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第三章 ロケットスタート
10.正義を語れる者と許容できる不正を知る者
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ミリーがやったのはこの世界に新しい農地経営の手法を提案しただけ。
「ラッセルは三圃式農業を真っ先に取り入れて一躍有名人になったんだけど、最近は税収がやや下降気味の横ばい状態だし領地に籠りきりだったんだよね~」
飼料の確保は三圃式農業を行う者達の最大の悩み。収穫量を増やしたいなら人手よりも牛の方が効率がいいが、冬用の飼料が確保できなければ食肉を増やすだけに終わる。
「家畜だって役に立つくらいにまで育てるのは時間もお金もかかるじゃん。生き延びられるかどうか分かんないのにお金をかけて牛を増やして、手間暇かけて育てた挙句食べました~ってなったら、お財布だけじゃなく心にも大ダメージ喰らうよ」
農民達は国が徴収する高い税に加え人頭税や十分の一税を払わなくてはならず青息吐息、職人や商人達も複数ある税にお手上げの状態で、これ以上税率を上げるなど反乱を呼び起こすだけ。
「三圃式農業のお陰で人口はどんどん増えてきたけど、それに対応出来るほど雇用先を増やせるわけじゃないからね。ほっとけば必ず浮浪者が増えてスラムができる。
だから、大規模に農業をやってる人ほど農地を増やして雇用を拡大したいの」
資金力に余裕があるうちになんとかしなければと焦ってる時に、確実にそれが出来る方法があると聞けば飛びつくのは間違いない。
「三圃式農業をやってる大農場は以前より利益が落ち込んでるとこが多かったの。でも、ラッセルのとこは下降気味だけどほぼ横ばいで、それには大きな秘密が隠されてるはず」
「ラッセル卿の手腕だよね。なんか自信満々って感じだったもん」
「シモンは甘い、甘すぎるよ。人ってね、一度栄光を手にしたら、もう一回称賛されたいって思うもんよ。んで、そう考えてる人ほど上手くいっていないなんて絶対に知られたくないって思うからハリボテの鎧だって身に纏う。
で、新しい手法は他の誰よりも先に手に入れて、独り占めして自分だけが成功の喝采を浴びたいってなる。これが欲張り野郎の三段活用。あ、女もか⋯⋯」
新しい農地経営の方法があると聞けばラッセルは必ず手に入れたがるとミリーは確信していたが、念の為『この後で別の貴族と約束がある』とレオンに伝えさせた。
美味しい話を他の貴族に持っていかれるかも⋯⋯不安を植え付けられたラッセルは話を聞かないわけにはいかなくなる。ここでミリーの勝ちは確定した。
「長年頭を悩ませていた飼料問題が解決して農地も増やせる。喫緊の問題の雇用拡大の必要性にも有用⋯⋯それなら自分とこで手法を独占してやるってなったわけ」
その先駆者になればもう一度賞賛を浴びる事ができ、王宮や議会に大きな顔で出入りするだろう。
「ラッセルは大掛かりに密売してかなり溜め込んでるから、利益が横ばいでもあんな大金が出せたんだし気にする必⋯⋯」
「まま、待って待って! なんで突然密売なんて言葉が出てくるわけ?」
シモンと話しているラッセル卿は自信を持って領地経営を行う紳士に見えた。初めて聞いた農法に大金を投じる豪胆な性格や決断力に好感を抱いてシモンは帰宅したのだが⋯⋯。
「あのね、どこの領地も軒並み利益が下がってるのに、ラッセル領だけ横ばいなんておかしいじゃん。だから、ウチはなんとかやれてますよ~って言いたくて数字に下駄を履かせてるか、密売してる分を減らしたかのどっちかだなぁって予想してたの」
この国の貴族は自分の領地を国王に献上し、それと同じ領地を国王から貸し与えられ領地経営を行なっている。その代償として免税特権が許されたが、農民から徴収した税金は全て国に納めなくてはならない。その税率は40パーセントで、他国に比べれば高いとは言えないが農民にとっては死活問題にもなる程の税率。
「領主が国から貰える管理料は毎年金額が変わりはするが、領主の大事な収入源だ。んでも、そいつは値下がりする一方だし、人口増加で人頭税は今んとこ増えちゃいるが、雇用が増やせなけりゃ払えない者が増えてく。
自身の農地からの売り上げは丸々領主の収入になるが、悪巧みでもしなけりゃ領主達の金庫はからっけつだって言うぜ」
農民から税として献上された農作物や現金は徴税人が集めた後、一部を除いて商人に販売され、残された農作物と売り上げが国庫に入る仕組みになっている。
「領主が横流ししてるのが自分の畑からなら理解はできる部分もあるけどよぉ、徴税人と結託して農民を苦しめてるのは許せねえ」
徴税人は領主と手を組み脱税の手助けをしている者がほとんど。計量秤に細工を施したり、高額な手数料を上乗せしたりして私腹を肥やしている。
「領主達が大なり小なり収穫量を誤魔化して横流しをしているのは、公然の秘密になってるじゃない。頭のいい領主はちゃ~んと溜め込んでるわよ。ラッセルみたいに」
