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第六章 夢か現か幻か

01.な、何が起きた!?わけが分からん

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 憑依したのか前世を思い出したのか分からないが⋯⋯眠りについたミリーと入れ替わり3歳にして自活をはじめた実里は、7歳で将来を悲観し翌年から本格的に動きはじめた。

 セオじい達に出会えたのが一番の幸運だっただろう。野菜の買い取りから始まったセオじいとの関係は、実里に足りない知識や情報の大半を埋めてくれたのだから。

 身元不明の8歳児を商人ギルドに登録させる為のネタを集めていた時、蕎麦農家アーノルドが抱える問題を知りセオじいと共に屋敷に乗り込んだ。

 当面の資金を稼ぐ為ラッセル伯爵に新しい農法の情報を売り、一時的な情報料と10年限定の収入を手に入れ、その時に見つけた密輸と脱税の情報はレオンに売りつけた。

 隣国の元子爵令息ビリーに木材とメープルシロップの事業を提案したのは『ミリー』の逃亡先確保の為。情報と事業資金を提供し永続的な収入を確保する事に成功している。

 アーノルドに骨や貝殻で作る肥料開発を持ちかけ、貝殻肥料の一部は早い段階で特許を取得できた。開発研究にはビリーの助力も大きく、アーノルドと共に開発者に名を連ねている。

 アーノルドとビリーは研究開発の合間に各農家への啓蒙活動を行い、貝殻肥料の購入者は既に2国だけでなくなりつつある。特許料に対する収益は増加の一途を辿り、次に発表される肥料にも期待が集まっているのが現状。

 アーノルドは蕎麦の普及によって国内の自給率を向上させた功績で男爵位を賜ったが、肥料の特許取得後に子爵に陞爵した。

 ビリーは楓材による木製軸受の特許とメイプルシロップの製造、肥料の開発で子爵位を賜った。

 9歳になる頃に多額の資金を手にして情報提供と出資をしたそれらの事業は、どれも順調に稼働しており収入は右肩上がり。

 安定した収入を手に入れた実里は次に郵便事業に狙いをつけた。情報収集と事業計画は順調に進んでいたが、最大の問題は人員の確保。信用できる人が少なすぎて頭を悩ませていた。

 異変が起きたのは12歳⋯⋯『ミリー』の世界の平民は仕事をはじめ、貴族は学園や修道院で学びはじめる年になる少し前の事だった。









 ピピピ⋯⋯目ぇ覚めたかぁ?
 ピピピ⋯⋯目ぇ覚めたかぁ?

 ピピピ⋯⋯起きて、ねぇ起きて、起きろやごらぁ

 ピピピ⋯⋯目ぇ覚めたかぁ?


(ううっ! まだ眠いのにぃぃぃ)

 ゴロリとベットから転がり落ち、煩く鳴り響く目覚ましをバンと叩いた。

(やっぱ別のに変えようかなぁ。このアラーム音、なんかすっごいイラつくんだよね⋯⋯って、アラーム?)

 床にぺたりと座り込んだミリー⋯⋯実里が部屋を見回すと昔懐かしい1DKの部屋が目に入った。

 少しベージュがかった白い壁紙と天井のシーリングライト、値段だけで選んだ安いパイプベッドと、それには似つかわしくないちょっと高級な羽毛布団。

 フローリングの床には濃紺のラグが敷かれ、若草色のカーテンの端から朝の日が漏れていた。

(いい匂い⋯⋯クンクン⋯⋯サフィニアだ)

 サフィニアは栽培が難しかったペチュニアを、日本の気候に適応できるよう品種改良したもの。

 初めての一人暮らしで張り切って育てている実里の大事な友達の『サフィ』ちゃん。

 白・薄紫・紫のコラボした花と生き生きとした緑の葉が、部屋に明るさと華やかな香りを運んでいる。

(『サフィ』ちゃんが元気って事は⋯⋯22歳の実里って事?)

 半分開いたドアからダイニングと呼ぶにはショボすぎるキッチンが見える。

 1人用のテーブルの上にはお茶のペットボトルと朝食用のメロンパンが置かれ、1脚しかない椅子には仕事に着ていくベージュのコートが引っ掛けてあった。

「は⋯⋯はあぁぁぁ!? ま、ま、待って待って⋯⋯昨夜はミリーだったよね!? シルバーブロンドと紫眼の残念顔の12歳で、でっかい屋敷に住んでる座敷童子で。美魔女とお喋りして、熊とビクスドールを揶揄って」


 ピピピ⋯⋯目ぇ覚めたか? 


「う、うるさーい!!」

 バンっと音を立ててアラームを瞬殺した実里はのっそりと立ち上がった。

「貴様は絶対の絶対にお蔵入りにしてやる! 覚悟しとけよ!」

 目覚まし時計に指を突きつけてから、一番に向かったのはもちろん⋯⋯。


  パタン⋯⋯ジャー⋯⋯


「はぁ、もう最高! トイレットペーパー様と上下水道様に心の底から敬意を捧げるよ。あ、ふかふかタオル様にもね」

 お茶のペットボトルを持ち上げて賞味期限を確認し、壁際で充電していた携帯で日付を確認した。

(よし、大丈夫⋯⋯えーっと、パンの賞味期限もオーケー)

 キャップを開けて、念の為匂いを嗅いでから一気に半分飲み干した。

「ぷは~! これぞニッポンの味、麦茶最高!!」

 メロンパンの袋を開けてちまちまと齧りながら、部屋の中を物色し始めた。冷蔵庫・ガス台の下・靴箱・押入れ⋯⋯。ついでに布団の上掛けも剥いで枕の下も確認。

(やっぱり⋯⋯実里の部屋だ。わかってたけどね⋯⋯って言う事は⋯⋯)

 ベッド脇のカラーボックスの下の段からタウンマップを取り出してペラりと捲ると、封のされていない真っ白い封筒が出てきた。

(中身はっと⋯⋯うん、減ってない。へそくりがここにあるって事は、間違いなく22歳の実里の部屋だけど、いったい何が起きた?)

 ミリーの記憶にあった実里は御年52歳の時、病気で亡くなっていたはず。その後、いわゆる異世界転生or憑依をしたのだと思っていたのだが⋯⋯。

 メロンパンの袋とへそくりを握りしめて首を傾げていた実里は、ふと時計を見て慌てて立ち上がった。

「ヤバい! 仕事に遅れる」

 分別は後回しだと言いながらメロンパンの袋をキッチンのゴミ箱に放り込み、パジャマがわりのスエットを脱ぎながら洗面所へダッシュ。

 歯磨き・洗面・着替えを済ませて、玄関先の鞄と鍵を掴んで飛び出した。

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