。あの部分が汚れないようにズボンより先に履くのがトランクス。女性用はドロワーズ。形とかはかなり変わるけど。
ズボンとかスカートを汚さない為に履くもの。もっとシンプルな作りだけどね。例えば熊がお漏らししても、ちょっとくらいならズボンを汚さなくて済む。
ウエストはゴム紐がない⋯⋯綿布で⋯⋯ ポイントは用を足す時の⋯⋯作る時旦那さんの協力も⋯⋯販売はシモンに丸投げ⋯⋯」

 ミリーの頭が回転しはじめた。

「チビすけ~、誰が漏らすって?」

「ヤダな~、例えですよ~。た・と・え」



 いつものように軽口を言い合いながら笑いあい、おねだりを言って揶揄いあい、新しい商売を思いつき⋯⋯馬車に向かって歩き出した。

 夕陽が最後の力で窓ガラスを輝かせている園舎を背に、長くなった影がミリー達の後を追いかけていた。




 翌日からミリーは仕事の残務整理をはじめた。

 シモンに引き継いだ事業についてはアーノルドやビリーにも参加してもらい、事業の問題点の洗い出しと改善策。今後の方針や疑問点の最終確認と追加資料の作成。

 途中で足踏みをしていた郵便事業はレオンとアーノルドの兄カーライル子爵が引き継いでくれると言う。

 カーライル子爵は商人ギルドとの繋がりが深く、思ったより早く稼働できそうな予感がしている。ミリーは大株主となり経営にはノータッチ。

 今はHバックが主流のサスペンダーだが、XバックとYバックのデザインをして、トランクスやドロワーズのデザイン画と共にファイリングした。 

(やっぱり女性にパンツを作ってもらうのはハードルが高かったね~)



 オーレリアに長い長い手紙を書いた。大ホールでの事、仕事や周りの人達の事。

『王都の平民街でマーサが見つかり、本物のミリーが目を覚ましはじめている気がします。オーレリア様の要塞にいつかミリーを招待していただければ幸いです』


(誰にも知らせるつもりはないんだ。いつどうなるのか誰にも分かんないんだもん。それならいつも通りに暮らしていたいから)





「おはようごじゃま~す。イリス~、お願いがあるんだけどぉ」



  《 第八章 完 》

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

王族の言葉は鉛より重い

Vitch
恋愛
 フォークライン公爵の娘であるミルシェ。  彼女は間違い無く公爵の血を引く娘だった。  あの日までは……。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...