「ええぇぇ! マジですか!?⋯⋯まさか我が家もやってるとかだったら幻滅するかも⋯⋯」
15歳ならまだまだ正義を夢想できるお年頃。シモンを見つめる生温かい目は6つ⋯⋯。
「ラッセルは三圃式農業を真っ先に取り入れて一躍有名人になったんだけど、最近は税収がやや下降気味の横ばい状態だし領地に籠りきりだったんだよね~」
飼料の確保は三圃式農業を行う者達の最大の悩み。収穫量を増やしたいなら人手よりも牛の方が効率がいいが、冬用の飼料が確保できなければ食肉を増やすだけに終わる。
「家畜だって役に立つくらいにまで育てるのは時間もお金もかかるじゃん。生き延びられるかどうか分かんないのにお金をかけて牛を増やして、手間暇かけて育てた挙句食べました~ってなったら、お財布だけじゃなく心にも大ダメージ喰らうよ」
農民達は国が徴収する高い税に加え人頭税や十分の一税を払わなくてはならず青息吐息、職人や商人達も複数ある税にお手上げの状態で、これ以上税率を上げるなど反乱を呼び起こすだけ。
「三圃式農業のお陰で人口はどんどん増えてきたけど、それに対応出来るほど雇用先を増やせるわけじゃないからね。ほっとけば必ず浮浪者が増えてスラムができる。
だから、大規模に農業をやってる人ほど農地を増やして雇用を拡大したいの」
資金力に余裕があるうちになんとかしなければと焦ってる時に、確実にそれが出来る方法があると聞けば飛びつくのは間違いない。
「三圃式農業をやってる大農場は以前より利益が落ち込んでるとこが多かったの。でも、ラッセルのとこは下降気味だけどほぼ横ばいで、それには大きな秘密が隠されてるはず」
「ラッセル卿の手腕だよね。なんか自信満々って感じだったもん」
「シモンは甘い、甘すぎるよ。人ってね、一度栄光を手にしたら、もう一回称賛されたいって思うもんよ。んで、そう考えてる人ほど上手くいっていないなんて絶対に知られたくないって思うからハリボテの鎧だって身に纏う。
で、新しい手法は他の誰よりも先に手に入れて、独り占めして自分だけが成功の喝采を浴びたいってなる。これが欲張り野郎の三段活用。あ、女もか⋯⋯」
新しい農地経営の方法があると聞けばラッセルは必ず手に入れたがるとミリーは確信していたが、念の為『この後で別の貴族と約束がある』とレオンに伝えさせた。
美味しい話を他の貴族に持っていかれるかも⋯⋯不安を植え付けられたラッセルは話を聞かないわけにはいかなくなる。ここでミリーの勝ちは確定した。
「長年頭を悩ませていた飼料問題が解決して農地も増やせる。喫緊の問題の雇用拡大の必要性にも有用⋯⋯それなら自分とこで手法を独占してやるってなったわけ」
その先駆者になればもう一度賞賛を浴びる事ができ、王宮や議会に大きな顔で出入りするだろう。
「ラッセルは大掛かりに密売してかなり溜め込んでるから、利益が横ばいでもあんな大金が出せたんだし気にする必⋯⋯」
「まま、待って待って! なんで突然密売なんて言葉が出てくるわけ?」
シモンと話しているラッセル卿は自信を持って領地経営を行う紳士に見えた。初めて聞いた農法に大金を投じる豪胆な性格や決断力に好感を抱いてシモンは帰宅したのだが⋯⋯。
「あのね、どこの領地も軒並み利益が下がってるのに、ラッセル領だけ横ばいなんておかしいじゃん。だから、ウチはなんとかやれてますよ~って言いたくて数字に下駄を履かせてるか、密売してる分を減らしたかのどっちかだなぁって予想してたの」
この国の貴族は自分の領地を国王に献上し、それと同じ領地を国王から貸し与えられ領地経営を行なっている。その代償として免税特権が許されたが、農民から徴収した税金は全て国に納めなくてはならない。その税率は40パーセントで、他国に比べれば高いとは言えないが農民にとっては死活問題にもなる程の税率。
「領主が国から貰える管理料は毎年金額が変わりはするが、領主の大事な収入源だ。んでも、そいつは値下がりする一方だし、人口増加で人頭税は今んとこ増えちゃいるが、雇用が増やせなけりゃ払えない者が増えてく。
自身の農地からの売り上げは丸々領主の収入になるが、悪巧みでもしなけりゃ領主達の金庫はからっけつだって言うぜ」
農民から税として献上された農作物や現金は徴税人が集めた後、一部を除いて商人に販売され、残された農作物と売り上げが国庫に入る仕組みになっている。
「領主が横流ししてるのが自分の畑からなら理解はできる部分もあるけどよぉ、徴税人と結託して農民を苦しめてるのは許せねえ」
徴税人は領主と手を組み脱税の手助けをしている者がほとんど。計量秤に細工を施したり、高額な手数料を上乗せしたりして私腹を肥やしている。
「領主達が大なり小なり収穫量を誤魔化して横流しをしているのは、公然の秘密になってるじゃない。頭のいい領主はちゃ~んと溜め込んでるわよ。ラッセルみたいに」
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