病弱設定されているようです

との

文字の大きさ
49 / 145
第四章 ご利用は計画的に

08.都会っ子の珍道中

しおりを挟む
 エスキニア王国の関所からラバント領に繋がる街道を走っている途中でシモンが限界に達した為、急遽地図に記されている池で休憩をとることに決めたが、脇道に入って暫く馬車を走らせていると何度も車輪が轍にハマり座席から転げ落ちそうになる程の悪路になって来た。

「地図ではそんっなにかからないはずなんですっが⋯⋯おっかしいなぁ」

「ネ、ネイサン、だ、だ、だい、大丈夫なの?」

「いっえ⋯⋯だっいじょっぶどっころか⋯⋯みっちがが、なっくなって来ましった」

 馬車が何度も跳ねるせいでシモンも御者をしている従者のネイサンも真面に喋ることもできない。

 初めは馬車が悠々通れる道だった為安心して馬車を進めていたのだが、地面には雑草が生え放題で育ちすぎた枝が馬の顔に当たる。

 不快そうに首を振る馬がこれ以上暴れれば馬車ごと転倒しそうだ⋯⋯と考えたネイサンは道の真ん中で馬車を停め、地図を座面に置いて御者台を降りた。

「シモン様、これ以上馬車で進むのは無理そうなので、この先の様子を見て来ますね」

 馬車の窓から顔を覗かせている真っ青な顔色のシモンに声をかけてから、ネイサンは雑草に覆われた道を張り切って歩きはじめた。

(早くシモン様が休憩できる場所を探さないと)



 ベチャ⋯⋯



「ネ、ネイサン!」

 シモン同様都会育ちのネイサンが木の根っこにでも足を引っ掛けたらしく、思いっきり顔から雑草に突っ込んだ。

「だ、大丈夫です⋯⋯これしき、なんの問題も⋯⋯ぶ、ぶえっくしゅん!」

 ドアから転げ落ちて来た⋯⋯降りて来たシモンは青息吐息の有り様だが、よろめきながら土と枯れ草に塗れたネイサンの横にひざをついた。

「あーあ、可愛い顔が台無しになったね」

「か、可愛いだなんて揶揄わないでください。童顔なの気にしてるんですから」

 袖で顔をゴシゴシと擦るネイサンの耳が何故か赤くなっていた。

「怪我はしてない? そうか、なら僕も一緒に行くよ⋯⋯ほら、立って」

「へ?」

 手を差し出されたシモンの手を呆然と見つめていたネイサンが慌てて立ち上がった。

「だ、だ、大丈夫です!」

(シモン様のお手が私に差し出されて⋯⋯シモン様が私を慈愛の目で見つめて⋯⋯シモン様が⋯⋯いやいやいやいや、私は何を考えてるんだ!? シモン様は親切で手を差し伸べてくださっただけなのに)



 馬車をその場に残し馬の手綱を引いて歩きはじめたシモンの横を歩くのは、ピクニック用か(?)と勘違いしそうになるバスケットと毛布を抱えたネイサン。

「はぁ、馬車がますます嫌いになりそうだよ」

「シモン様は昔から馬車より騎馬の方がお好きですもんね」

「うん、あの閉鎖された空間が好きになれないんだよね~。それなのに最近は馬車の移動ばっかでさ⋯⋯⋯⋯ねぇ、池って本当にあるのかなぁ。道が違ってて迷子になってたらどうしよう。流石に野宿は無理かも」

 ネイサンが持っている毛布にちらっと目をやったシモンが後ろを振り返った。

「ほら、道標がわりに枝を折って歩いてますから大丈夫ですよ。池の近くで休憩すれば気分も変わりますって⋯⋯ほら、あと少し頑張って歩いて下さい。ラバント領に着いたら店を見つけてミントの葉を手に入れますから。そうしたら馬車の移動がもっと楽になりますからね。十分な量を準備していたつもりだったのにぜんっぜん足りないなんて⋯⋯」

 酔いに効くミントの葉が関所に着く前になくなり青褪めたシモンは、例の『憂いを帯びた空前絶後の美貌』を無意識に発動し、関所役人の思考を停止させ頬を桜色に染めた。

「よく分かんないけどさ、関所があんなに簡単に通れるなんてエスキニア王国は大丈夫なのかなぁ。平和だって言っても不用心すぎる気がしなかった?」

「⋯⋯いえ、あれはたまたまと言いますか、役人の思考が下の方に移動していたと言いますか。とにかく、他の時にはあり得ない事態だと思います」

「ふ~ん、よく分かんないけど⋯⋯それなら犯罪者とかのチェックはちゃんと出来てるって事だね。それなら大丈夫か」




 歩くこと30分、ようやく池を見つけ⋯⋯。

「池、澱んでるね」

 シモンとネイサンの頭の中にあったのは、降り注ぐ陽の光にキラキラと輝く水面と辺りに咲き誇る名もなき小さな花達だったのだが、目の前にあるのは膝下くらいの長さまで伸びた草に囲まれた薄茶色に濁った水面⋯⋯舞い散った枯葉が臭いの源かも。

「そうですね。これなら動物が寄ってこないから安全って事で」

「うん⋯⋯ちょっと臭うけど、安全は大事だもん」

「池は堪能したから馬車のとこに戻ろう」

「そうですね、その方が馬も喜びそうです」

 水があれば馬が喜ぶと思っていたが、シモン達よりも馬の方が先に帰り道に向かっていた。

「そうだよな~、あの水を飲めって言われたら誰だって嫌だもんな」

「ブヒン⋯⋯ブルル」





 ネイサンが敷いた毛布に座り込んだシモンがお茶でまったりティータイムをする横で、地図と睨めっこしている振りのネイサンはチラチラと横目でシモンを観察していた。

(シモン様は少しお元気になられたみたいだ。目的地の惨状はともかくとして散歩はシモン様に有効だったのかも)

「あ、このハーブティーは気分がスッキリする」

「今回の物は疲労回復に働きかけるマテ、体調を整えるペパーミント、心身のストレスを解消するローズマリーのブレンドです」

「ペパーミントだから爽やかな味がするんだ。昨日のリンデンとレモングラスのも美味しかったし、ネイサンは物知りだからとても助かるよ」

「レモングラスはすっきりとした香りで気分をシャキッとさせてくれますし、甘さのあるリンデンを加えることで飲みやすくなりますから⋯⋯と言っても、全部ミリーさんの受け売りですけど」

 出発前にミリーに言われて準備したハーブは疲労回復とストレス解消がメイン。苦手な馬車に長時間乗り、シモンが向かった先に待ち受けるのは領地経営のエキスパート。

(交渉が決裂したらミリーに『もっかい行ってこ~い』って言われてギルドから叩き出される⋯⋯ガクガクブルブル⋯⋯やっぱりもう一度資料を見直しておこう)

 出発前からすでに落ち込んでいたシモンは馬車に乗っている間、資料と言う名の指示書に何度も何度も目を通した⋯⋯馬車酔と疲労が激しいのはそのせいもあるような。


「はぁ、そろそろ出発しないとまずいよねぇ」

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

処理中です...